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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

うつし世ゆめの世

作者: 炉子

 うるさい目覚ましの音が私を現実に引きずり出す。カーテンの隙間から朝陽が入り込み、私の閉じられたまぶたの上を照らす。仕方なしに上半身をお越し、まだぼんやりしている頭を覚醒させた。

 ベッドから静かに降りて一つ伸びをした。適当な朝食を作り、のんびりとテレビを見ながらそれを食べる。ゆっくりとした休日を堪能していた。

 今日は何をしよう、どこか行こうか。久々に学生時代の友人と一緒に映画でも行こうかなぁ。そんなことを考えていたら丁度電話が鳴り響いた。受話器をとると学生時代一番仲が良かった友人の声がした。面白そうなDVDを借りたから一緒に見よう、との内容だった。勿論いいよ、と返事をすると今から行くね、と返された。彼女の家から私の家までは結構遠かった気がする。掃除が出来るだけの時間はたぶんあるだろう。

 簡単に部屋の中を掃除し始める。学生だった頃の部屋の汚さを知っているから、そこまで一生懸命に片づけをしする必要もないだろう。ああでも、友人にこの歳にもなって片付けできないと笑われるのも嫌だなぁ。渋々掃除機を引っ張り出し、甲高い雑音を立てながら床の上を滑らせた。

 掃除を終えてから数分経った。部屋でくつろいでいるとインターホンが鳴り響いた。一つ返事をして玄関に向かい、戸を開けた。しかしそこに立っていたのは見たことのない姿をした友人だった。

 腹や首筋に引っ張られたいくつもの赤の線、あらぬ方向に曲がった手足。へこんだ頭をぐらりぐらり揺らしながら彼女は近づいてきた。ポタポタと大粒の液体があちらこちらから流れ出ている。いやだ、一体何の冗談。


「やっと出てくれた。やっと私と会ってくれた。こっち来てくれないから何回も来たんだよ」


 嬉しそうに笑った声がひゅうひゅうという呼吸の音にまぎれて聞こえる。やっと会ってくれたって、何? こっちって、どこのこと?

 そもそも、どうしてこんな格好をしているの。まるで殺されたような格好じゃない。


「わからないの? そう、わからないの。わからないんだ、あはは」


 壊れたおもちゃのようにハハハと笑い続ける。その声は頭の奥をガンガンと刺激する。彼女の両目がギラギラ気味の悪い光を放っていた。

 突然私の目の前が真っ暗になった。奇妙な姿をした友人も頭の奥底に響いていた不気味な乾いた笑い声も、全てが消えた。

 目の前に光が戻ったとき、私は見覚えのある場所にいた。お世辞にも綺麗とは言えない狭い部屋。そこには鉄の香りと生臭い香りが混ざって異臭となって辺りに漂っていた。その香りの元に目を向けると、頭が大きくへこんだ友人が月明かりで浮かび上がっていた。彼女の腹と首筋に無数の赤い線が引かれている。その線からはカラカラに乾いた赤黒い線が伸びており、床に赤黒い水溜りを作っていた。さっき会ったときよりも、幾つか幼い顔立ちをして、懐かしい学校の制服をまとった彼女は暗い黒の目を開いてこちらを見据えている。

 ……ああ、きっと私は夢を見ているのだろう。きっと今友人を待っている最中に寝ているのだろう。それにしても不吉な夢だ。確かこのくらいの歳のとき、大喧嘩していたなぁ。そういえばあの後どうやって仲直りしたっけ。

 思い出そうとしても思い出せない。ガンガンと痛む頭をおさえたとき、ねとりと嫌な感触がした。はっとして自分の両手に目を向けると、それは真っ赤な液体で染め上げられていた。右手には鋭利なカッターを握っている。よく見たらすぐ近くに金槌も置いてある。

 やけに鮮明に彼女が殺された様子が思い出される。怒鳴る声に混ざった甲高い悲鳴。いくら謝罪を続けても鋭利なカッターを振り回していた私。

 違う、こんなの嫌。夢でも嫌だ。私が彼女を殺してしまっただなんて。頭を金槌で殴って、沢山殴って、彼女が泣いても喚いてもカッターで沢山切りつけたなんて。

 こんな夢、見ていたくない。

 私は握っていたカッターを首筋に深く突き刺し、一筋線を引いた。



 はっと目が覚める。気が付いたらソファの上で寝てしまっていたらしい。

 丁度のタイミングでインターフォンが鳴り響く。私は一つ返事をして扉へと向かった。何だか頭がグラグラ揺れている気がするけども寝すぎたせいだろうか。

 首が妙に安定しないまま、私は扉を開けて彼女を迎え入れた。

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