表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者になれなかった俺は魔王に転職しました  作者: 白寺 迅
ビギナー
40/59

第三十九戦 兄妹

「やっぱり……生きてんだ……」

 うれしさのあまり、ぼろぼろと大粒の涙をこぼしてしまう。懐かしいその顔を見たときに涙腺がおかしくなったのかもしれない。とりあえず、もう二度と会えないと思っていた妹にこうしてもう一度会えたのだから。泣いてしまうのも仕方がない。

 号泣する兄の姿を見ていた妹。悠理は顔をひきつらせたままフリーズし、頭上にハテナマークを浮かばせていた。妹からしてみれば、昨日まで普通だった兄がまるで他人のように見えてしまうのだろう。

 うっすらと、そんなことにも気づいていた俺だが流れ始めた涙を止めることができなかったのだ。

「お兄ちゃん? だよね?」

 あごを触りながら悠理は俺に問うてきた。

「おいおい。俺だよ。悠理の兄、亮平だよ! 忘れたのか?」

 唾を激しくマシンガンのように飛ばしながら、かすれた声で答えた。縛られた足をバタバタさせている俺は兄として大丈夫だったのかと、後になってから気付く。

「ちょっとくらい、落ち着いたら? お兄ちゃんらしくないよ?」

「うぎゃ!」

 そう、俺も昔はしっかりしたかっこいい悠理の兄だった。しかし、悠理が殺されていなくなってからというもの俺の性格は別人のように変わってしまっていたのだ。その変化にも気づいてしまうとは、さすが俺の自慢の妹というところか。

「仕方ないよね。とりあえず家に帰ろう?」

「俺を悠理の兄って認めてくれたのか?」

「なに言ってるの? 私がお兄ちゃんのこと忘れるわけないでしょ?」

 ですよね。なんか、有難うございます。

 手錠やら、足を縛っているひもをほどいてくれている悠理のやさしさに俺の涙腺が再び大洪水をおこしそうになってしまいそうだ。

 悠理はとても優しい、優しすぎるのだ。

 しかしその優しさがあの悲劇を起こさせてしまったんだけどな。

 手錠が外され、まだ変な感覚が残る手を俺はじっと眺めていた。


 家に帰ると、俺は自室に戻り部屋着に着替えた。悠理は休むことなく夕飯の支度にとりかかってくれている。自室から出て一階にあるリビングをめざして階段を下りると、一階から夕飯のおいしそうな香りが漂ってきて俺の腹が情けない音を鳴らした。

 垂れてくるよだれを手で拭いながら、リビングへとつながる廊下を歩んだ。築四十六年のこの家はどこを歩いてもギシギシと音が鳴る。いつ底が抜けてもおかしくないボロさだ。

 そんな家でも悠理さえいればなんとも思わない。むしろ、幸せだと思えるのだ。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ