第四十七戦 あの日と同じ
俺の嫌な予感が的中してしまった。
俺の声を聞き、悠理は焦って後ろを振り向いたが、もうすでに手遅れだった。
さっきまでは、手のひらに乗せられそうに小さかったスライムが今では、悠理の伸長を超えるほどの大きさになっていたのだ。
「う、うそ……」
悠理は、ぺたんと崩れるようにその場に座り込んでしまった。
スライムのほうは、悠理をじっと見つめながら今も少しづつ大きくなっている。
「待ってろ、今タスケニ……行くから!」
今、俺の声が一瞬誰かの声になったような気が。
聞き覚えのある声だった。
だけど、今はそんなことを考えている暇なんてないんだ。
このままじゃ、また目の前で悠理が殺されてしまう!
俺は昔の思い出したくないあの日のことを、脳裏に浮かべながら目の前でおびえている悠理のところに向かおうとした。
『ダメだよ? 君には助けられない。いや、助けてはいけないんだ』
脳内にノイズのような音が響いた。
そうだ、この声。「テラ」の声じゃないか?
「うるさい! 助けるんだよ!」
どこに向かって叫ぶべきなのかはわからない、が、今は悠理を助けなければならないんだ。
俺は、頭を激しく横に振り。気持ちを切り替えてから、走り出した。
が、走れなかった。
「なんだよ……これええええええええええあああああああああああああああああ」
地面から、雑草のように突然現れた無数の腕が俺の足を捕らえた。
その腕は俺の足を、引きちぎるかのような力で地面に引きずり込もうとするのだ。
あまりのその腕のつかむ強さに、俺の足首はバキバキと音を立て始めた。
『だから。ダメなんだって。君はここで彼女を見殺しにするんだ』
「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
俺は心から叫び声を出した。
しかし、その声は特になにも意味を持たなかった。
『これで、キミは立派な魔王になれるね』
そのノイズのような声が消えるとともに、スライムは大きく上に飛び跳ねた。
俺は後追いするように、スライムを見上げた。
悠理の上に、その大きなスライムがずっしりと落ちた。
半透明のスライムの身体の奥に、つぶれた悠理の姿があった。
「くそおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
俺は空を見上げ叫んだ、視界に映ったのは、きれいに輝く満月だった。
次第に、だんだんと視界が暗くなっていき、最終的にはなにも見えなくなってしまった。




