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朝見と千里と雪と、書道室の女子生徒 作者:ほび@prizm
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9.お見舞い

 幸い、私の手は骨折していなくて、打撲で済んだ。それでもあの日、右手の甲はとても痛くて、見るからに酷い青紫色の痣が、我ながら酷いなと思った。
 病院が終わってから学校に行くと、千里は休みだった。無理もない。二度も憑かれかけて、あんな目にあったんだから。担任に聞いたら、熱があるから欠席するということだったらしい。心配だ。
 私は、妙にしょぼくれた雪を連れて、千里の家へお見舞いに行った。
「昨日少し熱があって。今日の朝になっても下がってなかったから、大事をとっただけだよ。今は大丈夫」
 戸を開けて立っている私たちに千里が笑いかける。どこか覇気にかける薄さだった。私の背中に隠れていた雪が、おずおずと顔を出す。
「千里…」
 それを見て、ふふっと微笑んで部屋に手招きする。私たちは、布団のそばに寄って、正座した。
「ごめんね。私が、軽率だったから、千里に怖い思いをさせちゃった」
 雪が途中スーパーで買ってきた桃缶を渡す。
「雪ちゃんのせいじゃないよ。…桃、ありがとう。おばあちゃん、おかゆしか出してくれなくて、飽きていたところだった」
千里がいたずらっぽく笑った。
「…ねぇ、いつからだった?」
「なんのこと?」
「視えたの。」
「ああ…。はっきり視えたのは今回が初めてだよ。でも、ザワザワした感じはずっとあったかな」
「じゃあ、その感じは?」
「書道室に入る前、鏡の廊下を通った時からだよ」
「そうじゃなくて、えと、肝試ししてるころから?昔からずっと?」
「えっと…」
 千里が困っている。その質問は、私たちがいつから笑えるようになったか聞くのと同じような意味だ。雪が、やけに気にしている。一体何を知りたいのだろう。
「…それがどうかしたの」
「どうしてかなって思ったから」
 本当に申し訳なさそうに頭を垂れた。
「最初に謝っておくけど、まさか本当に視えるようになるとは、思ってなかったんだ。だから、なんだろ。結構、ショックっていうか」
 目論見は見事に上手くいったと言うのに、何が想定外だったのだろう。もしかしたら、私たちを肝試しに連れ回したのは、別の目的があったのかもしれない。本人も、気づいていないだけで。
「何か問題あるわけ?」
「だって…視えるって変でしょ…」
「これからもずっと、なんでも視えるってわけじゃないと思うけれど…」
「そうだといいけどさ」
「でも、それじゃ雪、あんたお姉さんに会えないじゃない。私たちに見つけてもらいたいから、視えるようになって欲しかったんでしょう?」
 雪が、ぱっと顔をあげて、首を横に振った。
「だからってこんな危険な目にあわせていいわけないじゃん!怪我させて、辛い思いさせて、そんなこと望んでたわけじゃない。こういうことになるんだったら、いい。私に付き合わなくていいよ…」
 泣いている。我慢できずに目尻から流れ落ちる滴を拭こうともしないで、顔を伏せた。
 なるほど彼女は、自分の都合で振り回したあげく、私達を危険な目に合わせたと、思い込んでいるらしい。 それは違う。最終的に、ついて行くと決めたのは、私達自身。言うなれば、自業自得だ。
 自分の目的のためなら他人がどうなろうと関係ないと言う人は居る。人の気持ちなんて考えもしないで、置いていくような最低な奴はいるんだ。
 だけど雪は、自分の目的よりも、私たちのことを思って、私達を手放そうとしている…。
 私は左手で、ぺちっとデコピンをしてやった。利き手ではないので、あまり痛くはないだろう。雪は、うにゃ!っと妙な声を出した。本当に、面白い奴。
「私はあんたの保護者なの。ほっといたらどっかに行っちゃうような手のかかる子供を、置いてくわけないじゃない」
「でも…」
 千里が手を伸ばして、雪の頭を撫でた。
「雪ちゃんは、助けに来てくれた。だから、いいの。これで、いいんだよ」
 雪は押し黙って、飲み込むまで少しかかったけれど、しばらくしてからコクンとうなづいた。

 これからはおそらく、肝試しにはいかないだろう。気軽に幽霊の話題に首を突っ込むこともなくなりそうだ。でも、そういうことを全て避けていたら、雪はずっとお姉さんに会えないような気がする。
 望むものを手に入れる為には、辛いことにも向き合わなくてはいけないのだ。
 私があまり家族のことに触れられたくないように、雪も家族のことはあまり語りたがらない。私が知っているのは、雪が姉に会いたがっているということだけ。
 叶えてやりたい。
 初めて話した時に、笑ってありがとうと言ってくれた雪。やたらと人から避けられる私にとっては、驚いたと言うよりも…嬉しかった。
 友達は、小さい頃から一緒にいる千里と、雪くらいしかいない。だから私は、二人のためなら、なんでもしてやりたいと思っているのだ。
 絶対言わないけど。
10月のはじめに、急に頭の中に浮かんで、一気に書き上げた物語です。
元々、朝見と千里と雪は、既存の「忘れ去られた神」に登場するキャラクターを元に生まれたので、性格や細かな設定が同じで、すでにほぼ確立しているキャラクターです。
今後、この世界観でまた続編を書こうと思っています。
三人の物語を最後まで読んでくださり、どうもありがとうございました。

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