EP2 転移
テラの呪文のようなものによって、一瞬で城の入り口につくことができた。
視界は少しの間白い光のようなものによって見えなかったが、ゆっくりと視界が回復した。
そう、視界は回復した。
「ごほっ! げほっ!」
のどに何かが詰まったような感覚がした。
勢いよく咳をしたものだから、口の中がすこし気持ち悪い。
「あ、すみません! 魔王様!」
俺の様子をみて、テラは今にも泣きだしそうな顔をした。
軽く背中をさすってくれているつもりであろうが、背中を通してテラの緊張が伝わってくるものだから余計に気持ち悪くなってしまう。
震えがダイレクトに俺の背中に伝わるんだよ。
「も、もういい。ありがとう」
テラのさする手をかわすようにして、テラから離れた。
近くにいると、咳ばらいをしようにもしにくいのだ。
「一度、うがい等をされたほうがいいと思います。魔王様が咳き込まれた理由が、喉につまったほこりのせいであると思いますので……」
テラはあたりを見渡し、うがいのできる場所を探し始めた。
かなりテンパっている様子で、目がくるくると回ってしまっている。
「気にしないでくれ、もう大丈夫だから」
「そ、そうですか? すみません、今度からは転移する前に言うようにします」
両手を顔の前に持ってきて拝むように謝罪するテラ。
「ん? 何を言うんだ?」
「転移する際に、口を開けた状態でいらっしゃると。移動した距離に相当するホコリが口の中に入ってしまうということです」
「…………」
そりゃ、せき込むよな。
だって、最上階にある魔王の部屋からここまでくる途中に空中に浮かんでいたホコリをすべて飲み込んでいたってことだからな。
テラの使用する転移は、瞬間的に移動するものであるのだが、原理を言ってしまえば人間離れしたスピードで移動したってだけだもんな。
よく俺の肺が破裂しなかったよなと思う。
「とりあえず、今あったことは忘れて罠を仕掛けようか」
「はい。どういったものがご希望でしょうか?」
「ん……そうだな……」
さっきまでは罠に対して自分はプロだと思い込んでしまっていた俺なのだが、実際考えてみると適切な罠がわからない。
どれだけ考えても一向にアイデアが浮かばなさそうな感じがし始めたので、一度先代の魔王が設置していた罠を参考にしてみることにした。
「この近くに罠ってあるか? あるのなら見せてほしいんだが」
「わかりました、では罠を起動させますね」
テラは再び、電子端末を取り出しポチポチといろんな項目を選択していく。
『認証を確認。起動します』
「な、なんだ?」
電子端末から急に大音量で音声が流れたものだから、少し驚いてしまった。
「もう少しで、罠が作動しますよ。――あ、作動しますね」
テラの視線の先を見てみると、地面にきれいな線が伸びていく様子が見られた。
その線をじっと見つめていると、正方形のような形に線が伸びていった。
「なんだ、これは?」
「魔法陣の短縮版のようなものです。この正方形の中に罠が現れるんです」




