EP6 撃
「おい、今失礼なこと考えてたよな?」
口に出して言ったわけではないのに、滝野は俺の心の声が聞こえたらしい。
ああ、あれだ。目は口ほどにものを言うってやつか。
「魔王様いくら何でも、一応一階のボスであるトカゲって言いすぎだと思いますよ?」
いやいや、言いすぎなのはお前だろ。
前半はあってるけど、「トカゲ」とまでは言ってねーよ。
「お、おい! お前そこまで失礼なことを考えていたのか!? 人間として大事なものまで失ったのかよ」
鋭いトカゲの目が潤いだした。
ドラゴンってここまでメンタル弱いのか?
次々と滝野の印象からドラゴンが消えていく。
「いやいや、そこまでは考えてなかったから」
「じゃあ、どこまで考えてたんだよ。言ってみろよ。グスン」
少し泣きかけている滝野を見た俺には不思議と罪悪感はない。
トカゲにしか見えないせいだろうか。
「一応一階のボスってとこまで……かな?」
そう答えた俺を見ていた滝野は目を細めてもう一度問うてきた。
「トカゲとは思ってないのか?」
「……」
まずい、否定することができなかった。
なんだろう意地なのかわからないが、心の奥にいる自分が滝野のことをドラゴンとして認めたくないと主張しているのだ。
「まあそんなことはどうでもいい。今、私がお前に魔王という高貴な位がふさわしいのかどうか確かめるのだからな」
一息静かに吐くと、さっきまでの様子からは想像できないようなきりっとした真剣なまなざしでこちらを見てくる。
眼光からはわずかに殺気が感じられる。
メンタルリセットが恐ろしく速い。
「へえ、ふさわしくないって判断される=死ぬってことかよ……」
心臓が命の危険を察したのかドクドクと激しく動き始めた。
いや、違うかもしれないな。
恐いっていう感情じゃない。
楽しみっていうか、興奮っていうか……
「当たり前だろ。魔王になれないようなお前に生きてる価値なんてないからな」
拳をグッと握りしめた滝野。
その容姿は格闘ゲームとかに出てきてもおかしくないほど、強く、たくましかった。
「さあ、いくぞ」
「こいよ」
俺も滝野に負けぬように、腰を深く落とし、構えた。
視線は常に滝野から離さないように意識していた、
「……な!?」
はずだった。
俺の視界から消えるかのように滝野はその場からいなくなった。
残るのはわずかにたゆたう砂埃。
「くそ! どこに消えた!?」
「やっぱりな……のろいわ。人間だったらこんなもんか……」




