第二十八戦 ルール
『ただいま、十二時になりました』
機械音が急にその部屋でなり響いた。
音が鳴った方向を見てみると、壁に時計がかけられている。
どうやら、この時計から音が鳴っているらしい。
あまりセンスが良くないその時計は今もまだ、音を鳴らしている。
「なによこの時計。不気味すぎるでしょ」
そういわれても仕方ない。
時計の時間を示す針が規則性のない動きをしているんだから。
こっちを向いて共感を求めるような目をしてくるもんだから、とりあえずうなずくくらいはしてやる。
「この時計だけじゃないわ、そこにあるランプとかあっちにあるテーブルも。ここの部屋にあるもののほとんどはセンスがないわ」
指をさしながら、あっちこっちセンスの悪いものを指摘する。
これには、さすがに苦笑いがこぼれた。
人のセンスをどうこう言うのはあまりよくないんじゃないか?
「そう?僕はいいと思うけれど?」
「何言ってるの? これのどこがいいってのよ?」
テラは部屋を見渡しながら返答する。
そのため、会話している相手がわかっていないのだろう。
「はっきり言うのね。そういうところ嫌いじゃないわ」
ようやく声が違うことに気付いたのか、テラはゆっくりと振り返った。
逆にどうすれば俺の声と聞き間違えるのか教えてほしいわ。
「か、香澄……さん?」
「あら、僕の名前知ってるんだ。それにしてもほぼ初対面の君から下の名前で呼ばれると、少しこそばゆいな」
部屋の入り口付近の壁にもたれるように副店長の香澄がいた。
相変わらずのその表情からは喜怒哀楽が読み取れない。
そこが恐い。
「い、いつからそこに?」
おい、声。震えてるぞ。
第三者の視点から香澄を見ると恐くないのかもと思えてきた。
だって、よく考えてみれば普通に会話してるだけだし。
「お前らが、部屋でポスター見てた時くらいからだ」
ほぼ全部じゃん。
「正直そんなことはどうでもいい。これからお前らにはここのルールを知ってもらう。いまわかりやすいようにまとめてきてやったから、これを覚えるくらい読め」
手に持っていた冊子のようなものを俺らに投げてきた。
俺は何とか受け止めることに成功したが、テラは受け止められずに冊子を派手に落としてしまう。
どんだけページがあるんだ? 分厚さはもしかすると辞典と同じくらいかもしれない。
「期限は明日。今日はもういいから、帰れ」
「帰れって、私たち帰るところないんですけど」




