第三戦 嫉妬
結局なにもなかった、罠が作動することなく。強敵があらわれることない。
気づけば、最上階にいた。
「いったいどーなってるんだ? いくらなんでもおかしすぎる」
魔王の城は最上級難易度のダンジョンのはずだ、こんな簡単に攻略できるような甘いところではない。
――はずなのに、最上階についてしまっている。
だが、この先に魔王はいるはずだ。
きっと、一筋縄でいけるような話ではないだろう。
「やっとここまでこれたんだ。今日。このおれが勇者になる」
亮平は独り言をつぶやきながら、最上階の奥へと進んでいく。
すると、大きな扉があらわれたのだ。
いろんな鉱石に囲まれており、扉の中からは光が少しだけこぼれていた。
「………ゴクッ」
この先に魔王がいるのか。
そう考えると、恐怖で足がおびえだした。
だって、あの魔王がこの先にいるんだ。町の人たちを恐がらせた憎き魔王が――
亮平は重い右足を、動かし。その扉の中へと入っていった。
しかし、そこに魔王の姿はなかった。
だが、そこは確実に魔王の部屋だろうと思う。
地面には、大量の血糊が散らばっており。
見れば目をそらしてしまうような、死体がいくつも放置されている。
「………まだ、新しいな」
それらは、先程まで戦っていた冒険者なのだろう。血はまだ乾いておらず。いまだに血が溢れたしている者もいた。
「お、おい。そこのお前さんよ………」
「だ、誰だ!?」
亮平は後ろからふいに聞こえたかすれる声に、驚いた。この状況のなかにいるということもあり、非常に神経が敏感になっているのだろう。
だが、後ろを振り向いたが誰もいない。
「下じゃよ、お主の足下じゃ」
その声に導かれるように視線を下に降ろすと、そこには血だらけの老人が倒れていた。
「おい! しっかりしろよ!」
とりあえず、老人の側によってみた。
「ワシのことはどうでもええ、どうせもう死ぬ運命だったのだからな………ゴボッ!」
バタタタタッ。
老人の口からすごい勢いで、血が大量に飛び出した。
「無理すんなって!」
「聞け、若造よ。ワシの役目はあいつを倒すことじゃった。しかし、この体ではどうもはがたたなかったわい。そこで、お前さんにお願いじゃ。ワシの代わりにあいつを………………」
老人はいい終える前に力尽きてしまった。
しかしだ、老人の右手はとある場所を示しているようにも見えた。
その方向を見てみると、魔王の大きな椅子があった。
「よくわかんねぇけど、あの先になにかがあるってことだよな?」
亮平は、地面に散らばる屍を避けながら椅子へと向かった。
老人が指差していた椅子の裏には、大きな穴があいた壁があった。
きっとこの先に魔王がいるんだよな。
亮平は恐る恐る、穴のなかに入った。
「うそ………だろ………………」
そこには、魔王が倒れていた。
そして、その近くにいた少年は血のついた大きな太剣を肩にのせていた。
「ん? あんた誰だ? 魔王ならもうとっくに討伐したぜ?」
こいつが倒したってことなのか?
もしそうなら、こいつが勇者になったってことだよな………
じゃあ、俺は誰だ?
「どーしたー? あー、勇者になれなかったから悲しいの?」
少年は太剣をその場に捨て、亮平のところに歩いてくる。
そして、耳元に口をよせ。こう言った。
「勇者になれなかったのは、僕が強すぎたからだよ。つまり、君は僕より弱い」
その言葉が亮平の、逆鱗に触れた。
「うるせぇぇぇぇえ!!」
亮平は剣を引き抜き、少年を切ろうとした。
――が、すでに少年はそこにいなかった。
おそらく、ワープして町に帰ったのだろう。
今頃、勇者としてたたえられてるんだろうな………
あいつが羨ましい。
うらやましい。
うら ましい。
うら めしい。
うらめしい。
憎い。
いつしか勇者にならなくては、という正義感があの少年に対する。憎しみへと変わっていた。
『あいつが憎いかい?』
どこからか、声が聞こえてきた。
「ああ、憎いさ。殺してやりたい」
『そう、じゃあ私たちの魔王になってよ』
魔王になってよだと?
だけど………あいつを殺してしまえば、俺が勇者になれるのかもしれない。
だったら、魔王になってやろう。
「あいつを殺せるならなににでもなってやるよ、魔王にでもな!」
『ありがとう』
その声の主はいまだに誰かわからない。
先程のように、冒険者の声というわけでは無さそうだし………
「誰だ? 姿くらい見せろよ」
『あ、そうですよね』
その声が途切れたとともに、目の前に美少女があらわれた。
赤い髪に、赤い瞳。容姿はロリっぽい。ただ、ひとつ気になるのが角がはえているということだ。
『よろしくおねがいしますね。魔王様?』






