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朝見と千里と雪と、書道室の女子生徒 作者:ほび@prizm
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1.肝試し

 この歳になって肝試しとか、馬鹿みたいだと思った。
 場所は市内で唯一の霊園。だだっ広くて建物の影も見当たらない、山を切り開いて作られた仏の住む場所。
 そんな場所に、わざわざ暗くなってから訪れて、肝試しをしようと提案して来た雪は、なぜかにんまりと笑っている。憎たらしい。千里も一緒に来てくれなかったら、帰っているところだ。
「霊園には霊園のルールがあるから、大丈夫だよ」
 雪は幽霊が視えるらしい。ただ、どうしても会いたい幽霊には会えないのだと言う。
 だからって、私たちを視えるようにするために、肝試しと称していろんな場所に連れ回すのは、やめてほしい。私たちが視えれば、自分には視えない幽霊も見つけることができる、と思っているようだ。
 迷惑な話である。
 誰に会いたいのかは教えてくれないのだが、雪は母を亡くしているらしいので、まぁそう言うことだろう。母がいないのは私も同じだが、私は別に会わなくてもいい。だいたい死んでないし。

 私達は、入り口から遠く離れていくテールランプを、見つめている。見えなくなるまで見つめた後、千里が口を開いた。
「二十一時には迎えの車を頼んでおいたから、それまでね」
 平然としているけど、怖くないのだろうか。私は…正直、お化け怖いんだけど。
「朝見だいじょぶか?」
「なにが」
 雪にだけはバレたくない。
「ふーん。じゃ、始めよ!」
「分かったよ」
「…了解」

 かくして肝試しは始まったが、私には当然、なんの影も見えない。
 千里が時折キョロキョロして、不意に腕を組んできた。なんだろうと思って見てみれば、不安そうな顔をしている。
「怖いの」
 そう尋ねても、千里はチラッと私を見て、首を横に振るだけだ。それでも私の腕は離さない。
 雪は一人で先に歩き…というか、走っている。さっきからずっと坂道で、歩いているだけでも疲れるのに元気なことだ。
 ところが、ふいに立ち止まって、なにもない場所に歩み寄っていく。
 …誰かと話をしているように見えるのだが。
「あれ、視えてるのかしら」
「たぶんね」
「これで何回め?私、全然視えないし、正直飽きてきたわ。千里はどう?」
「うん…」
「ん?」
「正直、最近首筋がざわざわすることがよくあって。視界の端に何か見えたりとか…」
「本当?」
「本当だよ。今も、結構気配があるよ。視えない、けど…」
 雪の計画、大成功、である。
 その雪だが、ずっと、なにか、身振り手振りで道案内をしている。しばらくそうしているかと思うと、横を向いて驚いたように仰け反り、そののち大きく手を振った。そして、私たちの元へ駆け戻ってくる。
「誰かいたの」
「うん。はぐれてたから道案内してた」
「道案内って…」
「新入りさんみたい。散歩してたら、ここがどこか分からなくなったんだって。霊園の長役をしてるっていう仏様が迎えに来たから、大丈夫だと思う。それより、なんかいた?」
 なんか視てるのはあんたの方だ。
「雪ちゃん、ここ、やっぱり居るよね。なにか…」
「そりゃ、霊園だし。悪さするやつはいないから大丈夫だよ。千里、なんか視た?」
「ううん。でも、何かいるなっていうのは、分かるようになった…」
私は全然分からない。
「そっか。本来誰でも視る力はあるんだ。そのうち視えるようになるよ…チサト平気?だいじょぶ?」
「大丈夫だよ」
「私の心配はないわけ?」
「朝見は見えてないっぽいし、それはそれで問題ないじゃん」
「なにその言い方」
「ええええ?」
 雪にはつい、つっかかりたくなる。実際、無邪気な分なのか、少し無神経な物言いをするので、腹がたつのは本当だ。こんなことで機嫌を損ねる私も私だが。
 たしかに見えないし、なんの問題もないけれど、気にかけてもらえないっていうのは淋しい。いや、雪に気にかけてもらっても嬉しくないけど。
「…まぁ、いいわ。あんたはそこら走り回ってくれば? 会いたい人が居るんでしょ」
「まあ、ね。んじゃ、お言葉に甘えて」
 雪が、私たちに手を振って、彼女には視えているらしいモノのところへと駆けて行った。
「で、大丈夫なの?さっきから私にひっついてるけど」
 千里は叱られた子供みたいに縮こまった。
「ごめんね。人に触れてると安心するから」
「そう。私にもその感覚、分かる時が来るのかしらね」
「来た方がいい?」
「どっちでもいいわ。でも、道を尋ねたら人じゃありませんでした、だったら困るし、視えなくてもいいかな」
「朝見ちゃんらしいね」
「そうかしら。…ん?」
 駆けてくる足音が聞こえた。
 雪かと思って坂を見上げたけれど、彼女は上の方でなにかと話をしている。うしろを振り向くと、チノパンにポロシャツを着た、生活の良さそうな雰囲気をしたおじさんが走っているのが見えた。私たちの側まで来て、ひぃふぅと息を切らしている。
「ふー、追いついた。運動不足はだめだね」
 そうやって笑いかけて来たおじさんは、全く見知らぬ顔だった。
「君たち、学生さんでしょ。なんで、こんな夜に霊園にいるんだい。帰らないとだめだよ」
「友達付き合いなんで。もう少ししたら帰ります」
「付き合いで来ているのか。ここ、霊園だよ。怖くないのかい」
「それは、ある程度は。あなたこそ、なんです?こんな時間に何をやっているんですか」
 こんなところで笑顔で話しかけられては、そっちのほうが怪しい。変態か物取りか、犯行後か。どちらにしろ、危険なやつかもしれない。
「私かい?私はこの霊園の管理人だよ。見回りをしていたんだ。最近は物騒でね、墓荒らしがいるんだ。何が目的か考えたくもないがね」
「墓荒らしですか」
「そうだよ。私としては、生きている人間の方が怖い。特に、お墓のルールを知らないような遠くから来た人はね」
このおじさんは、話好きらしい。
「ここのお墓は、当然だが、この地域に住む人たちのお墓だよ。子供の頃から親と一緒にお墓参りをして来た人たちだから、幽霊だってお墓のルールを知っている。でも、この地を知らない人間は、ルールを知らないから、平気で墓を荒らす。
決まりごとを学ぼう、守ろうという気はないのだろうかね。悲しいことだ」
「はぁ」
「君たちにはまだ分からないかな。まぁ、いいよ。君たち学生は、少しでも先を生きた人達のことを知っていくことの方が大事かもしれないな」
 話がどこに流れていくのか分からない。
 でも、千里はこういう話が好きだ。大人っぽいというか、年寄りくさいというか。今も、おじさんの話を真剣に聞いていたようだ。
 雪の方は話がすんだろうか。振り返ってみてみると、だいぶ遠いところにいる。夜の闇に紛れてかなり見えづらいが、ちょうど何かに手を振ってお別れをしているところみたいだった。
「…そろそろ、友達のところに行くんで」
「おお、そうかい。ほどほどにして帰るんだよ」
 私達はおじさんに礼をして、雪のところへ行こうと坂を登ろうとした。そしたら、彼女が坂を駆け下りてくるのが見えた。
 転びやしないかとヒヤヒヤしてみていたが、なんとか無事に私たちの間にゴールする。
「遅いぞー、何してたんだよー」
「おじさんに注意されてたわ」
「おじさんー?」
「霊園の管理人だって。多分、まだ後ろに…」
振り向いてみたけれど、下り坂の向こうには誰もいなかった。
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