第二十一戦 男
グイグイと引っ張れる右腕の方向を見ると、自分よりもひとまわりおおきい男が立っていた。上にきている黒色のシャツからはみ出すように筋肉が見えていた。
男は鋭い目でおれの顔を確認すると、炎を吐くドラゴンのようにゆっくりを口を開けた。
「おいこらガキ。用がないなら帰りやがれ。お前みたいなやつを相手にしてる暇なんてこの店にはないんだよ」
その低い声を聞いたおれの腰は砕かれたかのように力が入らなくなり、その場に倒れこんでしまう。
横で見ていたテラは心配そうにこちらを見ている。が、助けの手はさしのべてくれないのか。
「ご、ごめんなさい!」
おれは泣きそうになりながらも必死に声を出し続ける。
「決して用がないわけじゃないんです! 本当です! 信じてください!」
なんか、借金取りに追われてるみたいになってきてしまった。
仕方ないじゃん! だってこんなに怖い顔でにらまれてたら誰でもこうなるでしょ!
「そうかい。だがおれはお前を全く知らねーんだわ。信じろだなんて無理に決まってるだろ?」
男は顔色を一切変えずに、言い放つ。
やっぱり無理だよな……
「だが、信じれないとは言ってないがな」
え?
「ここで働いて俺にお前を信じてもいいと思わせてみろ」
ここで働く? でもそんなことで許してくれるなら……
おれは迷った。ここで許してもらっても、働いている途中に兵士に見つかったらどうしようとか思ってしまうと、答えがまとまらなくなってしまう。
テラに助けを求めようとしたが、テラは髪の毛をいじり退屈な時間をすごしている。
だめだ、こいつに聞いたら適当な返事しか返ってこないだろう。
やったら? と、人ごとのように言われそうだ。ま、実際テラにとっては関係のない話なんだけどな。




