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爆発寸前な男  作者: ZUNEZUNE
第一章:爆発寸前な男
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10話

私と疾東は触渡君の家へと向かう。疾東は彼に抱えられて尚まだ意識が戻らない。

……私がやったのか?

だとしたら、とんでもないことをしてしまった。

何かに身体を乗っ取られる感触があった。私は(なにか)の暴走をただ黙って見ていただけだった。

疾東の苦しむ顔が、脳裏から離れない。

怖い、彼女を殺そうとした自分が怖かった。


「風成さん……?」


罪の意識でボーッとしてたのか、いつの間にか彼の家へと着いた。触渡君の声が意識を取り戻してくれた。

気付くと汗だくだ。冷や汗が体中に纏わり付く。


「発彦!傷だらけじゃないか!」


袴を着た男性がこちらに走ってくる。触渡君が話していたこの神社の神主の天空さんだ。

そのキリッとした顔は触渡の傷を見た瞬間、焦燥感に駆られた表情になる。


「今手当てする!」


「あ、後……彼女たちも……」


すると天空さん(?)がこっちに気付く。


「君は……発彦のクラスメートかい?とにかく上がると良い!」




天空さんは疾東を手当てすると触渡君に移行する。

彼が治療を受ける為に服を脱いで上半身をさらけ出す。そしてあの化け物にやられたダメージがより鮮明に見えた。

青い打撲、そして破片が刺さった切り傷など。見てて辛い物だった。

消毒液を塗り、包帯を巻く。顔には絆創膏。

そう言えばいつの日か顔が絆創膏だらけの彼を見たことがある。今考えるとあの傷も怪物との戦いのせいなのかな?

でも何で彼が怪物と戦っているのかが分からない。そして彼が使った()もだ。

金色のバリアに、四方八方からの攻撃も防げる能力。どれもこれも見たことも聞いた事も無い物ばかりだった。


「……説明して、あの怪物の正体と……触渡君のことを」


私は緊迫とした空気の中彼に問いただす。一刻も早く真相を知りたいからだ。

彼は観念したのか私と対に座る。天空さんはそれを離れて見ている。


「……分かった。まずはこのパネルのことを教えるよ」


そう言うと彼は懐から1枚の木のパネルを取り出す。それには墨字で「即」と書かれていた。

大きさは約5㎝の正方形。表面は薄汚れていた。しかし漢字だけは綺麗なままだ。


「これは『呪いのパネル』と呼ばれている物……戦国時代に中国から渡来してきた賢者が作ったと言われている」


「呪いのパネル……?」


すると彼は持っている全てのパネルを見せてきた。全部で15枚だ。そこに書かれている漢字は色んな種類があった。中には私が見た「八方美人」の4枚もある。


「4枚組み合わせる……つまり()()()()()()()()不思議な能力が使えるようになるんだ。例えば『八方美人』、これは『あらゆる方向からの攻撃に対処することができる』……みたいにね」


八方美人の「八方」は「あらゆる」という意味。そして全体としての意味は「誰に対しても(八方)才女無く振る舞うこと(防御)」。この意味が由来だろう。


「今僕が持っているパネルは呪いの力を抜いたやつ。そしてさっきの怪物は、呪いのあるパネルから生まれた『怪字』というものなんだ」


「怪字……」


さっきから聞いた事も無い単語を耳にして頭がどうにかなりそうだ。普通ならこんな話信じないだろうが状況が状況なので信じざる負えない。


「パネルは人の心の中に寄生しているんだ。疾東さん、雷門さん、迅美さん、そして風成さんにも寄生していた」


「わ、私も!?」


まさか私の中にそんな物があったなんて思いも寄らなかった。

自分の胸に手を当ててみるけど何も感じない。


「今は無いよ。もう出た」


「……()()()()?」


「屋上で鳥みたいな怪字を見たよね?あれは風成さん達のパネルが合体してできたやつなんだ。怪字は暴れ回るだけの存在。すぐ倒さないと行けない」


「私の……パネル。そう言えば私が疾東の首を絞めちゃったのも……」


「パネルとパネルは四字熟語になろうと引き合うからね……多分疾東さんのパネルと合体するために風成さんのパネルが君を操ったのかも……」


「じゃ、じゃあ……雷門と迅美を襲ったのは……私?」


その質問に触渡君は答えづらそうにしながらも頷く。

頭の中が真っ白になった。私が、彼女たちの足を折ったのだ。


「でも気にしないで!それはパネルのせいなんだから……」


「だけど……私……とんでもないことしちゃったよ」


涙を流しそうになる。恨んでいたとは言え彼女たちを傷つけてしまった。

何て非道い女なんだろう——


「風成さん、今親御さんに連絡したよ、今日はここに泊まると良い」


天空さんが受話器を持ちながらそう言う。

しかし、悲しみに飲み込まれた私には届かなかった。





俺は風成さんの涙目を見て、胸が苦しくなった。

もう少し早く彼女のことを気付いていればあんなに悲しませることは無かったのに。

拳を握りしめ、自分の部屋の壁を殴った。

悔しい。あの時太刀打ちできなかった自分が……

虐められていたとはいえ、友達を傷つけてしまった気持ちは……俺には良く分かる。



『いっちゃん!つーちゃん!』



かつて俺も、同じ過ちをしてしまったからだ。

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