第十一戦 殺める
洞窟の外に出ると、眩しい光が目をくらませた。明かりがついていたとはいえ、暗さになれてしまっていたこの目に外の明るさはとても眩しいものだった。
辺りはまだ白くぼやけている。
おれは両目をこすり、必死にぼやけた目を治そうとした。
その成果が出たのか、しだいに視界がよくなってきた。
「う、嘘だろ……」
外は火の海だった。辺り一面が炎で占拠されており、所々に人の死体が転がっている。
しかも、まだ戦いは終わっていないらしく。いろんなところから刀と刀がぶつかるような金属音が響き渡っていた。
「テラ、おれはいったいどうすればいいんだ?」
視界にはテラはいない。
テラが言っていたとおり、彼女は刀を亮平に渡したあとすぐに消えてしまった。だが、きっと見えないだけで側にいる。
『君の目に映る人間は全て敵だよ。それにここで殺さずともきっといつかは殺さなくてはならないんだから、いっそのこと全員殺せば?』
刀から、テラの声が聞こえてきた。
まったく、平気にそういったことを言いやがる。
「了解した」
おれはもっていた刀を構え、戦場のなかに飛び込んでいった。
辺りに燃え盛る、炎がとても熱い。
近くを通っただけでも、火傷になりそうだ。
『左に三人。前方に一人いるよ』
「近いのはどっちだ?」
『左の三人』
亮平は進行方向を、すぐに変更し左に走った。
炎で回りがまったく見えないために、自分では敵がどこにいるかなんて判断がまったくできない。だから、そういった面ではテラが必要になった。
「いた」
炎の奥に、人の影のようなものが見えた。
テラが言っていたとおり、三人の敵がそこにいるのだろう。影は三つあった。
心臓が痛くなってきた。これから人を自分の手で殺すのだと考えると、心臓の鼓動が急に高まった。
剣を握ったことは何度もある。が、人を殺したことなんて一度もない。殺してきたのは全て、モンスターのみ。
『どうしたんだ? 殺さないの?』
わかってる、気持ちはこいつらを殺そうとしている。でも、からだがいうことを聞かない。あと一歩踏み出せば、敵の目の前までいけるのに。足が地面にくっついてしまっているのではないかと思うほど、足が動いてくれない。
このままずっとここにいるわけにもいかない。相手も自分と同じように、一歩踏み出せば俺を殺せるのだから。
「あの男いったいどこいったんですかね?」
「まだそんなに時間もたっていないんだから、きっとまだこの近くにいるはずだ」
三人の会話が聞こえる。
きっと、「あの男」というのは洞窟で力尽きてしまった男のことだろう。
『おい、敵がこっちに来てる! 逃げるか、戦うのかどうするだよ!』
テラの焦る声も、今の亮平には届いてなかった。
緊張。恐怖が、頭のなかをずっと駆け巡る。
動けよ。動いてくれよ。
動かなくっていたのは、足だけじゃない。
からだが金縛りにあってしまったときのように、硬直してしまっている。
「あれ? そこに誰かいるのか?」
三人のうちの一人が、亮平に気づいてしまった。
「兄貴、どうします? 殺しますか?」
「まぁ、待て」
兄貴と呼ばれた、一番大きい男がこちらに歩いてきた。
顔やからだにはベッタリと、血がついている。
この戦場で、いったい何人の人間を殺したのだろう。
「おい、おまえ。ここら辺でライターもってる男を見かけなかったか? この地域でライターってのはさ、とても希少品でな。きっともってるのはあいつぐらいだろうよ」
知ってる。でも、もうここにはいない。
あの洞窟にいるのは、死体。
こいつらのせいで、あいつが死んだのか。
「……」
「無視かよ。じゃあ仕方ねーよな。ここで、死んでもらおうか」
男は、腰にかかっていた剣を抜き出し、大きく振り上げた。
まだ、亮平のからだは動かない。いや、動けない。
「恨まないでくれよ? おまえが悪いんだ」
男が剣を降り下ろそうとしたときだった。
『ちょっと、からだ借りるね?』
「どりゃあ!」
男は大声とともに、力強く剣を降り下ろした。
赤色の血の雨が降った。
しかし、なにかを切ったという感覚がない。
「な、な……なんでだ」
男は目を点々とさせ、自分の利き手の方を眺めていた。
さっきまで剣をもっていた腕が、地面に転がっている。
男はなぜ自分の手が切り落とされたのか、理由がわからない。
「あ、兄貴!」
男がその声を聞き、まさかと思ったのだろう。目を見開いたまま後ろを振り返った。
そこには、手下が二人。
二人とも、首から上を切り落とされている。
「な、なにがどうなってるんだよ!」
男はパニック状態になり、その場から逃げようとした。
「させるかよ」
男の後ろから冷たく静かな声が聞こえる。それと、同時に両足に激痛が走った。
男はその場に激しくこけた。おびえながら自分の足をみる。
「マジかよ……。いてぇよ……」
両足がなかった。
「君が殺してきた人たちも同じことを思ったと思うよ?」
男はかなり精神的にきていたようで、気を失ってしまった。
「もっと殺したい気もするけど、今日はここらへんにしておこうか。このからだも私のものじゃないし、はやく返さないとね」
亮平のからだは、魂が抜けてしまったかのようにその場にたおれた。




