第二十三戦 やる気
「そうかそうか。だったらさっそく裏に行ってくれ。裏には香澄っていうやつがいるからそいつにここのわからないことは聞いてくれ」
男は、俺らが働くことになったとたん態度を変えた。こんな笑顔ができたのかと思わせるほどの、先ほどからは想像もできないような表情を見せる。
俺たちはその男の大きな手に押され、店の裏手に入った。
「いててて……なんて馬鹿力なんだよ、あいつ」
男に強く押されて痛めた腰をさする。
まだ、腰の部分がヒリヒリとしびれを残していた。
そういえば、一緒に押されたテラは大丈夫なのだろうか。俺でもこんなに痛いのだから、テラが平気なはずがない。
俺の予想は、正しかった。テラは腰を抑えながらその場に座り込んでいた。肩を小刻みに揺らしている様子から泣いているのだろうと推測ができる。
店のざわつきから離れたここには、今は俺とテラしかいない。そのため、いまのこの状況はとても気まずい。男が言っていた香澄という人物も見られない。裏手といっても、まだ廊下だ。店の内装からは考えられないほどの広さで、人が三人横に並んで歩くことができないほどだ。
そんな場所に、男女が二人だけ。さらに、女の子は座り込んで泣いているのだから気まずいにもほどがあるだろう。
俺がそうこう考えているうちに腰の痛みが引いたのか、テラはゆっくりと顔をあげた。目は泣いていたため真っ赤に腫れている。
「お、おい。大丈夫かよ」
俺は心配になりとりあえずテラに手をさしのべた。
その気遣いはテラの機嫌を悪くしてしまったらしく、さしのべた手を叩かれてしまった。
「いって! なにすんだよ?」
「なにすんだよってこっちのセリフよ! どうして私がこんなとこで働かないといけないの?」
やっぱりか、と。俺は頭をガシガシとかいた。テラが泣いていたのは、痛かったからじゃない。働くのが嫌で現実を認めたくなかったからだ。泣いても現実は変わらないことに気付いた結果、働く原因である俺に怒りをぶつけてきたのだろう。
確かに怒られても仕方がない。俺の判断で強制的にテラも働くことになってしまったのだから。
でも、こうするしかなかった。すべては情報を得るために。
しかし、今はとりあえずテラをどうにかしないといけない。ここで働くいじょう、接客は避けられないのだからやる気は出してもらわないと困る。




