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第八戦 途方

 暑い………。


 あれからいったいどれだけ歩いただろう。時間もかなりたったはずだ。


 はずなのに、風景は全く変わらない。


 どんよりと赤黒い空に、草ひとつ生えていない赤色の地面。太陽も、月もない。


 なのに暑い。


「どうなってるんだよこの暑さ」


 亮平の目は死んでいた。


 暑さで気がおかしくなりそうだ。頭がずきずきとして、熱中症のような症状がおそう。


「我慢くらいしてくださいよぉ……。私だって暑いんですから……」


 こっちにも暑さで気がおかしくなりかけているやつがいる。


 無論、目は死んでいる。


 そう、二人はこの世界にきてからずっと歩き続けているのだ。


 目的地である、地獄の宮殿に向かうために。


「なぁ、もう帰っていいか?」


 亮平のこころの声が漏れだしている。


 だってあとどれくらい歩いたらいいのかわからないんだぜ? 地獄の宮殿なんて全く見えてこないし。


「帰るにしても、どっちみち地獄の魔王様に会わないと帰れないですよぉ……。あなたは今一応死んでいるのですから、地獄の魔王様に会って現実に戻してもらわないと。自動的にあなたは死んだ、ということになりますよ?」


 テラはただ一点を見つめながら、とんでもないことをすらりといい終えた。


 会わないと死ぬか……。最悪だな。


「わかったよ。で、あとどれくらいで着くんだ?」


「それは私にもわかりません」


 なに言ってるんだこいつは。


「おいおい、冗談はやめてくれよ?」


「私はそんな面白くもないジョークなんていいませんよ」


 会話に感情が全くこもっていない。


 昔、会話ってのは、言葉のキャッチボールだとか聞いたことあったっけ。


 もしそうなら、今俺たちはボールをお互いにぶつけあってるんだろうな。キャッチする様子はいっさいない。


「そろそろ休憩でもしましょうか。私もすでに歩き疲れてしまいましたし」


 テラはブンブンと肩を回し、体の疲労をほぐした。


「野宿でもするのか?」


「しませんよ、どうして寝ようとしてるんですか。まさか、私と添い寝しようだなんて考えてるんですか? そうだったら今はお断りします」


 なんか、言ってもいないのにフラれた気がする。


 ただ、いつものテラはどこかに消えていた。それほど、疲れているのだろうか。


 二人は、近くにあった洞窟の中に入っていった。




「真っ暗だな。明かりとかないのか?」


「じきに目がなれてきますよ。それまでは私にしっかりついてきてください」


 洞窟のなかはとても静かで、二人の歩く音が洞窟内に響いていた。


 てか、テラのやつ。完璧にキャラかわってるな。


 疲れというものがこれほど人を変化させるものだとは思わなかった。


 いっそのこと、このままでいてほしいと思うのは俺だけだろうか。


 しばらくすると、本当に目がなれてきた。完全に見えるというわけではないが、近くのものなら見える。


 「この辺りにしましょうか。私は少し、体をきれいにしてきますので。この奥にある池に行ってきますね。覗きたかったらご勝手にどうぞ」


 「覗かねーよ」


 この会話が、なぜか異常だと思ってしまう。


 もし、いつものテラならどう言ったのだろう。


 一緒に入りますか? くらいなら言いそうだよな……。


「――って、なに考えてんだ俺は!」


 不覚にも、テラの入浴シーンが脳裏に浮かんでしまった。


 亮平は自分で、自分の頬を殴った。


「おれって、いったいどうなるんだろうなぁ」


 その場で横になってると、不思議と不安になってきた。


 最初は勇者になりたかった。小さい頃からずっと勇者夢見てたからな。


 でも、勇者にはなれなかった。だから、魔王になるってか……。


「おれって、半端者だな」


 亮平は笑った。


 自分を情けないと思ったからなのか。どうなるかわからないというワクワク感がそうさせたのか。全く自覚はない。


 勇者になれなかったから、魔王になる。


 でも、もし―――


「魔王になれなかったら、俺はどうなるんだろう」


 亮平は目をつむりながら、自分の将来を想像した。


 魔王になったとしても、それからはどうするのか。


 魔王になって、どうすれば勇者になれるのか。


「ま、そんなことはどーでもいいか」


 考えても無駄だなと亮平は判断した。


 そのときだった、


 ジャリッ、ジャリッ。


 洞窟の入り口の方から、足音のようなものが聞こえてくる。


 音が少しずつ大きくなってきていることから。近づいてきているということはわかった。


「誰だ!?」


 亮平は大声で叫んだが返事は帰ってこない。


 聞こえるのは、反響した自分の声だけ。


 この奥には、裸のテラがいるんだ! この先にいかせるわけにはいかねーぞ。


 ジャリッ、ジャリッ。


 それでも、足音はなりやまなかった。

 



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