第二話 存在
一瞬にして冷たい空気がその場を包み込んだ。
俺の発言が時を止める魔法の如く、強烈な威力を発揮したのだ。
「おい、人間。俺をバカにするのもいい加減にしろよ」
あ、やべ。
めっちゃオコ。
心臓を直接鷲づかみされているかのような低い声からは、怒りの程度が読み取れる。
「あ、すみません。じつは聞こえてました。えへへ……日本語御上手なんですね」
後頭部をがしがしと掻きつつ、ゆっくりと振り返る。
冷や汗が止まらない。
錆びかかったからくり人形のような不自然な動きをしているって自覚はある、だが振り返りたくないと思う自分と振り返らないと殺されると思う自分が反発しあうかぎり止めることができない。
……? あれ?
完全に後ろへと振り返ったはずなのに、そこにいるはずであろう姿が見当たらない。
見えるのは罠ですと言わんばかりに置かれた宝箱のみ。
その奥には、前方と同じように赤いカーペットがまっすぐ伸びている。
「こわいなあ、てっきり敵モンスターでもでたのかと思ったよ」
ふう、と安心しきったため息をつき、そっと肩をなでおろす。
ドクン、ドクンとまだなり続けている鼓動は、当分鳴りやまないだろうな。
とりあえず、気のせいだったということにして俺は再び歩みを進め、
ようとしたその時だった。
グニッ!
なにかを踏んだような感覚が俺の足に伝わった。
視線を足元に向けると、赤い毛の動物のようなものを踏んでいた。
「な、なんだこれ?」
ゆっくり足をあげると、徐々にそれが何者であるのかがはっきりしていった。
鳥の足のような細い脚部。
腰付近から先端がフォークのようにとがった尻尾がはえ。
頭部には小さな角が二本。
間違いない。これは魔王の手下のモンスター「デビ」だ。
「おい、人間俺様を踏むとはいいど……きょおおおおおお!」
思いっきり踏んでやった。
「ごらあああああ! 踏むなあ!」
デビは吠えた後、俺の足を押しのけると天井付近まで飛び上がった。
かなり怒っているようで、鼻息が荒々しい。
「人が話してるときは聞けよ! てかそもそも踏むな!」
「だってどうせモンスターなんだから討伐する以外ないでしょーよ」
「どうせじゃねーよ! モンスターだってわかってるなら武器でかかってこいやあ!」
「そだね」
俺は、腰から再び剣を取り出し構えた。
そして剣先をデビに向けて、意識を集中させる。
改稿途中