第四十六戦 あの日
気のせいかもしれないが、少しづつ天候が悪くなっている気がする。さっきまでさんさんと照り付けていた太陽が一瞬で消えてしまったのかと思ってしまうほど、あたりが急に暗くなり始めた。
あまりにも不自然なその現象に俺は身震いした。
なにかおかしい。
根拠はないが、なぜかいまのこの状況が危ないと思うのだ。
「悠理……リタイアしよう」
「なぜですか?」
返答に困る。
理由がないからだ。
「とりあえず、帰るぞ!」
俺は強引に悠理の手を引っ張った。焦りからか、必要以上の力が入ってしまう。
「痛い! 離して!」
「あ、ごめん……」
俺は悠理からそっと手を放した。
自分でもどうしてこんなに焦っているのかがわからない。
相手は雑魚のスライムだってのに。
「私でも戦えるってことを、教えてあげます!」
細い腰に装備していた小型のナイフを手に取った悠理は、腰を低くしてナイフを構えて戦闘態勢にはいった。
危ないからやめてくれ、と本当なら言いたい。でも、悠理の気持ちを考えると、ここは止めてやらずに黙って見ておいてやるのが正解なのだろう。
兄として、ここは何も言わずにに守っておくことにした。
「それでは! いきます! 見ていてください!」
ナイフを前方に構え直し、悠理はスライムめがけて走っていった。
迷いのないその立ち回りは、ビギナーにしてはすごく優秀だと思う。
普通であれば、最初のうちは警戒してモンスターに正面から向かっていくなんてことはできない。
悠理が走っていく後ろ姿を見ていると、急に頭痛が俺を襲った。
耳鳴りも次第に大きくなり、俺は立つことすらできなくなったのだ。
「なんだ……これ……」
頭を誰かに揺らされているかのように、視界が揺らぎ始める。
「……!? どうしたの! お兄ちゃん」
悠理が俺の異変に気付いたようで、心配そうな顔をしながら振り向いた。
完全にスライムのことは頭にないのか、先ほどまで構えていたナイフが戦闘心を失ったように、ぶらりと下を向いていた。
「おい! 俺のことはいいから! 戦闘に集中しろ!」
あれ? 昔にもこんな状況があったよな……
「大丈夫なの?」
この会話も……聞き覚えがある……
「ああ。心配する……な……」
俺の脳裏に、ある日の記憶がよみがえった。
忘れることができない、あの日を。
そういえば、あの時と同じだよな……この状況。
……。
あの日と同じ状況ってことは……
悠理が危ない!!
「悠理! 逃げろおおおおおおおおおお!」
「え?」




