第九戦 勇者か魔王か
ジャリッ、ジャリッ。
足音は少しずつだが、確かに大きくなってきている。つまり、この足音の主はこちらに近づいてきているということになる。
その足音の正体がわからない今どのように行動すればいいのか、まったくわからない。
おれの方から近づいていくか。
それとも、後ろに戻ってとりあえずテラに状況を説明するか。
「そこら辺に武器になりそうなものはないか……?」
亮平は近くに、武器の代わりになるようなものがないか探した。
ここで立ち向かうしかねーよな。
べつにテラをかばうつもりではないが、さすがにあいつも女の子なんだし、裸を見られるのは恥ずかしいだろうからな。
「とりあえず、形にはなったかな。相手がもし、武器を持っていたら間違いなく負けるだろうけどな」
亮平は少し苦笑いしながら。自分が選び抜いた武器を眺めた。
右手に、木の枝。
この枝はとても、長い。なので、このリーチをいかして遠距離戦にもちこむのだ。
だが、圧倒的なデメリットは折れやすいということ。洞窟の中にあったので、少し湿っていることもあり、頑丈性には優れていないと言えるだろう。
そして、左手に、てのひらサイズの石ころ。
なんといっても、この大きさがたまらない。にぎれば手にすっぽりとおさまる。
ちなみに、先ほどの木の枝が折れたときに。最終手段として利用する予定だ。
無論、投げる。
デメリットは、コントロールしだいであたるかあたらないかが左右されるということだろう。
あたる確率? そんなもの1割くらいだろう。
ヒットする割合がな。
つまり、結論を言おう。
もし、この足音の正体が敵だとすると。俺たちには逃げ場はなく、どうすることもできないのだ。
いわゆる、袋の中のネズミってやつ。
だから、立ち向かう以外に方法はないのだ。
「おい! そこにいるのはわかってるんだ! でてこい!」
一度でいいから、この台詞を言ってみたかった。
「た、たすけて……ください」
洞窟の暗さでまったく見えてなかったが、近くで見たことで正体がわかった。
俺と同じくらいの年齢。高校生くらいの大きさの男だ。
ただ、見た感じ敵には見えない。それに息づかいが荒く、とても苦しそうだ。
「ど、どうしたんだ?」
「今、この近くで内戦がおきてまして勇者でもない私が、まきこまれてしまったのです。おそらく、敵のスパイだと思われてしまったのでしょう……」
男は言い切るとその場に倒れてしまった。
この近くで内戦がおきてるだと? 人なんてまったく見なかったのに。本当にそんなことになってるのか?
今、出会ったばかりの人を信じろというのは少し無理があると思う。悪いが、半信半疑くらいで今の話を飲み込むとしよう。
「悪いけど、明かりとかつけてもらえないかな? さっきからずっとこの暗さなんだよね」
出会ったばかりといっていたのに、亮平は馴れ馴れしく話す。
都合によって、言っていたことを忘れる。これが亮平の悪い癖のひとつなのだ。
「ライターで………いいか? 燃やすもの………があれば……助かる………」
亮平は真っ先に、右手に持っていた木の枝を渡した。湿ってはいるが、場所によっては火の燃えそうなところもある。
ライターに火がつき、木の枝を燃やそうとしたのだが。
燃えるまでに、とても時間がかかった。
木の枝が湿っていたからとか、そういった理由ではない。
ライターをもっていた、この男の手がとても震えていたからだ。
いや、震えていたというよりかは上下になんども動いていたという方がただしいのか。
亮平は、木の枝を片手に頑張ってライターの火を追いかけた。
火が当たったと思えば、火が離れていく。
一瞬、この男はふざけているのではないかとさえ思ってしまうほどだった。
動きがだいたい、わかった気がした。
予想した通りに、木の枝を動かす。
ボォォォォォオ!
火は、やっと木の枝に燃え移り。大きくなった火が辺りを明るく照らした。
「やっとついたな。サンキューな、助かった――」
亮平は男のほうに目線を向けると、言葉がでなくなった。
「お、おい!」




