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六話目 来たる猛特訓! (後編)

かなり遅れてしまいました。

本当に申し訳ありません。

「何度言えば解るんだ! 魔術とは素晴らしい物だぞ!? いいか? まず、魔力がだな――」

「だーかーら! 魔力がどーこー言われてもあたしには分かんないし!」

「雨宮! お前ホントに分かんねーの!? 最高だろ魔術は!」

「なんで分かるのよ! 大体アンタはキャラが変わり過ぎなのよ!」

「皆、少し静かにしようよ……」


 現在、訓練場周辺では数人の話し声が聞こえてくる。

 どうしてこんなことになってしまったのか?

 飯田は呆れながらも、なんとか場を収めようとしていた。

 

 元々、ジェルマンが魔術について玉夫達に教える。その為に彼はここへやって来た。

 主に玉夫が積極的だったこともあって、順調に進んでいるはずだったが……。


「全然わかんない。どうゆうことなの?」


 雨宮は違った。

 特別、魔術に興味があるわけでもなく、座学の類は苦手だった彼女にとって、この話は念仏以下の物でしかない。

 そんな彼女が、熱く語り始めたジェルマンの説明で理解できるはずもなく、今の状態に至る。


「雨宮さん、もう一回だけ聞いてみない? そうしたら分かるかも……」

「でも、あたしこういうの苦手だし……」


 この調子ではいつになっても魔術を教えることができない。

 ジェルマンがそう思い始めた時、一つの提案が出てくる。


「魔術、生で見たいなー」


 言い出したのは玉夫だった。

 その目はとても爛々輝いており、何か考えがあってとか、雨宮の為だとかという訳ではなく、ただ純粋に自分が見たいだけだと、誰が見ても分かる顔をしている。


「ふむ、そんなに見たいのか?」

「超見たいです!」

「ならしょうがないな! 特別に見せてやろう!」

「さすがジェルマンさん! おれたちにできない事を平然とやってのけるッ。 そこにシビれる! あこがれるゥ!」


 色々とあった結果、玉夫とジェルマンだけで話が進みに進み、魔術を実際に見せてもらうことになった。

 

 


 なお、完全に蚊帳の外だった二人はというと――。


「ねぇ、飯田……」

「何?」

「アンタ、アイツ等は止めないの?」

「めまいがしてきそうなんだ……」




 二人を見て完全に呆れていた。




~~~~~~~~~~~~~~~~~




 

「では、見せてやろう!」


 ジェルマンは手を地面に当てた。威圧感にも似た何かが、彼の体を覆い始める。

 すると、周りの土が盛り上がり、少しずつ形を成して、人型の塊が形成された。


「おお!」

「どうだ? これが土人形(ゴーレム)というもので、魔術を学ぶ時、最初に作るものだ!」


 彼は説明を入れながらも、土人形(ゴーレム)を常に動かしている。


 その土人形(ゴーレム)は、作った本人よりもコミカルに動き、また彼自身の表情からも、かなり手馴れていることが分かる。


「さて、私が土人形(ゴーレム)を作っている時に何か見えなかったか?」


 この問いに対し、三人が答える。

 

「なんか煙みたいなのが出てたわ」

「青白いのがぶわーって出てた」


 という感想の雨宮と玉夫に対し飯田はただ一人。


「すごく、変な感触はしました……」


 とだけ答えた。


 この回答に首を傾げていた玉夫と雨宮だったが、ジェルマンはすぐに飯田の言葉の意味を理解した。

 

「なぁ、フレデリック。魔力自体は見えないか?」

「いえ、僕は見えなかったです……」


 ジェルマンの問いに対し、飯田は素直に答えた。

 その話を聞き、ジェルマンは実に嬉しそうに飯田に話し始める。


「素晴らしいな君は!」

「えっ? 僕が?」


 何の事だか分からない三人は、ジェルマンに説明を頼む。よほど上機嫌だったのか、彼は気味の悪いほどの笑みを浮かべて答える。


「フレデリック! 君は魔力感知ができるんだよ」

「魔力感知ですか?」

「そう! それにそこらへんの奴とは比べ物にならん才能が君にあるかもしれん!」


 この後、ジェルマンの長い説明が入るのだが、かいつまんで話すとこうなる。


 魔力は訓練すれば誰であろうと見ることができる。

 しかし、中には魔力を見ること以外で認識する者たちが存在する。


 例を挙げると肌で感じる者、音で感じる者、数値で見える者、といったところだ。


 そして飯田は、この特殊な感知ができる人間かもしれない、という可能性をジェルマンは見出したのだ。


「解ったか?」

「なんとか……」


 やはり、召喚された人間は素晴らしい。才能にあふれている。ジェルマンはそう確信していた。


「こうとなれば善は急げ! さっそく魔術を使ってみようじゃないか!」


 そう言い放った彼の眼は嬉々としており、とても人に物を教える者の顔ではないことを三人は理解していた。


「でも、いきなりというのは……」

「心配いらん! 土人形(ゴーレム)は子供でも作れる!」

「そうは言っても……」

「なにも人型にしろとは言わん! 好きな形にしろ!」

「マジですか!? やった!」

「いきなり言われても……。どうやんの?」


 土人形(ゴーレム)の作り方自体は至ってシンプルで、まず、土をある程度盛る。最初はこぶし大位が良いだろう。

 

 次にその土に自分の魔力を流し込む。といっても、土をこねるだけで、できたりする。


 最後に、その土の塊が動く姿を思い浮かべる。ここが一番重要で、イメージが上手くできてないと、妙ちくりんなオブジェが地面を這いずり回るだけになってしまう。


「この場所が良いと感じた場所で作れ! これは感覚が大事だからな!」


 この言葉の後、三人は暫く周りをうろうろした結果、どこで作るかを決めた。


 飯田は隅の方で、雨宮はその二メートルほどの距離で、玉夫は二人より離れた、ジェルマンの近くで作り始めた。


「意外と簡単かも?」


 作り始めて十分が経った頃。最初に出来上がったのは雨宮だった。


「すげー! ホントに動いてんだなー」

「ふむ、こんなに早いとは……。それに、よく動く」


 雨宮の手つきはおぼつかないものの、跳ねたり、走ったりとよく動く土人形(ゴーレム)だった。


「この子豚、よく動くね!」

「ネコのつもりなんだけどね……」

「えっ? あっ! ごめん……」


 制度に難があるが、練習次第でかなりの魔術師になれる。本人のやる気次第だが……。


 続いて十五分後、今度は飯田が成功した。


「出来た!」

「なんだと! 飯田お前マジか!?」


 出来上がったのはペンギン。

 デフォルメされているとはいえ、意外と細部にこだわりが見られる。


 欠点と言えば、動けないことくらいだろうか。


「飯田、動かせないのか?」

「さっきから試してはいるんだけどね……」

「外見にこだわり過ぎだな」


 動かせるようになりさえすれば、完璧な出来である。



「うーん……」

「アンタまだ出来ないの?」

「うっせーな。難しいんだよ」


 玉夫だけは作ることができなかった。


 形はある程度整えることはできても、すぐにボロボロと崩れてしまう。

 二人とは全く違うことで、玉夫は焦っていた。


 ただでさえ、魔力以外は底辺であるのに土人形(ゴーレム)一つ、作れやしないなんて……。


 玉夫の頭はそのことでいっぱいになり、やがて土としても形を保てなくなっていた。


「アルス、質問に答えろ」

「分かりました……」


 玉夫は何故、自分は土人形(ゴーレム)を作れないか。純粋にそれが気になって仕方がなかった。


「自分の技能(スキル)はなんて名前だ?」

魔法分解(マジックキャンセラー)……」


 玉夫はこの時点で嫌な予感がしていた。何がとは言えないが、虫の知らせに近い何かであることしか分からない。


「さっきから魔術を使おうとしているのだが、お前の周りだと使えないんだ」

「……はい?」


 玉夫は耳を疑った。聞き間違いに決まっている。そんなありもしない幻想の彼方に逃げたくなっていた。


魔法分解(マジックキャンセラー)……。能力が分かったぞ」

「どんな効果なのです?」

「あたしも気になる、それ」

「僕も……」


 玉夫だけでなく、他の二人も興味を持ち始めた。

 おおよそは分かっているのだが、聞かずにはいられなかった。


魔法分解(マジックキャンセラー)は周りの魔術を無効化する技能(スキル)らしい」

「すごいよ! 鈴木くん!」

「コイツにそんな力あるなんて! セコい!」


 その部分だけ聞いていれば確かにすごい。

 しかし、玉夫の疑問はそんなことではない。


「それと土人形(ゴーレム)と、どう関係するんですか?」

「ふむ、これはあくまで推測なんだが……」


 ジェルマンは言葉を続ける。


「その無効化は自分にも影響を与えているんじゃないのか?」


 聞きたくなかった言葉。認めたくない現実。


「そんな……。うそだ……」


 魔力以外はダメな自分。

 それが魔術が使えないのならば、自分は本当に何も出来ない人間だ。


「ネリーアになんて言えばいいのだろうか……」


 玉夫はその場に崩れてしまった。

 衝撃的過ぎて、どうすればいいのか分からないからだ。


 この世界で戦えない。

 

 それは死を意味する。


 もともとこの世界にいた人ならまだいい、しかし、別の世界の住人の玉夫は、一人で身を守れるようにしておかなければならないのだ。


 それが自分は戦えない。残るは絶望と有り余った魔力の二つだけになってしまった。


 なら、玉夫が取れる行動はただ一つ。


「ジェルマンさん……。頼みがあるんだけど……。」

「うん? なんだ?」

「俺、ネリーアと修行します」

「……は?」


 己の体力的な欠点の克服。

 

 技能(スキル)はどうにもならないかもしれない。

 だが、体力は鍛えてしまえばいい。そういう考えの下での発言だった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~



 これが昨日までの出来事だ。

 ネリーアは驚いていたが、事情を話すと、協力することを約束した。


 しかし、ステータスの差から加藤や桐嶋と同じ内容ではまともにこなせない。


 その為、かなり優しく設定したはずのメニューだったのだが……。


「もう、限界だ……」

「まったく……。本当は十週が目標なんですよ……」


 それすら出来ないのが玉夫だった。


 結局、七周半走ったところで玉夫は足を止めた。


「厳しくないかな……?」

「七周だなんて……」

「限界は超えたんだよ? 褒めてよ……」

「なら、まだ越えられるはずですね!」

「やっぱり褒めなくていいや……」




 こんなことがずっと続けば命に関わる。そんなことを考えていた玉夫だった。


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