第四十三戦 いざダンジョンへ!
冷たい汗が乾いた俺の頬をつたった。
目がぐるぐるとまわり、動揺をかくせない。
「忘れて……くれないかな……」
「お兄ちゃんの行動次第だね」
「……十分で準備してきます」
俺は布団から勢いよく飛び跳ねると、ドアを蹴りあけ階段を下って行った。
時々曲がり切れずに壁に激しく衝突してしまい、家中に地震でも起こったかのような振動が響き渡る。
それをただ目を丸くしながら見ていた悠理はぼそりと心の言葉をこぼす、
「本当に昨日からどうしたのかなあ。まるで別人みたい……」
一昨日までは自慢できるような立派な兄だったはずなのに……
突然の変化に悠理の頭は対応することができなかった。
朝ごはんも一気にかきこみ、パジャマから私服に着替え、急いで階段を登ろうとした。
しかし、二階に上がる必要はなく悠理は階段の一段目に座り待っていてくれていたのだ。
「……」
「…………」
なぜか、時が止まってしまったかのように二人の間に沈黙が生じる。
「なにかいうことは?」
視線を合わせてくれない……怒っているのだろうか。
待たせないように努力したつもりだが。
「ごめん」
「なにが?」
「待たせた」
「で?」
「……」
ここで、「で?」と言ってくるのか。なるほど、もしかすると悠理がほしいのは「ごめん」じゃなくてほかの言葉なのかもしれない。
俺は額に張り付く汗をぬぐい、深呼吸をして気持ちを整えた。
おそらく悠理が求めてる言葉はこれしかない!
「いくぞ!」
悠理はその言葉に強く反応したようで、こちらに振り向いた。表情はとても驚いたようなかんじだ。
「ふっ……」
笑いをこぼしたのは、俺ではない。悠理だった。
片手で口を押えながら、クスクスと肩を震わせていた。
「うん! 行こう!」
悠理は腰を上げると、俺の手をとった。そして、玄関に向かって走り始める。
妹に手を引かれるのは、もう何年も前のことだろう。懐かしさだって感じる。
俺たちは玄関から外に飛び出すと、目的地である「始まりの草原」へと向かった。




