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爆発寸前な男  作者: ZUNEZUNE
第八章:刑事と兎
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103話

抜蔵との戦いの末、これ以上警備隊に犠牲者を出させないためにも場所を変えることを提案。意外にも奴は素直にそれに乗ってくれ、一緒にこの森の奥まで付いてきてくれた。曰く「付き合ってもらっている身だから」らしい、意味がわからない。

ここまで奥に来れば銃声も街に聞こえないだろうし安心だ。これで思う存分戦えるというわけだ。


「待たせたな、ここならいいぞ」


「刑事さんも人が悪い……ここまで焦らしてくるなんてね」


ここで一旦を態勢を立て直す。拳銃も弾を入れ十手もいつでも抜けるようにした。対する奴はナイフをジッと見つめながら動かない。時折兎の長い耳がピョコッと動いている。

今の状況はお互いが背中を向けながら準備しているといった感じだ。今すぐ動けば簡単に背中から打てるが、2人とも仕掛けずただ静かに後ろを見せている。

そうして少し沈黙を続けた後、何の合図も無しで2人は向き合い、走り出してから十手とナイフが衝突した。


「ッ!」


すると俺の十手がナイフの衝撃に負け、後ろに弾かれてしまう。そこから隙だらけになった胴体にすぐさま次の手のキックが飛んで来た。素早くなれる「脱兎之勢」の脚力を活かした蹴り攻撃だ。

十手は弾かれて今すぐには前に出せない、そこで左腕を差し出してそれでガードするが蹴りの威力が全て左腕にかかる。

その激痛に態勢を崩しかけるが両足に力を入れ何とか耐え、カウンターとして十手の先端で突いた。しかし後退して避けられてしまう。


「どうした刑事さん!?動きが鈍くなってるぜ!」


抜蔵はそのまま避けた拍子に体を一回転、その勢いで回し蹴りをしてきた。これも避けられず強烈なキックが首近くに当たり、意識が飛びかけたところでナイフが迫ってくる。

咄嗟に意識を取り戻し、ナイフを避けようと後ろに体を反らしたが遅く、服ごと胸を切ってきた。


「ぐっ!」


ギリギリで後ろに避けたためあまり深くは刺さらなかったが、線のように長い切り傷を付けられてしまう。血がそこかた流れ鋭い痛みも脳に届いた。

奴の速い動きについていくのが精一杯でその疲労が今頃になってやって来ていた。そのため俺の動きも鈍くなっており、今までギリギリ避けられていた奴のナイフも回避できずになる始末。

そこから抜蔵による蹴りとナイフの連続攻撃、迫りくる足裏と刃先を必死になって十手で捌き続けながら逃げるように後退する。少しでも気を緩めればナイフの先やつま先が眼前にまで接近していた。

このまま防戦一方を続けていては駄目だ。ここは無理にでも反撃を入れなければならない。そう思った俺は次に来た奴の右足を脇で挟み込み動けなくし、そこから奴の体に銃口を押し当てる。


「くたばれぇえええ!!!!」


そこから弾が無くなるまで発砲、例えゼロ距離から銃弾を撃ち込んでもその速さですぐに後ろに避けられてしまうかもしれないが、今は俺が足を掴んでいるため奴は動けずただ弾を受け入れるしかない。


「ぐっ……その銃弾の味はもう飽きた!」


次々と体に撃ち込まれる銃弾に耐えきれなくなったか、奴は連射を受けながらもナイフをこちらに突き刺そうとしてくる。それを避けるために銃を撃つのを止め、急いで体を後ろに引く。結果的にその刃先が胸や顔などの致命傷になるであろう場所には刺さらなかったが、避けた弾みでナイフの軌道が変わり俺の脇腹に突き刺さってしまう。


「づぁがぁ!!」


刺された箇所を熱く感じながら血がダラダラと流れるのを感じる。十手で奴の顔を殴って素早く後退、脇腹を抑えながら息を整える。

さっきの胸の傷は浅かったのでまだいい。しかし脇腹を刺されたとなるとこちらも腰に力を入れにくくなるだろう。腰の力は力強く十手をあいつに叩き入れるには必要不可欠だ。

一方胴体のあちこちに銃痕を付けられた抜蔵は痛がる様子も見せず軽々としていた。怪字の体とは言え弾丸を食らったのに苦しまないとは、相変わらず感性が狂ってやる奴だ。


「今まで散々弾を食らわせてくれた礼だ……アンタは血の味を噛みしめるといい!」


奴の言う通り吐血しており、鉄の味が口全体に広がっている。流石にドバッと吐く程の量ではないが吐血には変わりない。

すると抜蔵は、なんとナイフに付着した俺の血をまるで味わうかのように頬に擦り始める。あいつにとって他人の血とは「自分を寂しくさせないもの」とよ分からない感じのもので、あのナイフの血もそれに該当するのだろう。しかしあんな恍惚の笑みでされるとゾッとしてしまう。


「やっぱ血はこうでないとなぁ……このさっきまで体に流れていたと分かる温かさ……これこそあっしが求めるものだよ」


「……気色の悪い奴め」


あまりの気持ち悪さで鳥肌まで立ってきた。まるで女子がぬいぐるみに頬ずりするかのように血まみれのナイフを頬に擦りつけているその光景は、とてもじゃないが見てられないもので、それがより奴の狂気を表している。

いかんいかん、そんなことに気を構っている場合じゃない。今は脇腹を刺されたこの状態でどうやってこいつに勝つかが重要だ。

その傷で余計に俺の動きは抑制され、ますます奴との動きの差は出てくる一方だろう。このままだと圧倒されてあっという間に殺されるのがオチだ。

考えれば考えるほど胸と脇腹の傷の痛みがより鮮明に脳に伝わっていくのが分かる。ジンジンという熱い感覚が鼓動のように震えている。このままだと痛みと出血のせいで冷静な判断もできなくなるだろう。


「この続きは……アンタの返り血を浴びるとするかね!」


「やれるもんならぁ!」


そう言ってナイフの構えを戻し抜蔵は再びこちらへ走り出す。俺もさっきまでと同じように十手でそれを受け止めるが、傷のせいで足に力を上手く入れられず、奴の一刀を受けると同時に後ろへ倒れそうになってしまう。やはり腰に力を入れないとこうなるか。

そこから繰り出される連撃にも何とか対応し十手で防いでいくが、受けるたびに態勢を大きく崩し傷の痛みも感じる。カウンターなど入れる余裕もなくただ防ぐだけの防戦一方となってしまった。

ここで抜蔵は思い切り足を蹴り上げ俺を蹴り飛ばし、そのまま木に激突させる。


「ぐぁあ!?」


俺はその根元に落ち倒れこんでしまう。すぐに起き上がるが最早ダメージが大きいせいで木に寄りかかるしかなかった。

勝利の確信をしたのか、抜蔵は能力を使わずゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。ナイフも玩具のように振り回し余裕といった感じだ。その様子に悔しさを感じるも実際勝負はついているようなものだった。


(だけど……諦める理由にはならねぇ!)


俺は最後の力を振り絞り何にも寄りかからずに立ち、拳銃を構えて発砲。簡単に避けられてしまうも奴が歩みを止めない限り何度も撃ち続けた。

俺が今ここで諦めて殺されてしまえば、それは怪字退治の人間どころか1人の刑事として失格である。目の前のこいつが脱獄犯で殺人鬼、尚且つ人々の平和を脅かすのなら、俺にはまだ立ち向かう義務がある!

全ての銃を落ち終えても奴は全て避けて健在、もうここまで接近を許したのなら弾を込める余裕も無い。今度は十手を構えて牽制する。

しかし手負いの俺が牽制しても大した威勢にはならず、抜蔵は表情1つ変えずに近づいてくる。いつしか、俺の目の前までに来た。


「このっ……!」


俺は必死に奴に十手をぶつけるが効いてる様子も見せないしガードすらしてこない。最後まで足掻き続ける俺を見下ろすばかりだった。

例え見下されようが最後まで諦めない。俺に武器を握る力がまだ残っているのなら、まだ戦い続ける。


「付き合ってくれてありがとう刑事さん、アンタは最後まで俺を賑やかにしてくれたよ」


そうしてトドメを刺そうと俺にナイフを振り下ろそうとしてくる。十手でそれを受け止めようとするも瞬時にその手を蹴られて落としてしまった。

やがて、刃先が俺の顔を切り裂こうとしたその時――


「画竜点睛ッ!!!」


横から突然巨大な竜が飛び出し、抜蔵を咥えてそのまま地面に引きずってそのまま薙ぎ払った。まるで緑色の電車が一瞬で通過したように錯覚してしまうが、その上に乗っていた人物の顔を見てそれが竜だと分かる。触渡とその式神である「画竜点睛」だ。


「何だぁ!?」


流石に抜蔵も突然現れた竜に驚きを隠せないのか声を荒げてその竜を確認する。上に乗っていた触渡も降り、俺の隣に寄り添ってきた。「画竜点睛」も俺たちを守るかのように抜蔵と睨み合っている。


「大丈夫ですか勇義さん!『一葉知秋』が反応したんで急いで駆けつけました!」


「ははっ……ギリギリだった」


何とか助かって気が緩みつい笑ってしまう。実は諦めるかと息巻いていた癖に心のどこかでは「もう駄目だ」と思っていた節がある。まさかこのタイミングで触渡に助けてもらえるとは嬉しい誤算だ。

元は抜蔵をおびき寄せやすいようこいつと別れたのだが、もうその必要はないので思う存分戦えるという訳だ。触渡が一緒なら勝機はまだある。

子供に助けを求めるのはどうかと思うが、こいつはもう1人前のパネル使いだ。同じ土俵に立つに相応しい。


「何だよ刑事さん、仲間がいるなら早く呼べばよかったのに……それに殺しがいのある竜も来たもんだ。刑事さんは俺を飽きさせないねぇ!」


「……うわぁ」


『グルル……』


颯爽と登場しても奴の気色悪さには耐性が無く、露骨に貌をしかめて後ずさる。あの「画竜点睛」もドン引きしている始末だ。

兎に角、2人+1匹に増えたなら勝利の可能性が見えてくる。これくらいの数がいればこちらが圧倒できるだろう。

触渡もドン引きはしていたがすぐさま戦闘態勢に入り、鶴歳研究所で貰ったあのグローブを装着する。「画竜点睛」も鼻息を荒らしてやる気満々だった。思えばこうやって一緒に戦うのは牛倉一馬と戦った時の「光彩陸離」以来だ。


「それじゃあ刑事さんにそこの坊ちゃん、2人合わせて血を浴びさせてもらおうか!」

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