EP8 絶対反射
「テラ? 滝野に何かしたのか?」
俺はテラに疑問のまなざしを向けながら問うた。
もしも、返事が「NO」で返ってきたらとかは一切考えていない。
「YES」と返してほしいだけなのだ。
特にこうだからという明確な理由はないけれど、「NO」と言われてはいけないような気がするんだ。
「いいえ……これは魔王様ご自身で行ったことですよ」
返ってきた「NO」の返事にしばし固まってしまう。
なにか大切なものを失ってしまったのではないかという、不確かな不安が俺の心を締め付けるのだ。
「そんなことはないはずだ! お前もすぐそこで見ていたんだろう!? 俺は確かにコイツの一撃を食らったはずなんだよ? 後ろをあっけなくとられて、なにも抵抗できない状況だったはずだ!」
目の前にある事実に抗うように、俺は否定した。
自分でもどうしてここまで感情的になっているのかわからない。
まるで何かに憑かれたかのように、俺の意思で感情を抑えることができない。
「……はい、確かに後ろで見ていましたよ」
「だよな? じゃあ……誰が……」
「魔王様が滝野さんに攻撃をした瞬間を」
「……は?」
見てたんだよな?
ずっと後ろにいたんだよな?
だったらどうして俺と違うことを言うんだよ。
「訳が分からない。俺は何もしていないんだ。というよりなにもできなかったんだ。なのにいつ俺が滝野に攻撃したっていうんだよ」
「ちっ……じゃあ、無意識で発動したってわけかよ。一瞬でもこいつを魔王だと思ってしまった俺が馬鹿らしいな」
滝野は痛む手をかばいながら、その場に座りこんだ。
「発動したって……なにがだよ?」
「絶対反射、これがここの魔王だけが持つことができる特殊能力なんだ。相手の攻撃を受けたときその倍の攻撃力で相手に攻撃する」
「はあ……」と魂がぬけるかのように長い溜息をついた後、滝野は再び話をつづけた。
「だが、あの能力は狙いがつけられないと意味がない。あの能力は言ってしまえば最恐ではあるが、今のお前では全く強くない。さっきだってそうだ、もしもあたった個所が顔面とか、心臓だったら一撃で俺のこと殺せたのによ」
さっきから「絶対反射」とかいう能力について語ってくれている滝野にはわるいが、話が全然頭に入ってこない。
その能力が使えるってことは、俺が魔王になっているという証拠なのだろうか?
そして、もう人間ではなくなってしまったということなのだろうか?




