EP5 滝野
「………………」
「魔王様そろそろ許してあげてください。滝野さんがかわいそうになってきました」
かわいそうとまでは思わないが、確かに少しやりすぎたような気もする。
全くと断言できるほど罪悪感などはないが。
「すまない。見えていなかったし、聞こえてなかった」
嘘だ。見えていなかったのは最初だけだ。
滝野が二言目を発したときには、完全に視力も回復し滝野の姿もばっちりと確認していた。
青色の肌をした、人型のモンスター。見た目はドラゴンにも見えるが、ドラゴンに例えるのはもったいない気がするから滝野は青色のトカゲだと言っておこう。
あと、聞こえてなかったのではなく聞かなかったのほうが正しい。
「そ、そうだったのか。てっきり無視されているのかと思ったよ」
いや、お前は正しいよ。無視してたんだから。
「で、あんたが魔王になるんだって? 本気か?」
「ああ、本気だが」
トカゲのような鋭い眼で俺のことを捕らえながら、トカゲが問うてきた。
もちろん、俺は即答した。
魔王になるために今までどれほどの苦痛を味わってきたと思ってるんだ。
ここまで来て、魔王になりませんだなんて言うかよ。
「へえ……」
鋭くとがった眼光で滝野は俺をみた。
名前と見た目のギャップが激しすぎだ。
「前の魔王さんもこんな感じだったけど、どうして最近の魔王はこんなにも弱そうなのかな?」
「滝野さん、さすがにそれは失礼だと思います」
滝野の鋭くとがった眼光よりも恐ろしい目でテラはにらみつけた。
前回見たときと同じ、あの殺意のこもる恐ろしい眼だ。
「まあまあ、そんなに怒らないでくださいよ。コイツもコイツで言われたままでいいわけないでしょうしね」
再び滝野の眼がこちらを捕らえる。
「何が言いたいかわかるよね?」
「ああ、もちろん」
どんよりと重くなりつつあった環境をつぶすかのように俺は鼻で笑った。
「力で証明しろってことだろ?」
「そうだね、わかってくれているようで助かったよ」
「ダメです! まだその体になれていないんですよ? 危険すぎます!」
どうやら一人、この対戦に反対するものがいるらしい。
「テラ様、大丈夫ですよ。彼もまた一人の男であるが故、申し込んだ戦いは逃げられないんですよ」
「ですが……」
テラはなにかを言いたそうにしているのだが、言葉がうまく出てこない様子だった。
ただ、言葉では伝わらずとも俺を見るテラの目を見れば、だいたいの言いたいことはわかった。
「俺のことは心配しなくてもいい、奴が死なないように回復の準備だけしといてくれ」
「へえー、言うね」
「……わかりました。どうが無理だけはしないようにお願いします」
「りょーかい」
テラはその言葉を残し、後ろに下がった。
「さーて、散々言ってくれるようだから本気出しても大丈夫だよね?」
「ああ構わないさ、むしろ手加減なんてしてる余裕もないと思うぞ」
鼻で笑い、見事に相手を煽ったうえで俺はテラに一言、
「テラ! 勇気の剣をくれ!」
「ん? 捨てましたよ?」
……?
捨てた……だと……?
「おい! なんで捨てたんだよ!」
「だって……魔王様なのに冒険者の剣を持ってるっておかしいじゃないですか」
「…………」
正論だよな。
魔王が勇者の剣もってるっておかしいもんな。
「じゃ、じゃあ。なにか武器くれない?」
ものをすがるような目で、テラに武器を頼んだ。
まじで魔王とは思えない行動だ。
「素手で、行きましょう」
「死ぬ」
こいつ俺を殺す気か?
よく考えれば装備はなにもつけていない。
無防具、無武器。
これで一応一階のボス的存在価値のトカゲに勝てというのかよ!?




