EP7 一瞬の出来事
「やっぱりな……のろいわ。人間だったらこんなもんか……」
背後から聞こえたその声は明らかに滝野の声だった。
しかしだ、あの距離から一瞬にして俺の背後に回り込むことが可能なのだろうか?
俺と滝野との間には十メートルほどの距離があったはずなのに。
「まさか瞬間移動したっていうのかよ……」
もう諦めるしかない。
背後をとられている今、俺がどうあがいてもコイツから勝利なんて得られないんだから。
「いや、そんなこと俺にはできないさ。俺はただお前の背後に走って回り込んだだけなんだから、瞬間移動だと勘違いしたのはお前の目が俺の姿を捕らえることができなかったせいだろうな」
背後に視線を向けると、拳を高く上げ攻撃の態勢に入る滝野の姿があった。
「じゃあな!」
滝野の腕が振り落とされ、岩石のように固い拳が俺の顔面をとらえた。
バキッという耳をふさぎたくなるような乾いた音が、俺たちのいる一階層に響き渡る。
「どうしてだ……?」
殴られると思った時に無意識に閉じていた眼をゆっくり開ける。
「完全に俺の攻撃はあたったはず……なのにどうして……」
視界に映りこんだのは、子犬のようにおびえている滝野だった。
さっきまでの威勢はどこにいったのだろう。
それに、おれはどうしてコイツがおびえているのかがわからない。
あまりにも一瞬ですぎさる出来事に頭がついていかない。
喧嘩をうられ、気付いたら勝負が始まり、一瞬で後ろをとられ、今のこの状況。
カップラーメンでさえ調理不可能であろう短時間にこれほど展開があるのだから仕方ないよな?
「どうして、お前は無傷なのに……俺の手が折れてるんだよ!?」
見て驚愕したさ。
さっきまで水色のような皮膚が一変し、赤黒く変色しているんだから。
内出血していることはわかるのだが、なぜ内出血しているのかがわからない。
固い皮膚であるうえにさらに鱗がある滝野の拳がそのようになるはずがないのに。
「滝野さん。そこまでにしておいてください。それ以上行くとあなたの身の保証はできません」
「……」
「魔王様にはもう十分魔王としての能力があるんです。納得してくれませんか?」
「…………」
俺の後方からゆっくりとテラが歩み寄ってきた。
なにがどうなってるんだ?
俺自身は何もしていないんだが……
「テラ? あいつに何かしたか?」




