第三十一戦 知る
どうして俺は今ラブコメ的な状況を体験できてるんだろう。背中にぴったりと美少女がくっついてくれるなんてめったにないイベントだ。
そもそも、こんなことになってしまった原因はテラだ。あいつが変態的な行動をしたことで、アリスが警戒して逃げなくてはならない破目になってしまったというわけで俺に助けを求めてきたのだった。
助けてと言われたからには、助けなければならない。それが、俺に与えられている役目なのだから。
しかし、こんなこともふと思ってしまう。
このまま時間が止まってしまえばいいのに、と。
「き、きました!」
グイグイと後ろから引っ張られる。
後ろをチラ見してみると、アリスが俺の服を握りながらピョンピョンとはねていたのだ。
はねるのと同時に長い髪がふわふわと上下する。
可愛すぎるでしょ。
そういえば昔、ほかのだれかにもこれに似たような感情を持ったっけ。
俺は廊下からふらふらしながら出てくるテラに目を向ける。
あの時の俺はどうしてこんなやつを可愛いと思ったんだろうか。
こんな化け物みたいな動きしているのに。
「みいいいいぃつけたあぁ!」
何かにとりつかれたような恐ろしい声を出しながら、テラはアリスに視線を向けた。
目が完全にハートになってしまっている。
それにしてもどうしてこいつは四足歩行をしているんだろう……考えるだけばからしく思えてくる。
いや、実際考えなくても見ただけでコイツはバカだと判断できるのだがな。
俺は背中から伝わってくる震えを感じ、とりあえず今できることをしてみることにした。
「おい変態。少しは落ち着け」
「そこをどいてくれませんか? 亮平サン。あなたであろうと私を邪魔するのであれば殺しますよ?」
「まてまて、こんなことで殺されてたら俺の命が何個あっても足りねーわ」
「大丈夫です一撃で仕留めますから」
ダメだ。いまこいつには何を言っても通用しない。それになぜか今俺の命まで危うくなっているんだが。
テラの背後から一度俺を殺したことのある剣が現れる。
その剣を見て一番驚いていたのは香澄だった。いままでの無表情だった顔に初めて感情がこもる。
そりゃ無理もないか。この剣は本物だからな、やろうと思えばいつだって人を殺すことができるのだ。
「おい、正気か?」
冗談にしては過ぎていないか?
「あ、あんたまさか。魔王の娘か?」
俺の言葉が吹き飛ばされた。
しかし、香澄のその言葉を聞いてテラは急に正気に戻った。
「どうして、知っているの」
テラは出していた剣を香澄の首元に突きつけると、殺気のこもった視線で睨む。
もし変なことを言えば殺してしまいそうな、そんな重い空気が部屋を占領した。
さっきの行動は冗談だったとしても、こればかりはそういったわけではなさそうだ。
だって、冗談でこんな空気になるわけがないだろう。




