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爆発寸前な男  作者: ZUNEZUNE
第九章:アジト突入
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109話

「風成さん、一緒に帰らない?」


「え!?あっいいよ勿論!」


いきなりだった。いつもは私の方から誘うのに今日は触渡君の方から一緒に帰らないかというお誘いが来た。別にどっちから誘うが同じことなのでそこまでおかしなことじゃないけど、私はいつも以上に慌てふためいてしまう。

何故なら昨日、あんなことがあったからだ。寒い体育の話から発展してマフラーやコートのなどの防寒着の話になったあの時、彼はマフラーを買うか迷っていた。

だから私は、少しでも彼との距離を縮めようと勇気を振り絞って触渡君にマフラーを編もうかなと言ってみた。そうしたら彼もこっちに振り向いてくれないかなと淡い期待を込めて。

急にそんなことを言ったから触渡君も私もお互いにテンパっちゃって、向こうもそれを頼んできた。これで触渡君が私にどんな想いを抱いているかは分からない。もしかしたら急に何言ってんだと引いているかもしれない。

とはいえ彼に何かできることには変わりない。普段怪字との戦いに明け暮れて疲れているだろう触渡君を、マフラーで癒せたらいいなぁという使命感を帯びて昨晩から編み始める。

それによりやる気がどんどん湧いてきて時間も忘れて編んでいく。とっくに夜中になっていることをお母さんに言われないと気づかないくらいまで没頭していた。そのせいなのか少し寝不足気味だ。午前の授業なんかほぼウトウトして周りに声をかけられる始末。

その際珍しく触渡君が何もしてこなかった。こういう言い方はどうかと思うけど私じゃなくともクラスの誰かが授業中に眠たそうにしていれば「疲れてるの?」と普段は声をかけているのに、今日の彼は授業に熱心に見えたけど他の何かのことを考えているようだった。

そうして今彼は私に声をかけてきた。何か考えがあるのかな?昨日のように少し取り乱したけど断る理由も無いので一緒に帰ることに。


「また寒くなってきたよね、俺の家神社だから広くて暖房が効きにくて……」


「大変そうだね」


雑談混じりの下校、これは珍しくないけどやっぱり今日の彼は何かいつもと違う。ちゃんとこっちを見て話しているのにその目は別の何かを見ているようだった。

やっぱり、怪字やパネルのことで何かあったのだろうか?気になるけどこれは私が踏み込んでいい世界の話じゃない。もしそうして巻き込まれでもしたら、一番悲しむのは彼自身だ。

ここは会話を続けて様子を見よう。


「そう言えば昨日言ったマフラー、月曜日に持っていくね」


「本当!?ありがたいよ!」


昨日は触渡君もマフラーの件で慌てていたのに今はそんな様子も素振りも見せず、落ち着いた様子でいつも通りに振る舞っている。それが普通なのにそれが逆に不気味だった。

一体この違和感は何だろう?彼との会話を続けながら今までに会ってきた人の様子と照らし合わせてその正体を探っていく。やがて数分、ようやくそれが何なのかが分かった。


「触渡君……ひょっとして何か隠してない?」


「……え?」


そうだ、今の彼は何かを隠している。それも重要なことを。

人というのは何か隠し事があったらそれを悟られないよう「いつも通りの自分」を演じようとする。しかしそれは自然体ではなく()()()()()()()()()()()ことと同じだ。他人に知られていない何か、触渡君の性格からして何か迷惑をかけてしまってそれを隠しているというような子供じみた内緒ごとじゃない。

じゃあ一体何か?それは普段から彼が周りに隠していることである「怪字」のことだろう。今の触渡君は私にパネルのことを話す前の雰囲気だ。つまり、怪字のことを知っている私だからこそ話せないという訳だ。


「今日の触渡君、何か変。絶対何か隠してるでしょ?」


「……」


てっきり誤魔化そうとしてくるかと思ったけど何の弁解もしてこない。足を止めてジッと見つめる私に対し顔をそらして黙り込む。つまり隠していることは当たったんだ。

確かに私は、彼――いや彼らの世界に入るには相応しくない人間かもしれない。だけど触渡発彦君という1人の人間が命を懸けていることを知って、それらを知る権利は自分には無いと言い切れる私じゃなかった。

正直毎日不安だった。明日はちゃんと学校に来るだろうか?今頃傷だらけになっているかもしれない、もしかしたら怪字に殺されているかもしれない。最近布団の中で考えることはそれだけだ。もしという不安に駆られ、胸がゾワゾワっとする。

何か隠していることが分かった時も、色々な考えが脳を過った。怪字との戦いにて大怪我を負って余命が少ないとか、現実感が無い妄想までしてしまった。このままだと詳しいことが分からないまま私はこの不安に襲われ続ける。だから何を隠しているか知りたい。例え何を伝えられようが知らないよりかはその方がマシだ。


「……実はね」


やっとのことで彼が口を開く。もう何を言われても驚かない。ありのままの彼を受け入れる自信はできている。そう思っていたが……


「ジャジャーン!見てよこのグローブ!」


「――え?」


触渡君が見せてきたのは手袋、いやグローブかな?自慢するかのようににこやかに笑いそれをポケットから取り出して見せてきた。

しかしデザインや厚さから見て、普通のグローブじゃない。


「知り合いが作ってくれた専用の武器!風成さんにはいつか見せようかなぁ~と思ってたけど、バレちゃったから今見せるね!これが凄いんだよ!燃えないし切れないし痛くなくて……」


(――ああ、そういうことか)


一瞬彼が何を言っているのか分からなかったが。その早口の様子を見てようやく納得がいく。()()()()()()()()()()()()

彼がいくら自分専用の武器を貰って嬉しいとはいえ、私なんかに見せびらかすような人間じゃないことは理解している。粗方本当のことを話したくないから適当にそれを見せて注意を他のものに移動させようとしている。

つまり、()()()()()()()()()()()()なんだ。


「……へぇ~!凄いね!」


――だったら私も、あまり深追いはしない。見事誤魔化された振りをしてこっちが触渡君を騙す。

まだ誤魔化そうとしていることには怒らない。何故彼がここまで隠し通そうとしているのかは正確には分からない。だけどそれは、私を想ってのことだというのは分かる。

彼は、触渡君という人は自分より他人を大切にする人だからだ。だったら無駄に詮索しないほうが彼の迷惑にもならない。

……そうだよ。私なんかが出しゃばっても何にもならないんだ。何でそんなことも気づけなかったんだろ?この間なんか無駄に彼を心配したせいで攫われて人質となってしまい、逆に迷惑をかけてしまった。


「だったらそれ手袋にすれば、私のマフラーもいらないんじゃない?」


「えぇ!?このグローブ暖房性は無いんだよ!マフラーは欲しい!」


じゃあ今は、こうして1人の友人として彼と付き合っていけばそれだけで満足だ。それが、好きな人への一番の思いやりだから――


「じゃあまた来週ね!マフラー期待してて!」


「おう!本当にありがとう!」


こうして今日は彼と去った。

私には精々マフラーを編むことが彼の役に立つことだ。こうなれば世界一のマフラーを作ってあげよう!それが一番だ。


(色はもう決まってるから……肌触りとか気を付けないと!触渡君多分戦いに夢中で肌ボロボロだと思うし……それで……)


――私なんか何にもできない。自分の頭が出した答えを何とか否定しようとマフラーのことばっかり考えたけど無理だった。

何もできない自分が悔しくて、涙を堪えられない。目から大粒の涙を出してしまう。

こんな自分が()()()()()()()()彼と結ばれたら、私は近くにいる身として何かできるだろうか?だったらこの気持ちも忘れてしまった方がいいのかな?

……それこそ無理な話だ。彼を好きというこの気持ちには、嘘はつけない――そう思うと、また涙が出る。









……ごめん風成さん、いくら君とはいえ……いや君だからこそこのことは言えない。

明日に行われるエイムのアジトへの突入作戦。その作戦の突入組に任命されたなんて言えば、優しい人柄である彼女をどれだけ心配させてしまうか……

今日は明日の突入作戦への決意を深めるために、一番守りたいと思っている彼女と帰ることにしたが、それが逆に仇となってしまった。

何か隠してる?って聞かれた時は肝が冷えた。普通に振る舞っていたはずなのにどうしてバレたのか。何とか誤魔化せたはいいが凄い洞察力だなぁ。いや、自分の演技力が乏しいだけかもしれない。

だからといって彼女の嘘をつくというのは何とも心が痛む。もしかしたら話した方が彼女にとって良かったかもしれないが、あの作戦は敵にバレた時点でアウト、情報をできる限り漏らすなと釘を刺されている。

――俺は怪字と戦うためにこんな嘘をついた。()()()()()()()、彼女と結ばれたとしても自分はこれからも怪字と戦っていくだろう。そうなったら何度も彼女を心配させてしまうし、明石鏡一郎の時のように巻き込んでしまうかもしれない。

だったらこの恋心は、表には出さずにずっと隠していた方が良いかもしれない。それが彼女の為ならば、俺は喜んで自分の心を殺す。

あくまで隠すだけだ。風成さんのことを忘れるなんてことは、死んでもできないだろう。俺は1人の女性も諦めきれない、情けない男だ。

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