教室に行って。
私の足は、教室の方に向かっていなかった。
今、教室に行くと、五十家君とハチ合わせになる。どうも、彼と会うのには心の準備が必要な気がした。
学校にある花壇の周囲を歩いている私は、ホームルームの直前くらいまで、この辺をウロウロしておこうと思っていた。そうすれば、彼と話す時間は、少なくて済むだろう。
そうしていると、遠くに鳥と岩城君が一緒に歩いているところが見えた。
あー……なんか、鳥が岩城君の事を傘を使って刺しているぞ……キツい愛情表現だな……
そういえば、岩城君に渡すためのお弁当だって持っているんだった。ホームルームの直前なんかに教室に入っていくと、渡す時間が無くなってしまう。そろそろ行かなくては。
私は、五十家君とハチ合わせにならない事を願いながら、教室に向けて歩いていった。
私は教室に着く。
当然、五十家君は教室にいた。教室の外の廊下に坂上さんがいるのも見える。坂上さんは、私の事を見て、小さく手を振ってきた。
私は、それから目を逸らす。岩城君の机を見てみると、机の上に座っている鳥と、岩城君の姿がある。
昨日、私の事を好きだと言っていた岩城君であるが、あの姿を見ると、鳥と仲がいいようにしか見えない。
まあ、二人の邪魔をするのも悪い。お弁当は、さっ……と渡すのがいいだろう。
そう思いながら、鞄の中から岩城君の分のお弁当を取り出す。すると、鳥がこっちに向けて歩いてきているのが見えた。
なんだろう……とてつもなく不自然な歩き方をしている……
「さ……咲!」
うわずった声で言ってくる鳥。どういう事なのか分からないが、とりあえず岩城君に用があるのだ。鳥の話は後にしてもらおう。
「ごめん、鳥。後にして」
男の子にお弁当を渡すっていうだけの事なのに、なんか、とても緊張をする。なぜ緊張をするのか? 自分でも良くわからない。
普通でいいんだよね……特に緊張をするような事をしている訳ではない。
「岩城君」
私は、岩城君の前に立つと、そう言った。心を落ち着けるために一拍置く。
「昨日のお詫び。蹴ったりしてごめんなさい」
私がそう言って、岩城君にお弁当を渡すと、岩城君は、キョトンとした顔をした。
「それだけ……箱は返さなくてもいい」
よく言った私。なんでもない事のはずなのに、ここまで緊張をするのか……
とにかく、これで私としては、義理を通したつもりである。
岩城君とは、まったく目を合わせず……と、いうか、恥ずかしくて目を合わせる事ができずに、私は自分の机に向かっていった。
私は少しだけ岩城君の方を向いてみた。
そうすると、鳥が岩城君を引っ張って教室の外に連れ出しているのが見える。




