序章 ―4―
Side:優太
「それで、もう1つ彼女には姫に相応しい理由があるんだ」
義之はニコリと笑い優太を見る。逃げれないとは思った。あの義之のことだ、何かを掴んでいるに決まっている。
義之の視線に気づいた英が優太に視線を向ける。まるで、自分が内通者であるかのように……。
「そう、彼女と優太はいとこ同士なんだ。何も知らない環境にいきなり放り込むのは女性に対してスマートじゃない。寧ろ、知り合いというより身内がいる方が安心出来るんじゃないかな?」
「……そこまでご託を並べられれば反論なんて出来ないな」
英はお手上げだと言わんばかりに手をヒラヒラとさせた。その表情は、誰が見ても決定を表していた。
優太も出来ることなら反論したい。だが、『場の空気を読みすぎる』という性格がそうはさせなかった。
「計画実行日は?」
「明日の朝。彼女は一般の生徒よりも早く登校して来る。その時間を狙えば周囲に知られることなく事を進められるだろう」
「わかった。では、これで早朝会議は終了だ。要への連絡は義之に頼む」
そう言って英は部屋を出た。時計を見れば、授業の始業までは後15分。
「あの、会長っ!!」
「なに?」
手元の資料を見ていた義之はゆっくりと顔を上げる。その表情は、優太が見たことのないものだった。
楽しんでいる、と一言で片付けられるものではない。野蛮な表現だが『獲物を狙っている』というのがピッタリだと思った。
「会長は百合に姫が務まると本当に思っていますか?百合はその……素直じゃないし、少しひねくれてるし、その……それ程可愛くはないです」
心の中で『ごめん、百合』と土下座をしながら言う。こんなことを言ってまでも生徒会入りを阻止したいのだ。
だが、義之はいきなり笑いだした。それも、腹を抱えて……。
「悪い、身内の人間がそこまで悪く言うかなと思ってね。確かに神谷百合という人間は従順ではないようだ。だが『場の空気を読みすぎる』という、現代社会にとって必要不可欠なスキルを持っている。これは実に重要なことだ」
そう言うと、義之は自分の荷物を纏めて立ち上がった。そして出口へ向かう。
「あっ、そうだ。1つ忘れていたよ。彼女は確かに可愛くはない。寧ろ『綺麗』という言葉が合うだろう」
『戸締まりは宜しくね』と言って館を出る。優太は後ろ姿を見送るしかなかった。