EP11 自宅2
今もなお必死に魔法を詠唱し続けるテラに問うた。
「なあ、その瞬間移動の魔法ってさ発動条件とかってあるの?」
俺の問いを聞いたテラはすぐに詠唱を止めて、俺の問いに返答した。
「ひとつあげるとすれば、あくまでも移動手段で使われる魔法なので目的地がないものだったり、そもそも移動しない場合には発動はしません」
「ああ、そうなの。そりゃ、発動しないよな」
やっぱりなという安堵からくる俺の表情に対して、テラは首を傾げ不思議そうな顔をした。
つまりは、原因に気づいた俺と原因がいまだにわからぬテラ。そういう状況ってことだ。
「ど、どうして私の魔法が発動しないのか分かったのですか?」
「あ、ああ……」
「教えてください!!」
ちょ、顔が近いって!!
身体をすべて任せるかのように身を乗り出し、目を潤わせながらこちらの目をじっと見つめてくるテラ。
心臓が跳ねるスーパーボールのごとく、ドクドクと激しく動いた。
テラがこんなに近くにいるからとか、髪の毛から甘い匂いがするからとかではなく。
シンプルに発動の原因が「このゴミ屋敷が俺の家だから」だという事実を言いづらくなったからだ。
だ、だってさ!? こんなに必死になって何度も何度も魔法を詠唱したってことは、「こんな汚い家が亮平君の家であるはずがない!!!」って思ってくれたからじゃないの?
と、心の名にいる天使側の俺が叫んでいる。
それに対して悪魔側というと、
いっそのこと家、変えれば? 買おうぜ家。夢の3LDK住宅!
馬鹿野郎、まだこの家にローン返済で十年は残ってんだよ。都会内の一軒家なめんな。ボロボロだけど。
そんな感じで心の中での会議をしつつう~ん、と眉間にしわを寄せずっと考え込む俺を見ていたテラは
「もしかして私に言いづらいことだったりしますか? でしたら大丈夫です気にしないでください、私何言われても傷つかないので!!」
と俺の両手を握り、光り輝くかのような笑顔で言った。
傷つくのは多分俺なんだけどな……
だが、こうしてずっと何も言わずにってわけにもいかない。
くそ! いうしかねーのかコンチキショー!
俺は一息深呼吸をした。
そして
「テラ。驚かずに聞いてくれ。お前は魔法を使えなくなったわけじゃない。瞬間移動の魔法が原因はこの家がな……「あら!? 亮平ちゃんおかえりい!」
……ハア?
思わぬ妨害が入った。
近所に住むおばちゃんだった。
あともう少しで言い切って、この件をすっきりさせようという予定が一瞬で崩れた。
しかしそんなことなど全く知る由もないおばちゃんは、ブレーキかけることなく話しながらこちらへと近づいてきた。




