第四十四戦 平和は……
優しい風が俺たちの髪をなびかせている。
風が強く吹けば、木枯らしのささやくような音が体の中にまで響く。
「きれいですよね、空気もおいしいですし何よりも景色が綺麗……」
道がとてもきれいに整備されている。先へと続くこの長い道には薄い肌色のレンガが敷き詰められているし、道端には花壇があった。花壇への侵入を防ぐために用意されたに違いない柵は、家庭菜園等で使うようなとてもかわいらしいものだった。
俺たちはほかの人から見れば、兄妹でピクニックにでも来たのだろうと思われるに違いない。
ダンジョンにいるとはいえ、服装はどこかに出かけるような一般的な私服。鎧などは身に着けておらず、武器はナイフ一本のみ。
悠理は腰を低くして近くの道端の花壇に咲いていた花に手を伸ばした。黄色に輝いていているかのように見えるそのきれいな花は、花壇一面に咲いていた。
ここがダンジョンだとはだれも思えない。
ダンジョンだと思いたくない。
「どうして平和な日々を過ごせないんでしょうか……」
「俺たち人間と魔王が戦う運命だから」
「……私にはわからないです」
俺はその言葉に返答をかえすことができなかった。なにか言えばいいのに、無意識に下を向いてしまう。
現実から目を背けたのだ。
「ごめんなさい。お兄ちゃん。今のことは忘れてください」
悠理の笑顔が、どこか悲しそうに見えてしまう。
「ああ。とりあえず今は一刻も早くここをクリアして家に帰ろう」
「はい」
今回のクエストは薬草の調達だけだ。極めて簡単なクエストではあるが、報酬はとても良い。駆け出し冒険者ならば、しっかりとした装備が整うまではこのクエストを周回する。
このタイミングで装備を整えておくことは非常に重要となる。
装備も整っていないのに先に進めば、モンスターとの戦闘になったときに間違いなく死ぬからだ。
冒険者が亡くなる原因の大半はこれだといってもいい。




