9話
疾風迅雷の怪字は鋭い眼光をこちらに向ける。
復活した怪字は辺りの物を破壊しまくる習性がある。なので人間にとって害のある存在だ。
それより風成さんと疾東さんだ。二人は気絶したままだ。巻き込まれたら危険だ。
すると彼女たちばかり集中していたので、攻撃に気付けなかった。
「ぐあっ!?」
怪字の薙ぎ払いを避けられず、壁に叩きつけられてしまう。ひびが入り、自分の身体がめり込んだ。
人間以上の力、これこそが怪字の恐ろしさ。軍隊でも簡単に止められないだろう。
痛みが体中を襲い、血反吐を吐く。骨は折れていないので良かった。
身体を起こしながら前を見ると、怪字の腕が疾東さん達に伸びていることに気付く。
「させるか!」
その緑の腕を跳び蹴りし、彼女たちへの暴力を阻止する。
着地した時にバランスを崩してしまう。その隙を突かれ、蹴り飛ばされてしまった。
「うぐっ……!」
屋上の奥側まで吹っ飛び、手すりに激突した。
手すりに掴まって起き上がる。どうやら奴は完全に狙いを俺に定めたらしい。こちらに向かって走り出した。
怪字の突進を右に前転して避ける。自分がいた場所の手すりが大きく歪んでしまった。
奴の拳がこちらに向かってくる。それを両手でガードした。転びはしなかったが風成さん達が倒れている場所まで押されてしまう。
「くッ――腕が……!」
その重い一撃に両腕が痺れてしまう。しかしそんなことを気にしている暇は無い。
「またタックルか!?」
怪字がこちら目掛けて突進している。先程と同じように避けることもできるが後ろには風成さんと疾東さんがいる。二人に怪我をさせるわけにはいかない!
そう思った俺は、懐から4枚のパネルを取り出す。この間手に入れたばかりの「金」「城」「鉄」「壁」。合わせて「金城鉄壁」。この組み合わせの怪字はとても固い敵だった。つまり……
「その能力も、守備能力の筈だ!」
そうして4枚を組み合わせて四字熟語にする。するとそこから金色の粒子が溢れるように吹き出た。
粒子は俺達を囲む一つの城へと形成されていく。その半透明の壁は怪字の攻撃を防いだ。
当たった瞬間金属音が鳴り響く。この音が防御力の高さを示していた。
「『金城鉄壁』……中々使えるな」
「う……ん……?」
いつの間にか私は寝ていたらしい。記憶が混乱している。何をしていたっけ……
泣いている疾東を慰めて、それから一緒に謝ろうと提案して……そして……?
『やめ……て……風……成……』
彼女の首を絞めた……?
何で私は彼女の首を絞めたんだ?もう恨んでいない筈なのに、気付いた時には手が伸びていた。
それに……さっきから聞こえる鋭い音は何だろう?ゆっくりと、目蓋を開くと……
「……何これ?」
見たことも無い化け物が、自分達を覆っている黄金の壁に何度も突進している。
そしてその中にいるのは私と疾東、そして傷だらけの触渡君だった。
状況が把握できない。一体どうなっているの?
「起きちゃったか、風成さん」
苦しそうな触渡君が私を見る。前に見た傷だらけの顔のように酷い傷跡だった。
息も荒いし血も流れている。この化け物に襲われたのだろうか……?
「風成さん、しばらく俺の側から離れないで……!」
「えっ……何で……?」
「早く!」
「は、はい!」
いつも気弱の彼が発する大声は、私を即座に行動させた。
倒れている疾東を引き寄せ、触渡君の近くへと寄る。
すると怪物が金の壁を突き破ってきた。
「きゃああああああああああああ!!!」
私はようやく悲鳴を上げる。自分達はこの化け物に襲われていると気付いたからだ。
それに対し彼は、4枚のパネルをつなぎ合わせた。
「八方美人!」
そう叫ぶと、怪物の猛攻を次々と捌いていく。
化け物のスピードは目で追うのがやっとのほど加速しており、触渡君はそれを一発一発受け流している。
まるでバトル漫画物の戦闘シーンだ。「ついていけない」とはこういうことだろう。
「……これでどうだ!」
彼は防戦一方と思いきや、怪物の腹部にカウンターを入れた。
完全に動きを読んでいる。
「……!」
かなり効いたのか、怪物は数歩下がると屋上から飛び降りた。
「逃がすか!」
触渡君は走って化け物が飛び降りた所を見下ろす。しかしそこには何もいない。地面と激突した跡も死体も。
「はぁ……はぁ……」
所謂戦いというのが終わったのか、彼は一息ついてそのまま座り込んでしまう。目線の高さが合った。
怪我だらけの触渡君、襲いかかってくる怪物。何故か凶暴になった自分。
私の脳はもう限界だ。理解しきれない。
「風成さん……怪我は無い?」
「触渡君……あの化け物は何なの!?それにさっきの壁も!パネルも!」
「……」
軽いパニック状態となった私は、あれこれと質問しまくる。多少大人げないが当然のことだった。目の前であんなことが起きたら知りたくないなんて思う人はいない。
「詳しくは……俺の家で話すよ」