第二十六戦 嘘
「僕、あんた嫌いだわ」
「――え?」
女は俺の前に立つとそう言い放った。
なぜそんなことを言われたのか、俺には全く理解することができない。
失礼なことを言ったわけでもない。確かに俺たちは騒がしかった、でも、もしもそれが理由ならテラを素通りしたのだろう。
答えなんて簡単だ、テラがしていなくて俺だけがしたことにこの女は怒っているのだ。
「ど、どうして。ちゃんと誤ったじゃんか。なんで誤ったほうの俺がそんなこと言われるんだよ……」
俺はおびえた声を絞り出すようにして、疑問を述べた。
だって、そうだろ? 俺は謝ったんだから。
「わからないのかい? 僕はお前のその態度に腹が立つんだよ」
ため息の混じった声で俺に言い放つ。
女の見下す目はゴミでも見ているようだった。
態度? 余計にわからない。
態度だったらテラのほうが悪いんじゃないのか? 働きたくないって叫んだいたのもこいつだし。
ずっと下を向きぶつぶつと何かを言っている亮平を見て、余計に腹を立てたのか女はかるく舌打ちをした。
「なんで、店長はこんなやつを採用したのか僕には全く分からないな。ま、僕の力ではお前がここで働くことに文句は言えないんだけど問題になる前にここで言っておいてやるよ」
女は俺の肩に手を置くと、耳元で小さくささやいた。
「嘘をつくならもっとばれないようにしな」
そう言い残すと、女は廊下を歩いて行った。
嘘をつくなら?
俺がいつ嘘なんてついた?
俺が振り返った時にはすでに女の姿はなかった。
「亮平大丈夫? なんか顔色悪いけど」
テラは俺のことを心配してくれていたのか、女が見えなくなると俺のそばに来てくれた。
さっきまでちゃんとした返事も返してくれなかったのに……やっぱり、根はいいやつなんだな。
「それにしても、なによあの女。目が生きてなかったわ」
テラは女の消えていった方向をじっと見た。
一方、俺はまだ立ち直れない。女の言ったあの言葉が何度も頭の中でリピートされているのだ。
「気にしてもしょうがない。まずは店長らしきあの男が言ってた人を探しましょ」
こいつはどうして切り替えがこんなにも早いんだ。さっきまで泣いてたのに。
俺もコイツみたいになりたいな。
テラは俺の手を握ると、廊下の奥へと連れて行った。
無邪気なこいつを見ていると悩む自分が馬鹿らしく思えてくる。
「……そうだよな。見つけねーとな!」
俺は走ってテラの前に出ると、今度は逆にテラを引っ張った。
支えられてばかりじゃだめだ。俺がコイツを支えてやらねーとな。
テラは俺の顔を見ると、小さく微笑んだ。




