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爆発寸前な男  作者: ZUNEZUNE
第九章:アジト突入
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106話

12月初め、すっかりもう冬になっており、暑苦しく感じていた夏が名残惜しく感じるこの季節。吐く息も白くなり来週には雪が降るかもしれないという程だ。

俺、触渡発彦は暖房の効いた教室にいた。他のクラスメートもコートや傍観衣服を身にまとって学校に来ている。そういう俺も茶色のコートを着て今朝は登校してきた。


教室内では次の授業である体育についてグチグチと文句の会話が繰り広げられている。無理もない、タイミングが悪く今期の冬の体育はサッカーであり、あんな凍える寒さの中で体操服もしくはジャージだけでボールを蹴るなど苦行に等しい。女子は一応体育館でバスケだがあの広い体育館も冷えているだろう。ただし向こうは暖房があるだけマシだ。

実の所、俺は例え冬だろうが春夏秋冬どの季節であろうが体育は苦手だ。別に運動能力が悪いわけじゃない、寧ろ人並みよりある自身はある。そうじゃないと怪字となんかと戦えない。


それが原因となっており、幼少期の頃から怪字と互角に渡り合えるよう鍛えてきたので筋力にも自慢はある。しかしその分体育などといった体を使う場面ではある程度加減しないと怪しまれるのだ。

中学校の時のサッカー試合だなんて軽く蹴るつもりでシュートしたら、クロスバーの部分に辺り思いっきり凹ませてしまう事態に。あの時はどうにかして誤魔化したが、それ以来体育では細心の注意を払うようになる。

それを決めた次の日、神社で自己体力を行った。自身のジャンプ力、握力などを予め確認し、それを男子の平均的な結果と照らし合わせできるだけそれにあわせるといったものだ。


こういうのは真面目に体力テストを受ける他の人にとって酷く失礼なことだというのは分かっているが、こちらにも事情があるので仕方ない。好成績を叩き出して変に興味を持たれては、こっちの世界に巻き込まれたら堪ったもんじゃないからだ。

そんな生活を数年送っても力加減の仕方には慣れず、体育の時間は毎日間違って出しすぎないようと冷や汗をかいている。


「どうしたの触渡君、そんな暗い顔して」


「ああちょっとね……」


「あ、触渡君も体育嫌なんでしょ?」


すると顔に出てたのか、隣の席の風成さんにそんなことを言われてしまう。しかし他の人達と同じだと納得してくれた。

パワー抑えるのが大変だから体育は苦手だなんて恥ずかしいことはとてもじゃないが言えない。まぁそれでも彼女は一応こっちの事情を知っている人だから大丈夫そうだが。

しかしこの寒さの中に薄着で運動するのは確かに辛い。これは鍛えている鍛えていない関係ない。寒いものは寒いだろう。


「まぁね、何だか秋があっという間に過ぎたみたいで寒くなってきたよね」


「だよね~私も今日はマフラーしてきたよ」


そう言って彼女は赤いマフラーを見せてくる。最初は「暖かそうだなぁ」としか言葉が出なかったが、その毛並みを見てとある違和感を感じる。その正体に気づくのにそこまで時間は掛からなかった。


「あれ?それって手編み?」


「うん、この間編んだんだ」


「へ~風成さん編み物得意なんだ」


「ちょこっとだけね」


そんなに立派なマフラーが編めるのだからちょこっとだなんて謙遜する必要は無いと思う。実際この目で凝視するまでそれが手編みだと気づけなかった。

女の子らしい趣味で可愛いと思う。俺も風成さんが編んでくれたマフラーが欲しいなぁという贅沢を思うも、それは決して口に出さない。言ったら引かれる。

といっても彼女の手編みであろうがなかろうがマフラー自体が羨ましいのは確かだ。この季節登校する時に吹く風がとんでもなく冷たく、それはもう凍え死にそうなくらいだった。もしこんな暖かそうなマフラーで首と口元を守れたらどんなに快適だろうか……


「俺もマフラー着けようかな、持ってないけど」


思えば今までマフラーなんか着けたことが無い。身近な物だとは感じてはいるが今まではコートだけで寒さを凌いでいた。

だったら買おう。この季節ならどこでも売ってそうだし、ついでに耳当てとか手袋とかも買おっかなぁとそう思っていると……


「じゃ、じゃあ私が編もうか!?」


「……どぉえ!?」


いきなり衝撃的な言葉を言われたので思わず変な声で驚いてしまう。それを聞いた周りのクラスメートも何事かとこちらに注目した。

まさかさっきの心の言葉を思わず口に出していたのではと焦り、二重の意味でドキッとしてしまう。


「な、何で風成さんが……!?良いよそんな俺の為に……」


「私ももう1つ編んで腕試ししたいなぁ~って思ってたところなの!触渡も買わなくて済むし……」


やっぱりこれ心の中読まれていないか?何でこう都合よく事が進むのか?

落ち着け、確かに俺は風成さんのことが好きだ。だからそんな彼女が編んでくれたマフラーなんてものは喉から手が出る程欲しい。

しかしそんな理由で彼女の手を煩わせるわけにはいかない。好きだからこそ彼女の迷惑にならないようにしなければならない。


(だけど欲しい!風成さんが編んでくれたマフラー!!)


だがそういった欲求の方が今の所勝っている。風成さんが俺のマフラーを編んでくれるということは、彼女が俺だけの為ということでもある。そう考えると余計に欲しくなってきた。

いや待て、そもそも彼女が……いや同い年の女子が編んだ物なんて俺の手には余るものではないのか!?今まで親しい女子もいなかったのにいきなりそんな物を受け取って大丈夫なんだろうか!?

だけど俺は、そのマフラーが欲しい!ここは自分に正直になって頼もう。

問題なのはどうやってそれを伝えるか?流石に今の気持ちを馬鹿正直にそのまま伝えたらドン引きされること間違いない。ここは普通に、普通に答えよう。


「じゃ、じゃあお、お言葉に甘えよっかなぁ……」


「そ、そう!?じゃあ頑張るね……」


気のせいか彼女も何だか落ち着きが無い。俺も同じように冷静にはいられなくなっている。

何だか最近、彼女のことを好きということが分かってからその感情に正直になっているような気がする。俺だって自分がこんなにも人のことを好きになれる人間だなんて想像だにもしなかった。

いや、それよりも今は()()()()()。風成さんのマフラーを編んでくれるという優しさが。とても本当に感激だった。

思えば好きな人にマフラーを編んでくれることなんて、男ならば一度は想像したシチュエーションでありラブコメなどにもよくある。まさか自分がそれを体験するとは……

にしてもここまで恋心に素直になれるとは……まるで自分が自分じゃないみたいだ。

その後の時間、さっきまであんなに寒そうと嫌がっていた体育は、体中がポカポカしてちっとも苦じゃなかったし、そのせいで張り切りすぎて蹴ったボールが学校の4階ぐらいの高さまで到達してしまう。





そのまま今日の学校が終わるその時まで、マフラーと彼女のことを考えていた。隣の席だというのに目も合わせられない。そこまでして緊張してしまっている。

このままだと数日は話しかけられないだろう……ここは男らしくこっちから声をかけるか。

そうだ、これはチャンスだ。普段は緊張してしまって積極的に彼女とか関わらなかったが、このノリで行けるとこまで行ってしまうか?

普段は彼女の方から誘ってきていたが、今回は俺の方から誘ってみよう。いつまでもクヨクヨしてられない。ここは怪字と戦う時のように攻めまくろう!


(といっても……いざやろうと思っても緊張するなぁ……)


普段は何事も無く声をかけれるのにこんな時に限って緊張してしまう。やはりさっきのマフラーの件で俺の心は想像以上に粗ぶっており、いつもの平常心じゃなくなっている。まるで初めて彼女に話しかけるかのようにドキドキして落ち着かなかった。


「か、風成さ……」


「発彦いるかー?」


勇気を振り絞って彼女に声をかけようとしたその時、そんなタイミングの悪さで誰かが俺の名前を叫んで教室に入ってきた。

刀真先輩だ。この学校で俺のことを名前で呼ぶのは今の所刀真先輩と同じクラスの飛鳥しかいない。よってそのことと声で誰が呼んだのか見なくても分かった。


「……どうしたんですか刀真先輩」


「何か不機嫌そうだな……まぁいい。さっき父上から連絡が来て、帰りにそのまま神社に寄れと言われたからお前と帰ろうと思ってな」


「……宝塚さんが?」


宝塚さんが神社に刀真先輩を呼ぶ、つまりエイムや特異怪字のことで何か分かったのかもしれない。恐らく俺も含まれるのだろう。

こればっかりは仕方ないので刀真先輩と一緒に帰ることにし、2人で一緒に神社へと向かった。


「一体何だろうな?やっぱりエイムのことか?」


「でしょうね多分……」


正直それしか心当たりが無い。ついこの間協会のアジトがこの英姿町のどこかにあるかもしれないと分かった。つまり奴らを倒す目処が立ったという訳だ。

そのアジトの場所は勇義さんが捜索してくれるという、もしかしたらそれが見つかったのかもしれない。それが当たっていたとしたら当然俺たちにも連絡が来るはずだ。

兎にも角にも言ってみないと分からない。俺と先輩は知らず知らずのうちに速足になりいつもより早く神社へと到着した。


「ただいまー、刀真先輩も来ました」


「帰ってきたか、そのまま広間に来てくれ」


すると遠くの部屋から天空さんの声が聞こえた。玄関を見ると俺や天空さんの靴以外の他にもある。宝塚さんがもう来ていることが分かるがそれにしても靴の数が多い。他にも誰か来てるのか?

取り敢えず上がり、言われた通りに広間に行ってみるとそこには今まで会ってきたパネル関係者の面々が勢揃いしていた。


「あ!勇義さん!」


「おお、来たかお前ら」


前代未聞対策課の刑事である勇義さんは勿論、その隣には見知らぬ初老の男性。その反対側には鶴歳研究所の鶴歳所長、比野さんに小笠原さんまでいる。そして上座には天空さんと刀真先輩のお父さんである宝塚さん。

こんなに多くの人がいるということは、やはりただ事ではない。俺たちも座布団の上に座り面々の中に入った。


「揃ったな。じゃあ今から、呪物研究協会エイムのことについて話し合う!」


(……やっぱり!)


寧ろこんなに集まっていて他に何を話すのか。どうやら本格的に奴らと向き合うようだった。

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