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朝見と千里と雪と、書道室の女子生徒 作者:ほび@prizm
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2.屋上

 私は図書室の読書スペースで、本を読みながら人を待っている。
 待ち人は、奥の薄暗い棚で本を探しながら頭をひねっている。その雰囲気に近寄りがたいのか、同じ棚を見にきたらしい他の生徒がギョッとして、引き返していく。それにも気付かずに、朝見ちゃんは真剣に幽霊関係の本を探している。
 雪ちゃんは、誰を探しているのかなかなか教えてくれない。いつも、ふわっと日に焼けたような軽く短い髪をなびかせて、身軽な小さい身体を翻して逃げ出してしまう。
 話したくなる時が来るまで、私は待つことにする。朝見ちゃんも、きっと何かをしかあげたいのだと思う。だからこうして図書館にいる。
「こういうの読めば、何かわかるかしら」
 朝見ちゃんが待ってきたのは、妖怪物に伝記物、果てはオカルト雑誌だった。
 たぶん、違う。

 図書室を後にして帰ろうと下駄箱に行ったところで、私達は雪ちゃんに出会った。彼女は鞄を持っておらず、外履きを上履きに変えているところだった。
「あっ、朝見と千里だ。帰るの?」
「他にどう見える」
「そりゃそーだね。あはは! ところで、今、少し時間ない?屋上まで付き合ってくれないかな」
「はぁ。なんで」
「なんか見えたから」
「なんかって…。誰か屋上にいたの」
「人ならいいけどさ」
 それはつまり、幽霊かもしれない、ということだろうか。

 屋上に出れるのは新校舎側。三つある屋上への扉は、南京錠と内鍵で施錠されている。けれど、東側の扉だけは南京錠がなくて、内鍵をはずせば外に出れるようになっている。
 私達はその東側の重い扉を三人がかりで開けて、屋上に出た。夕焼けの光が辺りを染めて、景色が少しぼやけている。それに、眩しい。
 手をひたいにかざして周りを見回したが、人らしい影はどこにも見当たらなくて、風が土煙を吹き飛ばしているだけだった。だけど、雪ちゃんだけは真っ直ぐに校庭側のフェンスの方へと迷いなく歩いて行く。
つまり、そこに居るということだろう。
 朝見ちゃんが眩しさに顔をしかめたまま、不機嫌そうに眉を寄せた。
「千里は…信じてる?」
「なにを?」
「あいつが視えるってこと」
「そうだね。雪ちゃんがそういうなら、信じる」
「でも、私達には視えないじゃない。それっていくらでも嘘が言えるってことよ。まぁ、雪は嘘つくような奴じゃないけど…それでもさ」
 ちらりと雪ちゃんの方を見た。
 いつもニコニコ笑っているけれど、幽霊と話しているらしい時だけは、真面目な顔と真剣な眼差しになる。
 と、こちらを振り向いた。手をひらひらさせて、どうも手招きしているようだ。
 渋い顔をしたままの朝見ちゃんの手を取って、雪ちゃんの元へ行く。
「どうしたの」
「知り合いの知り合いだった」
「幽霊の?」
「いや、お姉ちゃんの」
「雪ちゃん、お姉ちゃんいたんだ」
「昔ね。それより千里、朝見。…あの、ありがとうね」
 雪ちゃんが、幽霊がいたらしいフェンスに近寄って、それを握った。
 視線は私達の方ではなく、反対側の沈みゆく夕陽に向けられた。
「…急に何?」
「いつも、付き合ってくれるから」
「あんたが来てくれって言うからよ」
「なんのかんの言っても朝見も付いて来てくれるもんね。感謝してるんだよ。ありがと。」
「……別に。あんまり信じてないし…」
「いいよ。それでも」
 雪ちゃんが、くるりと背をフェンスに預けて、しゃがみこんだ。笑ってはいるけれど、いつものカラっとした明るい笑顔ではなくて、今にも泣きそうなほど、力のない微笑みだった。
「雪…どうかした?」
「うん…まぁ」
「幽霊さんに、何か言われたの?」
 私も側にかかんで、目線の高さを合わせた。
「私は、お姉ちゃんを探しているんだ。お姉ちゃんだけが、どうしても視えなくて。さっきの学ランの人、それはお姉ちゃんが会いたくないからじゃないのかって言うんだ。そうだとしたら、…こたえる」
 朝見ちゃんが、私とは反対側の雪ちゃんの側に座った。
「なんでなのかなぁ…」
 夕焼けが音もなく夜を連れてくる。

 誰もなにも語ることなく時間が過ぎ、校庭から部活動の掛け声が聞こえなくなったころ、朝見ちゃんが立ち上がった。
「施錠されたらまずいわ。そろそろ行かないと」
 私達の手を引いて立ち上がらせてくれた後、先に小走りで扉にかけ寄り、重い扉を力を込めて引くと、少し開いた様子が見えた。ほっとした様子で私たちを手招きする。
 私は雪ちゃんの手を引いて、扉まで歩いて行った。もう一度、三人で力を合わせて扉を開け、校舎の中に戻ると、しっかり内鍵を閉めて。
 四人はその場を後にした。
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