11話
神社で一晩過ごし、朝を迎える。どうやら今日も学校は休みらしい。
雀の鳴き声で目を覚まし、古くさい布団から起き上がる。ちなみにパジャマの代わりは寝間着を貸してくれたのでそれを着ていた。
障子を開け居間へと入る。中心に置かれている机には既に4人分の朝食ができていた。すると奥の部屋から天空さんが入ってくる。
「あ、おはようございます」
「おはよう、よく眠れたかな?」
薄型テレビも置いてあるこの居間は、中々に広かった。20畳ぐらいかな?今自分が通った外廊下からは綺麗な庭が見られた。大きな神社だ。普通の物とは比べものにならない。
「あの疾東は……金髪の女の子は……?」
「まだ眠っているよ、命に別状は無いから安心して」
「そうですか……」
内心ホッとし、自分がやってしまったことの重さを痛感する。
触渡君は私のせいじゃないと言ってくれたが、とてもそうとは思えない。
例えそのパネルってやつに操られても、私が彼女を殺そうとした。
あの両手で命を奪おうとする感触は、まだ残っている。物が持てるかどうか危ない程だった。
「風成さんおはよう」
「あ、触渡君」
すると自分の後ろから触渡君も来た。まだ眠いのか目を擦っている。
座布団の上に座り、朝ご飯を頂く。
その味はとても美味しく、数日前触渡君が食べさせてくれた弁当と同じ味付けだった。どちらも天空さんが作っているから当然だが。
するとテレビに映っているニュースで、女子アナの声が耳に入る。
『昨晩通り魔事件が発生しました。被害者の数は7人。どの方も両足を折られています』
その内容を聞いてその場にいた全員が画面に注目する。そこには事件現場の映像が映し出されている。壁に穴が空いていたり地面がへこんでいたりと騒然としていた。
おそらく昨日の怪字ってやつがやったのだろう。彼の話によると怪字は目に入った人全てに攻撃するらしい。その7人は運悪く出くわしてしまったに違いない。
『近隣住民の方は、外出はなるべくお控え下さい』
このまま放っておくとどんどん被害者が出てしまう。もしかしたら家にまで入りこんでくるかも……
話を聞かされた後スマホで色々調べてみた結果、怪字の事は都市伝説として認知されていた。それに関するスレが何個も出て来たが、あくまで公にはなってなかった。
「急いで倒さないとな……」
「はい……そうですね、御馳走様でした」
彼はそう言うと箸を置き、勢い良く立ち上がる。
その目つきは普段見ている弱々しい物ではない。闘争心溢れる目だ。声もピシッと張っている。
「どうするの?」
「とにかくあいつを探してみるよ。天空さん、風成さんをお願いします」
「傷はもう大丈夫なのか?無理をするな」
「大丈夫です。だけどこうしている間にも一般人が襲われていると思うとじっとできません!」
そう言って彼は隣の部屋で着替え、そのまま外へ出る。
傷もまだ完治していないのに彼は戦おうとしている。これ以上人が傷つけられたらと思うのは分かるがそこまでして怪字と立ち向かう理由が分からない。
それを表情で読み取ったのか、天空さんが口を開く。
「あいつはぁ……怪字によって友達を殺されているからな」
「えっ……!?」
衝撃的な言葉が私の中に入る。
友達が殺された?怪字によって?
「いや……殺されたというより『殺させられた』か……」
「……っ!」
その言葉の意味を悟ったと同時に口を抑える。
殺人教唆でもされたかのような口ぶり、つまり私と同じ……
「パネルに操られて……?」
「ああ、あいつが小学六年生の時だ。仲の良い友達が二人いたんだ。だけど偶然その二人のパネルと発彦に寄生していた2枚のパネルが四字熟語だった。あいつはそれで……」
声も出ない。12歳の少年が耐えられる事じゃない。
何だか自分が恥ずかしくなってくる。私はまだ殺人未遂だが、彼は殺してしまったのだから……
「幸い事故として処理されたが、両親はそれで発彦を見捨ててどこかへ行ってしまった……」
「あっ……」
俺の親代わりになってくれてる人、俺昔両親捨てられてさ。
大丈夫さ……自業自得だしね。
彼が言っていたこの言葉、そういう意味だったのか。
彼は、私より悲しい境遇にいたのに、私を慰めてくれていた。
「もう知っていると思うが……あいつは怒るのが嫌いだ」
「はい、そう言ってました」
「その理由も、それに関係しているんだ」
「——えっ?」