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一話 誕生

上げ直しました~。

日を跨いでしまいごめんなさい!

 ……どうやら転生は無事に終わったらしい。 

 この暗くて狭い所はいつもの卵の中であろうな。

 とりあえずは従者の卵とともに産まれるのを待つのみか……。


 ーーんんっ!?


 今何かと目が合ったような気がするが、まさかな。

 卵の中に他の生物が紛れ込むはずはない。


 ーーなんだこいつは。


 段々と目が慣れてきたのか周りの状況が見えてきたぞ。

 目の前に見えるは謎の生物……でっかい頭に黒い目玉、へそからは管が伸びておる。っと、これは赤子か。

 となるとここは哺乳類の腹の中ということになるが――なぜだ。

 龍種以外の生物に転生してしまったというのか?そんなことがありうるのか?


 非常に参ったぞこれは……。





 ◇





 転生してからしばらく経った。やっと産まれる日が来たようだ。

 卵ならすぐにでもぶち破っていたところであるが、いかんせん腹の中だ。無茶はできない。

 哺乳類とはやっかいなものよ。

 しかたがないので、七ヶ月だか八ヶ月だかの日々を、全力で現状を確認することに費やした。

 わかったことは多くはない。我がどうやら人の子の形をしているということと、目の前の赤子が雌であるということぐらいだ。

 この身に宿す神力しんりょくはいつも通り感じられるのだが、力の発動を胎内でするわけにもいかぬからな。すべては外に出てからだ。


 お、母上殿はどこかに運ばれたようだな。いよいよだ。

 ぐぐっと押し出される感覚とともに手のひらで受け止められる。


 ま、まぶしっ


「よーし一人目無事に出ました!」

「ってこの子龍眼ですよ! 先生!」

「本当だ……私も初めて見るな」


 白い天井に白い壁、そして白い服を着た人族。腹から出て最初に見たものは白尽くしだった。

 そして、どうやら人族に転生したようだということもここで判明した。


 数名の真っ白な人族の女があーだのこーだの、凄いだのヤバいだの言うておる。

 抱えられた我を一番年を食ってそうな女が覗き込む。ふむ、この女が医者か? いや後ろにもうちょっと偉そうな女がいるな。あっちが医者でこっちは助手か?


「…………」

「…………」

「…………?」


 ペシッ


「あーふぎゃー! (あ痛っ何をする!)」

「あ、泣きました泣きました! 大丈夫みたいですね」


 大丈夫ではないぞ失礼な。


「二人目……も、大丈夫ですね! もう一度いきんでー、そーう」

「おぎゃーーー!! ほんぎゃあああーーー!!」


 おおう……この子は威勢がいいな。そうか、このように泣かねばならんのか。


「ミッドガルドさん、男の子と女の子の元気な双子の赤ちゃんですよ」

「男の子は龍眼ですよ! 将来どんな大物になるか楽しみですね!」


 そう言うと助手の一人は我と妹(仮)を母上殿の胸に抱かせる。


「ふふっ……私がママですよ。元気に大きくなるのですよ……」


 まだ出産の余韻から荒い息も整わないまま、我等を優しく支えて語りかける。

 金色の髪と青い瞳の若い女、こちらが母上殿であるな。

 いつもの転生ならば誕生と同時に傅かれ、こちらもお決まりの挨拶をする場面なのだが、如何せんこれではどうしようもない。


 普通に人の子として産まれてしまった。これからどうなるのか全く見当もつかない。





 ◇





 誕生して数時間経った頃合いだが、どうやら父上殿がやってきたようだ。


「リゼット! 産まれたのか!?」


 赤錆色の鋭い目つきと、瞳と同じ色の堅そうな髪の毛を立たせた、中々に精悍な男である。


「うふふっ、かっわいいわよ~」


 母上殿は喜色満面だ。こうしてみると結構幼く見えるな。


「アレン~レイナ~パパでちゅよ~可愛いでちゅね~」


 すごく頬をぷにぷにされるが、ここまで嬉しそうにされると文句も言いづらい。


「あんまり刺激しちゃダメよ? パ・パ?」

「あ、おぅ。そうだな……パパかぁ……パパだもんなぁ、えへへへ」

「威厳はぜーんぜんないわねっパパ。仕事はもう終わったの?」

「おう! 部下が気を利かせてくれたよ。うちの副隊長は出来る男だ」

「魔法戦士隊の皆さんには後で私からもお礼言っておかなくちゃね」


 どうも父上殿の仕事がこの「魔法戦士隊」というものらしい。

 戦士はわかるが「魔法」とは何であろうな?




 





 それから一週間ほど乳を飲んでは寝て、夕方になるとやってくる父上殿に頬をぷにぷにされる毎日を過ごしていたのだが、どうも自宅へと帰る時が来たらしい。

 自宅へは休暇を取った父上殿の運転する「魔動車」という乗り物で向かうようだ。

 

 ふふふ……何を隠そうこの魔動車、我は知っておるのだ。

 我は始祖龍としてただ怠惰に日々を過ごしていたわけではない。数年に一度程度のペースで人の暮らしを覗きに行っておったのだ。

 我は元より、言葉が交わせる程度の知能ある上位龍は全員人化可能だ。中には人の姿で人と交流を持つもの、人と子を成すもの、人化したまま「龍人」として一つの種と成るものなど、意外とこの人という新しい種族と龍種との関わりは深い。


 と、そういうわけで前世でこの魔動車が街を走っている所を見たことがある。

 どうやって動いているのかは、よくわからぬのだが。

 人は面白いものを作ると感心した記憶がある。


 そんなことを考えていると、母上殿に抱かれて車の中に運ばれていく。中にある籠に置かれて固定されるようだ。

 うむ、結構速く動くからなこれは。赤子の体では飛んでしまうだろう。

 横を見ると()のレイナも父上殿によって運ばれてきたようだ。同じように固定されていく。

 

 「じゃあ行くぞ、二人のチャイルドシートは大丈夫だな?」

 「ええ、……ん!大丈夫完璧だから安心していいわよ。」

 

 母上殿が固定した紐をぐいぐいやって準備は終わったようだ。

 見たことはあったが乗ったのは初めてなのでちょっと興奮してきた。

 ピッという音と共に魔動車が走り出す。外を眺めてみたいが、母上殿がじっとこちらを見ていて微動だにしないので我慢だ。我はいい子なのだ。


 



 ◇





 「さ、着いたぞー」

 「久々の我が家ね~」


 ……ぬぉっ!いつの間に着いたのだ。寝ておったわ!

 赤子の体のせいか眠気には全く勝てぬなぁ……。


 車から降ろされて再び母上殿の腕の中へ。体に当たる乳の感触が心地よい。

 我が家は黄色がかった白い壁に、父上殿の髪の毛を明るくしたような赤い屋根の付いた二階建てだ。家の周りにはかなり広い範囲で芝が張り巡らされており、道路との境目には、黒く塗られた謎の威圧感を醸し出してる木の柵が、芝生を取り囲んでいる。


 ちなみに近所には家が見あたらない。これはかなり田舎なのではないだろうか。

 家の裏手には、裏山というより山脈と言っても過言ではないような山とがあり、水の音が聞こえることから川も近くにあることだろう。

 元々基本的に山やら洞窟やらで生活していた我にとっては暮らしやすい環境やもしれぬが、正直人に転生してしまった以上は、街で、都会で生活してみたかったなどとちょっと考えてしまった。

 

 お、よく見ると家から少し行ったところに小屋……にしてはちょっと大きい建物が、こちらも黒い柵で覆われて建っておるな。ひょっとしたら離れかもしれぬ。


 あまり頭を動かさずこそこそ辺りを観察していたが、時間切れだ。家へと入っていく。


 玄関は円形の吹き抜けになっており、そこから各部屋に廊下が続いている。

 正面の一番長い廊下の脇には階段があり、我ら赤子は二階に運ばれていくようだ。

 二階もぱっと見た感じでは八部屋くらいある。さらに一番奥が寝室らしい。

 寝室にあった小さなベッドに我とレイナを寝かせると、父上殿と母上殿が上から覗き込んできた。


「やっと始まりって感じがするわね」

「そうだな、強い子にするぞ!」

「パパ~? アレンはまだしもレイナは女の子よ」

「女の子も強くなければいけない時代だぞ! 誰よりも強くしてみせる」

「パ・パ?」


 おおぅ?母上殿の目つきが鋭くなったぞ。


「そんなに強くちゃお嫁に行けなくなっちゃうわよ?」

「むしろ望むところだ!」


 お、ダメだなこの父上殿。 


「ふふふ……娘の幸せを願わないアホなパパにはよ~~~~っく言って聞かせなければいけないようね? アレンとレイナが寝たらじっくり話し合いましょう」

「ひっ!……い、いやいや、ゆゆゆ譲らないぞぉ……」


 冷めた視線を送る母上殿に、冷や汗だらだらながらもかろうじて折れない父上殿。

 二人の力関係は大体わかったなこれは。あと母上殿は怖いということもわかった。我はいい子にするのだ。

 

 場所こそ自宅になったとはいえ、まだまだ生まれたての赤子だ。出来ることはあまりない。

 ……いや、正確に言うと、もう喋ったり歩いたりは出来そうなのだ……。

 なのだが……それをすると、ちと不味いことはわかっておる。だからここまで慎重に赤子であり続けたのだ(・・・・・・・・・・)


 つまるところ我は決めたのだ。

 今回転生が失敗した意味は分からない。

 人になってしまった理由もわからない。

 さりとて、完全に人と言い切れない状態であることも把握している。


 わからない、わからないから決めたのだ。

 今生は人として生きていくということを。

 せっかく人になったのであるから、人としての人生を全力で楽しんでみようと。


 おそらく、ただの人のような人生にはなるまい。

 しかし、始祖龍としての生より俄然刺激にあふれたものになるだろう。

 そして、そのうちにわかるだろう。

 

 人になった始祖龍の意味を。

次話は3日後くらい。(予定)

早まるかもしれませんが。

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