その時のA部では
A部の部室に残った五十家と咲は、二人して暗い顔をしていた。
お互いに椅子に座り、テーブルを挟んで肩を落としているところだ。
「鳥に見られた」
「あの子はダッシュで逃げてたね」
自分達の醜態を、友人にみられたショックは大きかったようだ。そこにA部の部長から声がかかる。
「悪いことしちゃったねぇ。追いかけて誤解をとかなくてもいいのかい?」
咲は小さな声で答える。
「そんな気分じゃない」
「咲たん。そう気を落とさないで……」
咲は、『咲たん』と呼ばれた事で歯を噛み締めて部長の事を見た。
「元はと言えば!」
咲は部長に掴みかかった。机の上に登って走り、一気に部長に向けて飛びかかっていった。
「志士屋君。やめなって!」
部長に掴みかかった咲を五十家が止める。
五十家によって、部長から引き剥がされた咲は、それでも部長に掴みかかろうとして暴れていた。
「まあまぁ……ぼくにいい考えがあるんだけど、聞かないかぃ?」
部長が言うのにも構わず、咲は五十家の腕から離れようとして暴れていた。
「向こうの彼らもウチに引き込んでしまえばいいのさぁ」
五十家と咲が顔をキョトンとさせた。
咲が落ち着いたところで、部長が言い出した。
「あの子らにもコスプレをやらせて、仲間にしてしまえばいいのさぁ。彼らを引き込む役は、ぼくにまかせてくれたまぇ。これまで、何人ものパンピーをオタクの道に引きずり込んできた実績があるからねぇ」
「そんなに簡単にできるものじゃない」
「いやいやできるよぉ。うちの部員の十人は、ぼくの勧誘力で引き込んできた仲間たちだからねぇ」
咲は、部長の事を訝しげに睨みながらも、髪をかきあげた。
「できなかったら殺す……」
「おお怖ぃ……でもそこが咲たんのいいところだよね、カッコイイ!」
最後に咲の琴線に触れるような事を言った部長。咲は何も言わずに部長のスネを蹴りつけた。
「これは、さっき私を『咲たん』って呼んだ分!」
五十家は、その光景をオロオロしながら見ていた。
「ご褒美をもらえてうれしいよぉ。もっと蹴ってぇ」
部長の言葉を聞くと、咲は奥歯を噛み締めて部長を睨んだ。それで、恍惚さえしているような表情を見せた部長を見て、咲は舌打ちをして踵を返した。
「今日は帰る!」
入口のドアを乱暴に開けて、乱暴に閉める咲。
残った五十家も、荷物をまとめて帰っていった。




