第十七戦 作戦会議
暗い洞窟内に俺たちはいた。互いに正面を向き合い、話し合いをしている。内容はそう、おれが国王になるというもの。
気づけば指名手配されていたおれに与えられる選択肢はもうこれしかないのだ。できれば、面倒事は避けたいが、指名手配にされている時点ですでに面倒なことになっている。
「亮平を国王にしようプロジェクトの作戦会議を始めます!」
なぜか、テラは楽しそうに会議を進めようとする。言っておくが、そんなに楽しい話でもないはずなんだけど。失敗はおれの死を意味することを忘れないでほしい。
それに、なんだ「亮平を国王にしようプロジェクト」って。いつおれががそんなダサいプロジェクト名を認めたんだ。
おれはため息混じりに、頭を抱えた。
あんな提案をしなければ、こんなことにはならなかったのに……
「まず! 私の計画からお話するとしよう!」
テラは腕を組み。自信にあふれた眼差しでこちらをみてくる。
あまり、期待はしないけれど。一応聞くくらいはしとこう。
「最初は、亮平と私で王国に入ります」
「おう」
さっそくおれの命が危ないような気がする。最初から死亡フラグのたつ作戦など、成功するのだろうか。
「次に、国王を暗殺します」
「……おう」
さすがに、こればかりは飲みこむことができない。国王を殺すのか? 殺してどうするだよ。おれの罪がよけいに重くなっていくだけだとおもうんだけど。
おれは、この会議でいつまで平常心を保てるんだろうか。
そんなことなどお構いなしに、テラは会議の進行を続ける。
「最後はにげます」
「却下」
逃げんのかよ! 「亮平を国王にしようプロジェクト」の名前がまったく作戦と違うじゃねーか。
軽くおれは、テラのでこにチョップした。いてっ、と、テラは自分のでこをおさえる。
「また、女の子に手を出しましたね」
テラはおれのことを、変質者をみているかの目で自分の小さな体を両腕で守った。
「やかましいわ、おれを国王にするプロジェクトじゃなかったのかよ。国王を殺して逃げたら普通に犯罪じゃねーか」
「あ……」
「あ、じゃねーよ」
もう一度、でこにチョップした。
「痛い! 痛い! もっと加減くらいしろぉ!」
テラが涙目でこちらをにらんでくる。ついついバカなことばかり言うものだから、手加減するのを忘れていた。
確かにあたったときの音がすごかったもんな。中身のつまっていないスイカを叩いたような感じだった。
てか、チョップされることについては怒らないのか。あらためて、こいつの考えてることがわからなくなったよ。
「じゃあ、チョップしねーからもっとまともな提案をしてくれ」
「こうなったら、プラン2を決行しましょう」
ピースしながら、テラはおれの目の前に指をつきだしてきた。もう少しで目潰しされるかとヒヤヒヤするほど、近い。
プラン2ってのは、ちゃんとしてるんだろうな。
「最初は―――」
最初になにをするんだぁぁぁぁあ!
「亮平と私で王国に入ります!」
あ、どうやら「亮平を国王にしようプロジェクト」ではおれは最初に王国に入ることが決まっているらしいな。もし、プラン3とか出てきても、最初におれは王国に入らなければならないのだろう。
「そして、次に。国王を殺します」
「さっきとかわないじゃねーか」
「いえいえ、馬鹿者ですかあなたは。かんじんなのはこれからなんです」
馬鹿者だと……一番言われたくなかったやつに言われるとこんなにもこころにくるんだな。
まぁ、かんじんなのがこれからと言うのだから、聞いてやるとするか。会議というよりかは、プレゼンみたいになっている気もするが。
「最後に、国王になります」
「いやいや、なるのはわかってるんだよ。今話したいのはどうやって国王になるかだろ?」
「あ……」
だからその「あ……」をやめてくれ。
「とりあえず、そういった情報を私はもっていません。ですので、偵察をしに一度王国に行ってみるというのはどうでしょうか?」
テラは自分のあごを少しさわりながら、なかなかいい提案をした。
確かに情報がわからないいま、計画をたてるのは不可能だろう。それならば一度王国にいって、情報を得る方が一番の選択なのかもしれない。
「確かに、情報は必要だな」
おれの返答にテラは目を輝かせた。誕生日プレゼントをもらった小学生のような眼差しをしてくる。
この提案は確かに危険かもしれないが、情報がなければいい計画をたてることはできない。よって、危険を理解したうえで決行するしかない。
「では、さっそくいきましょうか。十分休めたから、きっとすぐつきますよ!」
テラは両手をあげて5歳児のように、はしゃぐ。遊園地にいくわけじゃないんだけど。
とりあえず、やることは決まった。
目指すは王国。
おれらは、テラを先頭に王国へと向かった。
ついに俺たちは王国の前へとついた。自然と、二人とも膝に手をついてしまう。
「おまえ、こんなに遠いとこ往復したのかよ。そりゃ、倒れてもしかたねーわ」
体力が満タンの状態でも、この距離はきつい。普通にフルマラソンくらいの距離はあるぞ。
「えへへ、それほどでもないですよぉ……」
なるほど、疲れているときのテラはウザさが半減するのか。これはいい収穫だ。
しかし、これからが本当にたいへんなんだ。捕まるかもしれないというリスクをおって、王国に入らなければならない。
最悪の場合は、捕まる。
一刻も早く、情報を手にいれないと。
「お前ら、何者だ。どこから来た?」
首にひんやりとしたものが、あたる。それは、王国の兵士が持っている槍の先端。
だめだ、ここで焦れば間違いなく殺られる。落ち着け落ち着くんだおれ!
「ただの旅人です。疲れた体を休めるためにこの王国へ足を運ばせていただいただけです。けっして怪しいものたちではありません」
震える声を、必死にコントロールした。とりあえずこれでなんとかなるか?
賭けだ。殺されないという保証などあるわけない。
「ほう、そうか。それは大変だったな。ゆっくりしていくといい」
兵士はとても優しかった。その優しさに涙がでるかと思った。
首もとにあてられていた、槍を兵士は背中にかけると。申し訳なかった、と頭を深くさげた。
めっちゃいいやつだな。
「ありがとう」
おれは、門の前にいた兵士にそういってから。門のなかに入ろうとした。
「あ! そうだ」
兵士の急な声に、ビクリと背中がはねる。
まさか、ばれたか?
「最近この辺に、指名手配犯がいるらしいんだけどさ―――」
兵士はおれの方には目を向けずそのままはなしつづける。
「きをつけなよ」
その、「きをつけなよ」の本当の意味がよくわからなかったがとりあえず。バレずにすんだのか?
「まさかな……んなわけないよな。」
兵士には聞こえない小さな声で呟いた。
妙な予感がしたが、気にしないことにした。
「どうかしたの? 顔色わるいよ?」
テラは心配そうにおれの顔を覗きこんだ。
まずいな。また顔にでてたのか。
「なんでもないよ。ありがと」
なんでもない。
門をくぐると、明るい光がおれの目を襲った。洞窟になれてしまっていた目に、この明るさは辛い。
ま、とりあえず。王国に入ることは成功した。




