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序章 ―3―

Side:優太



「俺は1年C組の斉木涼子が適任だと思う。彼女の家は、着々と経営を伸ばしている会社だ。葉山家にとっても有益だろう」


 優太は手元の資料に目を落とした。英が纏めたであろうプロフィールや家系図、学生証の写真がある。


 ショートカットでボーイッシュな印象を受けるが、目元が垂れ目なせいか、どことなく気弱な印象を受ける。優太は彼女のことは知らなかった。


 同じ学年でありながら知らないということは、きっとそれこまで目立つ行動が好きではないのだろう。この学院は社会的にそれなりに地位のある家の子息が在籍している。


 家のことを考えつつも、自分自身がどうしたら輝くかを考えている生徒は少なくない。


「優太は彼女のこと知ってる?」


「いえ、知りません。クラスも違いますし」


「ふーん、優太が知らないなら却下かな」


 義之の言葉に、英が納得行かないとでも言うように鋭い視線を向ける。自分があんな視線受けたら飛び上がってしまうと思った。


「村上が知らないというだけで却下なら、相当数の生徒が却下になる」


 英の言うことは最もだろう。だが、義之は首を横に振る。


 そして立ち上がり、英の横に立つ。


「あのね『優太が知らない、イコール存在感がない』なんだよ」


 義之の一言で英は黙り込んだ。確かに、目立たない生徒は生徒会にはいらない。これは、ここにいる全員の認識だった。


 生徒会とは『終始注目されるもの』なのだ。顔や雰囲気で差別するつもりはないが、やはりそれなりに重要だったりする。


「それで、優太は?」


 話が優太に回って来たということは、英の提案は却下されたということなのだろう。優太は意を決して手元の資料を二人に配った。


「俺は、3年B組の浅田まゆさんが……」


「うん、却下」


「えっ!?」


「俺も却下だ」


「矢倉先輩まで?」


 いきなりの却下宣言に、優太は目が点になった。彼女の経歴を調べ、纏めるのはそれなりに時間がかったのだ。


「なぜ却下なんですか?彼女は元々会長のファンで……」


「そこが却下の理由。元々僕に興味がある子なんて扱いやすいだけで後々がつまらないでしょ」


 思わぬ理由に優太は唖然とした。そうなのだ。この義之という男は物事を『面白い』か『面白くない』かで決めるのだ。


「俺は、元々好意を持っているという時点で了承しかねるな。そういう人間は、いざ権力を持つと扱いにくくなる」


 英のダメ押しに、優太は更に身を縮めた。先輩とはいえ、論破されると辛いものがある。


 早々に却下を下された優太は、しゅんと沈んだ。別に自分の意見が通らなかったのが嫌なわけではない。


 寧ろ、これから義之から提案される人物の顔が頭から離れないのだ。……外れてくれ、優太はそれを願うだけだった。


「散々文句を言った会長さんの提案はどうなんだ?さぞかし素晴らしい人物なんだろうな」


 英が嫌味全開で言う。もう、義之の提案する人物しか残っていないのだ。


 もうここに賭ける以外は術がないとわかっていた。さもなければ、英が提案した女子になるだろう。


 優太としてはそちらの方が都合が良かった。だが、世の中そう簡単に進むだろうか。


「僕が提案するのは2年C組、『神谷百合』だ」


 優太は崩れ落ちそうになるのを堪えるのに必死だった。やはり予想が当たってしまった……。


 義之が百合のことを調査していることには薄々気がついていた。どこで百合のことを知ったのかはわからないが、学内のシステム上で『神谷百合』の名前が何度も検索されていた。


「義之、悪いが俺はこの生徒をしらない。確かお前が言ったよな『目立たない生徒では意味がない』と」


 優太は大きく首を縦に振る。これ以上、百合の存在を大きくしないように。


 しかし、義之にはこんな批判はお見通しとでも言うように資料を配り始めた。それは、他の誰よりも細かく書かれており、『神谷百合』という存在の全てを表しているように見えた。


「神谷百合。当たり前だが、幼等部からこの学院に在籍している。祖父母の代からこの学院と関わりがある。彼女の母、そして祖母は歴代の『姫』だ」


「身内に2人も姫がいるのか……さらに直系」


 英が大きく頷く。やはり『直系』が1番気に入った点なのだろう。矢倉英はそういう点を気にする性格なのだ。


 一方、優太は資料に目を落とすばかりだった。どこかに誇張した点はないか。もしあるならば、今すぐ突っ込みを入れて正しい、姫候補から外したかったからだ。


 しかし、そんな点は1つも見つからない。


「彼女はC組だが、夏休み明け辺りにはA組に移動する……いや、させる」


「なぜ、そんな強引に?」


「彼女は頭が良いにも関わらずC組に在籍している。これは彼女の為にも良くない」


「確かに、家はここ最近業績を伸ばし、様々な分野に手を広げている老舗か」


 優太はもうダメだと思った。そして同時に、百合のこれからを願わずにはいられなかった。


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