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爆発寸前な男  作者: ZUNEZUNE
第九章:アジト突入
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117話

一方俺、勇義任三郎は「電光石火」のパネルの使い手である火如電と対峙していた。特異怪字でもあり卓越した棍棒の使い手、こいつの強さは四字熟語の能力というよりかは棍棒の技術の方が占めているだろう。

それに加えさっきの網波課長の連絡だ。ここの連中は俺たちの作戦に感づきとっくにこいつら以外は逃げていたと思ったが、包囲網を無理やり突破しようと考えるぐらいの戦力は残していたか。人造パネルによる怪字兵か?それとも別の特異怪字か?詳細を知りたいが一向に向こうと連絡がつかない。


「どうした?外の方が不安か?まぁあの海代天空や宝塚刀頼がいるなら大丈夫じゃないのか?」


と、火如電がこっちの状況に寄り添うような挑発をしてくる。確かに包囲網には怪字退治のベテランであるあの2人がいる。なのでよっぽどのことが無い限り大丈夫だろう。

――いや待て、何故こいつが天空さんたちの名前を言えた?もしかしてこいつら作戦内容だけじゃなくその人員の配置まで知っているのか!?

作戦自体がバレていたと分かった時は、どっかから嗅ぎ付けたのだろうと納得したが、流石にその詳細まで知られているとなると話は別だ。風の噂でもあるまいし何故そんなことを知っている?というよりどこで手に入れた!?


(――ッ!まさかとは思うが……今回の作戦に参加している誰かがスパイ……つまり裏切り者がいるのか!?)


そうじゃないと火如電がこちらの立場にいるように装って挑発なんかできるわけない。スパイ裏切り者までとはいかないが、こちら側に情報を流している存在がいるのは当たっているかもしれない。

誰だ!?どこの所属だ!?前代未聞対策課(うち)の人間かそれとも怪浄隊の隊員か!?


(いや待て、確かにそれは大事なことだが…今はこいつをどうにかしないと!)


取り敢えず今俺がしなければならないことは網波課長の心配や裏切り者の特定でもない。目の前の火如電を逮捕することだ。裏切り者のことなんかはこいつを捕まえた後に聞き出せばいい。

拳銃を握りいつでも引き金が引けるよう指を入れる。こいつは棍棒を主体とした近接格闘家、ならば銃が有効的だろう。いざとなったら隊員に機関銃を撃ってもらうつもりだ。

すると火如電は棍棒を振りかぶりながらこちらに跳び掛かってくる。

今、接近されるのはマズイ、銃口を向けて止めるべく発砲。しかし銃弾は全て棍棒によって弾かれ、奴が目前まで迫ってきた。


「でやぁ‼」


「ぐっ……このッ!」


そうして振り下ろされる棍棒に対し、十手に持ち替えてガードする。瞬間金属音が鳴り響き、ビリビリと腕が痺れた。

火如電は「電光石火」の「1秒間誰よりも速くなれる」能力を使用、自分の一撃を受け止めた十手をそれで何百回と連打し払いのける。

そうやって俺の前をガラ空きにし、そこを何度も突いてきた。全身を点々と痛みが襲ってくる。


「これ以上させるかぁ!!」


こいつの攻撃をこれ以上受けていたら不味い、さっき弾かれた腕を伸ばし十手で棍棒を地面に抑え込んだ後、足で棍棒を踏み十手を奴の頭部に叩きつけた。

浄化の文字が書かれた十手は痛かろう、その証拠に俺の足を退かして棍棒を第三の足として体を支えている。よっぽど頭を打たれたのが効いたと見た。


「ぬぅううらぁああああ!!!」


すると火如電はすぐに姿勢を直し棍棒で何度も叩いてくる。俺も十手でそれを受け止め続け、たまにはこっちから殴りにいったりもした。

棒と十手の打ち合い、互いの武器が衝突し合う度に衝撃と痺れが腕に伝わってくる。足を強く踏み込み打ち負けないよう必死に食いついて殴り合っていた。

ここで奴の棍棒が俺の右手を強打、思わず持っていた十手の手を放してしまうも、すぐに逆手に持ち直して力強く首元に打ち付けた。


「ぐぅおおお……!!がぁあああああああああッ!!!」


「ぐあぁッ!!」


その一撃に怯み少しだけバランスを崩したが、すぐに前のめりになり棍棒を振りかぶり左足を思い切り打ち、足払いのように宙に浮かせた後棍棒で地面に叩きつけてくる。

前と後ろ、両方に激しい苦痛が挟み込み一瞬だけ意識を失いかけてしまう。しかしすぐに立ち上がり、地面を蹴って奴の懐に潜り込んだ。

ここまで中に入れば棍棒でも殴れまい、奴の腹部に銃口を押し当てゼロ距離から何度も撃ち始める。


「うぐ……ッ!?」


その際腹部の筋肉を引き締めたのかゼロ距離から撃ったのに貫通しない。だが浄化弾は体内に残ったままの方が効果的なのでその抵抗は寧ろ逆効果だ。

銃の威力でそのまま後ろの倒れそうになるも片足で支え、そのまま後退する。すると足元に散らばっていた機械の破片などを棍棒で掬い、こちらに放り投げてきた。


「ちっ――猪口才なぁ!」


向かってくるガラクタを十手で叩き落としながら何とか避けていく。棍棒だけで攻撃してくると思っていたら、意外とせこいというか色々考えて行動しているな。

しかし向こうが自ら近接戦を止めてくれるのはありがたい。その方がこちらも拳銃を最大限に活かせるからだ。このまま遠距離から一方的にいかせてもらうぜ!!


「――何てね!こっちが本命だよッ!!」


「なっ――ッ!?」


飛んで来た破片に手こずっていると火如電が一瞬で背中を取られてしまう。このガラクタ攻撃は俺の意識をそれらだけに集中させるための囮、その隙に俺の後ろへ回り込んできた。

すると奴は棍棒を俺の首の前に通しそのまま首を絞めてくる。


「ガハッ……げほっがっ……!!」


「このまま落としてやるよ!!どうだ!?」


咄嗟に首元の棍棒を引き離そうと十手を手から離す。何とか緩めようと首と棒の間に指を入れようとするも締めるのが強すぎて隙間が無い。

拳銃を取り出してすぐ後ろにいる火如電を撃とうにも脳の生存本能が手を首元から放させてくれない。次第に意識が遠のいてきた。

そんな中、怯えた様子の隊員がチラリと目に入る。そうだ!彼の機関銃で何とかしてもらおう。

気絶しないよう気をしっかり持ち、口パクと目つきでどうにかそれを伝える。こちらの意図は理解してくれたが青ざめた表情で首を横に振った。

そう言えば最初の方も私に当たる可能性があるから撃たなかった場面があったな、しかしあの時と今とじゃ状況が違う。

――安心しろ、絶対に避ける!何とかそれを必死に訴えかけた。早くしないと気を失って避けることもできなくなる…!

するとようやく分かってくれたのか、銃口をこっちに向けてくる。今なら奴の視線は俺ばっかりに行っていた。やるなら今だ!


「――や……れっ……ッ!!」


最初は少し躊躇したがちゃんと引き金を引き、無数の弾丸をこっちに撃ってきてくれた。

その銃声が耳に入った瞬間薄れる意識の中で「今やらなきゃ俺も死ぬ!!」と弱ってる自分を振り立たせ、腹筋を最大限に使い()()()()()()()()()()()


「何……ぐあああああああッ!!??」


その為奴の腹はガラ空きとなり、大量の浄化弾がその体に撃ち込まれていく。俺の弾も効くがそれはもっと効くだろう?


「ガハッ……たっぷり味わいやがれぇえ!!!」


撃たれた衝撃で棍棒の力も緩みその隙に脱出、落とした十手を拾い上げまさしくハチの巣のようになったその腹を思い切り殴打した。

銃痕に十手を叩きこむ、これが効かない訳が無い。相当のダメージになったはずだ。

今だから言えるが大分無茶をしたな。多分首を絞められていて苦痛の中にいたから正常な判断ができなかったのだろう。撃つ方も撃つ方で、味方ごと敵を撃つなんて気が気じゃなかったに違いない。これは後で謝っておこう。

そう、こいつを倒した後にたっぷりに。


「このっ……よくもやってくれたなぁ…ッ!!!!」


するとまだ暴れる体力と余裕があるのか、棍棒を今まで以上に乱暴に振るいこっちに襲い掛かってきた。こっちもさっきまで意識を失いかけたので拳銃を握っても狙撃は無理だろう、ならばここは男らしく、十手で受け止めてやる!


「文句があるなら取調室で嫌という程聞いてやるよぉ!!!」


真正面から迫りくる奴の棍棒を十手で堪える。もうここまで来たら衝撃も痺れなんて関係ない、ひたすら殴り続けてぶっ飛ばす!!

ここからは正真正銘の殴り合い、十手と棍棒が何度もぶつかり合い、互いの体を何度も打ち続ける。奴の体にヒビが広がっていき、俺も殴られる度に血を吐いた。

すると奴の殴打が俺を横に殴り飛ばす。しかし着地と同時に地面を蹴り、再び跳びかかってその顔を十手で突いた。


「ぐぬおおおおおおおおおおおッ!!!」


瞬間奴の額が割れ、そのまま倒れそうになるもすぐに態勢を立て直す。そして頭を突いた俺を棍棒ではなく足で蹴り上げた。

一度天井にぶつかった後落ちる俺を、両手で握った棍棒でボールのように打ってくる。


「ぐおがぁッ!?」


何度も床をバウンドしようやく止まった。バットのように殴られる際背中を強く打たれた、流石に背中は二重の意味で痛い。

しかし俺も、ただ殴られたわけじゃない。


「なっ……手錠だとッ!!」


打たれる際にこっそり片手の方の手首に手錠を掛けておいた。しかも鎖が長い方じゃなくて普通の人間サイズの物をだ、これでもうあの棒捌きを封じたようなものだ。

ここが畳みかけるチャンス!!俺はそのまま走り出し、歯を食いしばって十手で殴りまくった。火如電はそれを受け止めようとするも、何しろ両手に手錠がついているのだ、さっきまでのようにはいかない。


「おらぁあ!!このっ!!どらぁあ!!」


そこから十手の滅多打ち、遅くなった棍棒の動きを余裕で躱しながら全身に十手を叩きこんでいく。首を突き、足を打ち、腹を殴る。


「――調子に乗るなぁあああああああッ!!!!」


すると奴はまたもや足で俺の手を蹴り飛ばし十手を遠くへやった。近接武器が使えなくなったので勝機が見えたのだろう、ニヤリと笑い両手で棍棒を握り振り下ろしてきた。

しかし、「バンッ!!」という音共に衝撃に押されてバランスを崩す。


「なっ……何故(それ)を使える……ッ!?」


俺が銃口を押し当てて撃ったのだ。

確かに首を絞められた直後で銃は使わなかったが…俺は()()()()()と言っただけで、銃自体が撃てないとは一言も言っていない。

そこから至近距離で足を撃ち抜き動けないようにする。すると立つのも困難になったのかドサッと背中から倒れた。


「こ、このッ…!!」


両手を拘束されながらも落とした棍棒を拾い上げようとするも、俺が蹴飛ばして遠ざけた。

そのまま右足で両腕共に踏みつけ動けないようにする。そして倒れこむ火如電を見下ろすような形になり、そっと拳銃を突き付けた。


「――神妙に、お縄につけ」


そう言った後発砲、脳天に風穴を空ける。するとその体は崩れていき、中の人間だけが残った。


「うぅ……ごめんなさい先生……ごめんなさい」


すると火如電は、怪字の体が失われたせいかその性格も気弱なものへと戻り、両手で顔を覆った。

この謝り続ける姿を見て、ようやく勝利の実感に身を浸す。冷や汗を流して口角をそっと曲げた。

落ちた「電光石火」の4枚を回収した後、体が崩壊した際外れた手錠を拾い上げ火如電に付けようとした瞬間、突然血反吐を吐いてきた。


(しまっ――毒薬か!!)


「――ああ、でも先生。最後まで僕は役立たずでしたが……貴方の為に戦えて光栄でし……た……」


そして最期にニッコリ笑い、そう言い残して静かに息を引き取る。

……また救えなかった。確かに情報を聞き出したかったが、何も見殺しにするつもりでもなかった。例え敵だろうが、人の死に立ち会うというのは何とも悲しい。こればっかりは、どんなにイケメンでかっこいい刑事の俺でも慣れない。


「先生、か」


最期まで口を開けば先生先生、どうやら相当その先生たる人物に心酔していたようだ。最もそんな自分を見捨てたのもその先生だが。

……俺は今、()()()()()()()()()。確かにこいつは死んで当然の人間かもしれなかったが、こんな死に方は流石に報われなさすぎる。

じゃあ誰に怒っているのか?先生――恐らく呪物研究協会エイムのボスであり元凶、そいつさえいなければこんなことにはなっていない。

どうやら、真に倒すべき敵が見えてきたようだ。


「勇義刑事!!無事ですか!?」


「はっは……ちょっと肩を貸してくれ」


私は隊員に助けてもらいそのまま部屋を出る。

そうだ、こんな所で立ち止まっているわけにはいかない。火如電は「僕たち」と言っていた。つまり他にまだここに残っている仲間がいるはずだ。

よく耳を澄ませば戦いの音が他の所から響いている。まだ戦いは終わっていない。

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