第四戦 魔王の座
「よろしくおねがいしますね。魔王様?」
突然目の前に、少女があらわれたのだ。
亮平は、とっさに後ろに飛びのいてしまった。
恥ずかしいことに、しりもちまでついてしまっている。
「ごめんなさい。おどろかすつもりはなかったんです。先代の魔王様から、しばらくのあいだは身を隠してろと言われたものでしたので」
ふわりとゆっくり、地面にあしをつけ笑顔を見せながら謝ってくる。
くそっ! かわいすぎる。
べつに、ロリ好きというわけではないが。久しぶりにこんなにかわいい少女をみた気がした。
でも、認めよう。たしかにこいつはかわいい。
「身を隠してろってことは、つまり隠れろってことだよな? なんでそんなことしなきゃいけなかったんだ?」
「だって、私は魔王の娘ですから」
その容姿からは、全く想像もしていなかった一言だった。
魔王の娘? つまりこいつが魔王の跡継ぎってことなのだろうか。
「しかし、それは過保護な先代の魔王様だったからこその指示だったと思います。そもそも、私は魔王になることはできません。古来より、魔王は女性にはつとまらないとされているのです。――もし、私が男の子であれば確実に首をとられていました」
「そうだったのか………。女性には魔王はつとまらない、と」
しかし、ひとつ気になることがある。
あの冒険者は、この少女のことをどうして女の子だと判断したのだろうか。
少女の「もし、私が男の子であれば確実に首をとられていました」からは、いちどあの冒険者に会ったような言い方だった。
「女である私の役目は、新たな魔王をつくり。あの憎き勇者の首をはねることです」
少女は、両手を後ろで組ながら。亮平の近くによってきた。
あまりの近さに少女の小さな息づかいも聞こえてくる。
「魔王になって、くれます…よね?」
心臓が口から出てしまうのではないと思うほど、激しく動いた。
ドキッドキッと、からだ全体に音が響く。
「一度言ったことは、曲げねぇよ」
これは、冒険者の心得にもあったな。
約束したことは、その身がどうなろうとも守れ、と。
「そうですか、安心しました」
少女は、軽やかに後ろに跳ねると。ベロをだし、さっきまでの行動を照れ隠しした。
「では、魔王になるためにいろいろなことを教えてあげないといけませんね」
「わるいな、よろしく頼むよ」
魔王っていったい何をすればいいんだろうか。
勇者と戦えばいいんだろうか。
「あと、私の事はテラと、お呼びください」
「了解した。あと、魔王様だと堅苦しいから。俺の事は亮平ってよんでくれ」
テラは、唇に指をあてて。「亮平君か………」とつぶやいた。
違和感でもあるのだろうか。
「わかりました! では、これからは亮平君とお呼びしますね! それでは、さっそく魔王になるためのレッスンでも始めましょうか!」
テラは手招きしながら、城のなかを案内してくれた。
魔王の城といっても。家庭的な部分はあった。
風呂場にキッチン。
寝室に、クローゼット。
まるで、高級感溢れる別荘のようだった。
三十分ほど経過しただろうか、城の案内がすべて終わった。
「やっと、案内は終わりましたね。ですが、これは魔王になるためにしたことではありません。本題はこれからです」
亮平を先導していたテラは、くるりと回り。亮平と目をあわせた。
「では、人間をやめてもらいましょうか」
その言葉が、飲み込めなかった。
だが、テラにふざけている様子は見えない。
人間をやめる? どういうことだろうか………