第十六戦 休憩
俺らは無事に再会することができた。互いが互いを必要と思った。独りではなにもできない。二人だから乗り越えられるんだ。これからもずっと側にいてくれ。テラ。
あれから俺たちは長旅での疲労をとることにした。テラほどではないけども、俺もそこそこ疲れていたしな。
「とりあえずそこら辺で少し寝るわ。なんかあったら起こしてくれ」
大きなあくびをしながら、洞窟内のゴツゴツとした壁にもたれかかる。背中にあたる壁は心地のよいものではなかったが、そんな贅沢も言ってられない。あくまでも、仮眠程度。王国の兵士がくればすぐに戦闘の準備をしなければならないのだ。
疲労をとっているからといって、俺の指名手配が取り消されるわけはない。常に追われているという緊張感をもたなければ。
考えるだけでも心臓が締め付けられそうになる。が、おれにはテラがいる。どんなことでも二人で乗り越えてみせるさ。
安心した優しい顔で、亮平は眠りについた。
テラはそれを確認すると、子守りをする母親のように軽く亮平の頭を撫でた。
「この人なら、私を助けてくれるのかな……」
ぼそっと呟く。テラの瞳からは不安の感情が読み取れた。ただなにも言わずに亮平の顔を見続ける。
(やべ、どうしよ。寝れないんだけど)
実はまだ寝ていなかった。寝ようとは思ったけれど、想像以上に洞窟内の壁は寝心地が悪く。壁のことを意識していないと、背中におそろしいほどの痛みをうけることになってしまうのだ。
そのため、寝れない。
それに今のこの状況はなんだ? どうして俺はテラに頭を撫でられて、顔をずっと見られているんだ?
わからん。まったくわからん!
亮平は心のなかで叫んだ。テラ本人に「なんだよ」と言おうとも考えたが、心の高鳴りが邪魔をしてしまう。
気まずい時間がただゆっくりと過ぎていく。
だんだんと顔が熱くなり、心臓の音も大きくなってくる。状況に対応しきれず、頭が爆発してしまいそうだ。
なぜが、テラの口元がゆるみはじめる。ニヤリと目を輝かせるその顔はサキュバスのようにも見えた。
「亮平 起きてますよね」
「……」
ば、ばれてたのか。
つい無視してしまったけれど、さらにこの状況から逃げにくくなってしまった。寝てないよぉ! だなんて言えないぞ。一応言っておくが、おれにそんな度胸はない!
「そうきましたか……では、仕方ないですよね」
先程のようにサキュバスのようなニヤリとした顔をしながら、両手をおれにむけた。ニヒヒと言いながら、やらしい手つきで少しずつ両手が近づいてくる。
いったい、俺はなにをされるんだろうか。犯されるのか?
「これは面白くなりそうですねぇ」
ズズッと、テラはよだれをぬぐった。
やべぇよ? マジで犯罪者の顔してんぞ、お前。
細い指先が、俺のからだに触れそうになった時点で俺は諦めた。
「ご、ごめんなさい! ずっと起きてましたぁ!」
俺は跳び跳ねるようにその場から逃げて、テラから距離を保ち。空中で華麗に姿勢を整えて、着地と同時に土下座をした。
「やっぱりそうでしたか。起きてるなら起きてるって言ってほしかったんですけど」
「寝ようとはしたぞ! でも、寝心地が悪くてさ。寝れなかったんだよ」
寝れなかった理由はそれだけではないのだけれど、言い出すことができなかった。
「へぇ、そうでしたかぁ」
じろりと半目でこちらに疑いの眼差しを向けてくる。
「な、なんだよ。嘘なんかついてねーぞ?」
声に安定感が見られない。動揺していることがバレバレだ。それに、冷や汗がとまらない。
テラにこれ以上突っ込まれると、俺がなにも言い返せなくなってしまうだろう。だから、そうなってしまう前にこちらから話を切り替えてやる。
「ところで、テラ。これからのことなんだけど――――」
「私たちの関係のこと?」
「ちがうわ!」
高速の会話のラリーがくりひろげられた。
俺もだんだんとこういったときに対応することのできる、反射神経がよくなったのかもしれない。ツッコミの切れ味があがってるな、おれ。
俺はため息混じりに会話の続きを続行させた。
「俺が指名手配されてることについてなんだけど、このままだったら俺は外で自由に行動することができなくなる。何回も考えたんだけど、それっていろいろ不便なんだよな―――」
「……」
返事はしてくれないけれど、小さく頷いてくれてるってことはわかってくれてるってことだよな。
「でさ、いずれ指名手配を取り消してもらわないといけなくなるわけになるんだけどさ。テラならどー思う?どーすれば、俺の指名手配が取り消してもらえるか」
「捕まる」
「運悪かったら、おれ死ぬじゃん、それ。もっと平和的な考えはなかったのかよ」
あいかわらず言うことが恐ろしいわ。ずっと側にいてほしいけれど、テラの思考が変わってくれないといつか殺されてしまいそうだ。
「じゃあ、亮平はなにかあるの?」
テラは首をかしげて、人差し指を唇にあてながら問うてくる。
「なにかって、指名手配を取り消してもらう方法の話のことだよな?」
一応、質問してみる。話の流れからして指名手配のことなのはわかっているが、相手はテラであるためそんな常識的な考えがあたらないときもあるのだ。
もしも、勘違いしたまま話を続けたとしたら、きっと話が訳のわからない方向へと飛んでいってしまう。
それだけは避けたい。
「もちろん、だって今はその話をしてるんでしょ?」
はい、正論です。俺の考えすぎでした。
俺はこころのなかで、反省をのべた。
少し癪だけど、確かに今は俺の指名手配についての話をしている途中だ。これからも、こういった一般的な会話をしたいものだよ。たぶん、無理だけど。
悪い、悪いと言いながら、話を続けた。
「俺が考えたのは―――」
俺は自分の思ったことを述べた。なにもふざけたことは言っていない。だけど、確かに一般的な解決方法じゃない。
今、テラが目を見開き、バカみたいに口をあけながら驚いているのも無理はないだろう。
俺が述べた内容、それは
俺自身が国王になって、王国をのっとり。指名手配を取り消す。
我ながら、なかなか思いきった方法だと思う。だが、それ以外にいい方法なんて見つかりそうもなかった。
「魔王らしくて、いいじゃないですか」
嬉しそうに笑いながら、そう言ったテラがおれには眩しくて見れなかった。久しぶりにテラの笑顔を見たきがした。地獄にきてからというもの、苦しそうにしている顔や、無理をしている顔や、泣いている顔しか見ていなかった。それがあって、テラの笑顔がよけいに輝いて見えてしまうのだろうか。
魔王らしくていい、がよくわからないけれども。とりあえずおれの意見を飲み込んでくれたらしい。
「じゃあ、さっそく作戦会議といきましょ!」
えいえいおー、と言わんばかりのテンションで左手の拳を上に高く挙げた。それにつられておれもふいに手を挙げてしまう。
この作戦がおれのこれからを、大きく左右することになるだろう。
成功すればいいが……な……。




