第四十二戦 寝起き
「そう……そうだよね! わたし何言ってるんだろう。あーあ、疲れてるのかな」
「たぶんな。早く寝たほうがいい」
「うん! 先に失礼するねお兄ちゃん」
そう告げると悠理は先に寝室のほうへと向かっていった。
お互いに自分の部屋はあるはずなのだが、寝室はどうしてか共有しているのだ。ま、それがこの家族のおきてのようなものだから仕方がないのかもしれない。
俺は寝室へと向かう悠理の後ろ姿をただ何も言わずにじっと見つめていた。
「あいつ、泣いてたよな」
それは、俺の横を悠理が横切ったときに気づいていた。
泣いてしまう理由はわからくもない。死ぬことが怖いのだろう。
冒険者というものは、魔王を倒すことが仕事だ。それゆえに、一番死んでしまうリスクが高い職業でもあるのだから。
寝室を開けると、すでに悠理は寝ていた。
すぐ横には俺のために布団がきれいに敷かれていた。
俺は大きな音をたてぬよう気を付けながら、布団に寝転がる。
悠理のほうに顔を向けると先ほどまで泣いていたことがはっきりわかるほど、目の下が腫れていた。
「心配すんな。俺が勇者になってやるからな」
悠理の頭を優しくなでながら、俺はつぶやいた。
実は、俺が勇者にならなければならない理由がこれなのだ。
勇者は一人しかなれない。誰かが魔王を倒してしまえば冒険者たちは存在価値をなくす。
つまりだ。俺が勇者になってしまえば、悠理が勇者として戦うこともなくなる。
「じゃあ、明日も平和な一日を」
俺はその言葉を最後に、目を閉じた。
「お兄ちゃん。朝ごはんできてるよ! さめちゃうから早く起きて!」
勢いよく俺の掛布団が宙を舞った。
「さぶっ! もうすこし寝かせてくれえ」
「だめ!」
「あと二時間だけでも……」
「完全に二度寝じゃんか」
悠理は俺をグラグラと激しく揺らして必死に起こそうとしてくる。一方、俺のほうは体を丸くして朝の目覚めを拒む。
「仕方ないか。じゃあ私はもう朝ごはん先に食べちゃったから、先に行くね」
俺は目を丸くして悠理に問うた。
「いくってどこに行くんだ?」
「決まってるじゃない。ダンジョンよ」
「誰と?」
「お兄ちゃんと一緒に行こうと思ってたんだけど、無理そうだから一人で行く」
悠理は両頬を膨らまして、寂しそうにそういった。
「昨日はいいお兄ちゃんだったのになあ」
「なにがだ?」
「うれしかったよ、久しぶりにお兄ちゃんが私の頭を撫でてくれたこと」
「なっ! 起きてたのか……」
「うん。ちょっと寝付けなくてさ。悪いとは思ったんだけど全部聞いちゃった」




