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勇者になれなかった俺は魔王に転職しました  作者: 白寺 迅
ハジマリ
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第一話 打倒魔王!

 俺(紙崎 亮平)は今、魔王の城のなかにいる。

 鋼のゴツゴツとした鎧を身にまとい、右手に金色に輝く勇者の剣を構えながら、慎重に攻略を進めていく。

 見た目は高校生くらいの青少年の俺だが、故郷の街では勇者にもっとも近い冒険者として魔王討伐を期待されていたのだ。

 だけど、期待されるほどの力を持っていたとしても魔王は討伐することはできない。

 魔王を見たら絶対に生きては帰ってこれない。

 いままでに、幾千をも超える冒険者たちがこの魔王の城へと挑戦しているのだが、帰ってきたものは誰一人いなかったことから、そのようなことが言いだされ始めたのだ。

 

 どこまででも続いているかのように錯覚しそうな廊下を、俺は一人で歩いていた。

 城内にある廊下は、統一されているらしくどこにでもこの紅いカーペットが敷かれている。三メートルほどの高さに設置されているシャンデリアのようなインテリアは、見たことのない宝石等で加工されていた。廊下の隅には、明かりをともすためのたいまつがトロフィーのような容器に入れられ、メラメラと青い炎を出し辺りを照らしていた。

 横幅が十メートルほどあるこの廊下を一人で歩くと、必要以上に警戒してしまう。

 こんなに広いのだから、もし敵が出てきたとき隠れることができないにちがいないだろう。

 そんなことを考えながらも、一歩ずつ確実に歩みを進めていく。

 へっぴり腰な歩き方をしている自分にはまったく気づかないがな。


 しばらく、進んでいると。あたりに白い何かが落ちていることに気が付いた。

「なんだこれ。またインテリアか?」

 俺の中で魔王の城がいつしかお洒落な別荘というイメージに塗り替わってしまっているからなのか、あるものすべてがインテリアなのではないかと思ってしまうようになっていた。

 すこし恐いがこれが罠である確率は低いだろうと、根拠のない自己判断でその白い物体を持ち上げてみた。

「うわっ! 軽いなこれ! こんな素材見たことないぞ!」

 その白い何かは、とても軽く。おそらく今まで見てきた素材の中ではずば抜けて一番軽いと断言できるものだった。

 しかし、残念なことに激しく扱うとひび割れてしまうのだ。

「生きて帰れたら、街の工房にお土産として持って帰ってやろう」

 これを見たらどんな反応をするのだろう、と考え始めた俺は魔王の城にいることをすっかり忘れてしまい必死にその白いなにかを腰につけたアイテム袋の中へと丁寧に扱いながら入れていった。

 ただ何も言わずに黙々と袋に入れるその姿は、潮干狩りに夢中になっている少年のようだ。

 一応、言っておくがここは、魔王の城のなかだ。


 とりあえず、見える範囲に落ちているものはすべて回収し終えた。

「けっこうとれたな、これだけあればなにか一つくらい装備品とかつくれそうだな」

 達成感に浸る俺は、満面の笑みを浮かべながら立ち上がった。

 家を出るまでは、しぼんだ風船のようになっていたこのアイテム袋も今でははちきれそうになっている。

「さあ、待ってろよ! 魔王!」

 俺は鞘に入れていた剣を、再び手に持っていつ敵が出てきてもいいように深く構えなおした。

 腰を低くして、足を引きずるようにして歩く。

 よく言えば、慎重に進んでいる。

 悪く言えば、ビビりながら進んでいるといったところか。

 しばらく、歩みを進めていると罠ですと言わんばかりの宝箱が置いてあった。

「はい。罠ですよね、これ。引っかかる馬鹿がどこにいるんだよ」

 目の前にある宝箱に視線を向け、一度その場で立ち止まってみた。

 金色に輝くその宝箱がどうして、罠だと判断できるのか。

 確信ではないが、おそらく罠に違いない。

 だって普通、財宝とかを入れるようなものをこの広い廊下のど真ん中におくのか?

 俺たち市民にとっては、頑張ってためている貯金箱を家の前に置いておくようなものだ。

 しかし、財宝の入った宝箱ではないという根拠がない。そのため、簡単に見逃すといったこともできないのだ。

 一人暮らしの俺は、ここ最近、金にとても困っていた。俺が今持っているこの剣でさえ売りさばかないといけないという状況まで追い込まれるほどにな。

 だからこそ、この宝箱の中にある可能性が俺の足を止めるのだ。

 財宝だったら、財宝だったら、と欲望丸出しの文字が俺の脳内で泳いでいた。

「いや、時間はまだある。じっくりここで考えるとするか」

 出したばかりの剣を再び鞘にしまい、その場に座り込んだ。

 ここがどこなのかということを、良く忘れてしまう。

 さっきだって、本当のことを言えば売るために採集していたのだから。

 仕方ない、家計が苦しいんだからな。

 顎に手を当てて、じっくりと考える。

「これを持って帰るとしても、どうやって持ち運ぼうか。抱えるにしてはデカすぎるし、引きずると価値が下がるかもしれないし……う~ん、どうしようか……」

 骨董品を見ているかのような気分だ。

 見れば見るほどに吸い込まれていくような感覚。

 そうだ、そうだよ。ここで開けなければいいんだよ。罠が発動してもいいように、この城の外で開けてしまえばいいんじゃない?

 そうして俺はながきにわたる激闘の末に、最良の答えを導き出した。




「とりあえず、保留だな。また戻ってきたときに持って帰るとしよう」

 宝箱のふたを軽くなで、「待ってろよ、必ず戻ってくるからな!」と言い残した俺は気持ちを切り替えて再び魔王の城の攻略を始めた。

 しかし、二歩、三歩と歩みを進めていると、背後になにか気配を感じ始めたのだ。

 宝箱から一度目を離した俺ではあったが、一獲千金の可能性を抱く神秘の箱をそう簡単に見放せるわけがない。その金に対する異常な執着心が俺の感覚を研ぎ澄ませていたのかもしれない。

「誰だ!? 後ろにいるってことはわかってるんだ!」

 正直に言おう。後ろにいるかも……くらいしかわかっていない。

 でもさ、でもさ? 一度くらいはこういうセリフ言ってみたいじゃん? 

 そんな程度の気持ちで言い放った言葉、たとえ返事がなくて俺の勘違いだったとしても俺は全く気にしないつもりだ。

 だって、いないんならここには俺以外誰もいないってことだからな、故に、俺の頭の中で記憶をその部分だけ抹消してしまえばいいんだ。

「……」



「…………」




「………………」

「どうして気付いた?」

「へ?」

 うわー、「だよねー、いないよねー? HAHAHA……」で終わらせようと思ってたのに。

 いや、俺の感が当たってたのはうれしいんだよ?

 でもさー、まじでいるなんて思わなかったからさー、困っちゃうな。

「へ? じゃない。どうして俺に気付けたんだ、と聞いている」

「いやあ、その……HAHAHA」

 実は俺、極度の人見知りなんだよ。

 特に今話しかけてきてるコイツとか苦手なんだよなー。今あったばっかりの人間(相手は何者かわからないが)なんだからさ、「あの、どうしてお気づきになられたんですか? もしもよろしければ教えてはいただけないでしょうか……? ……あ! 無理にとは申しませんよ?」くらいの、コミュニケーションしてくれよ。

「ダメだ。もしかして俺の言語はこいつに通じないのか? やはり、人間というものは面倒だ」

 「大丈夫ですよ、通じてます」なんて……




 言えるかよ!?

 こうなったら通じてないってことで通して一生無視してやろうか??

「ナニモワカリマセン。アナタハナニヲイッテルンデスカア?」

 生まれてきておそらく一番馬鹿みたいな口調だった。

 いや、一番だな。これはさすがに。

 


 

 

 

 

改稿済み

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