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第一章 始まり ―8―

「確かに……でも、僕は人の意志を無視して物事を進めるのはナンセンスだと思うよ。ね、優太くん」


 そう言うと、義之の後ろを見つめる。視線の先を見れば、そこには優太が立っていた。


「いや、あの……俺は……」


 いきなり問いかけられ困っているらしく、義之や要、更には百合の顔を見た。意見があるならばハッキリ言えば良い。


 優太は少し周りの顔色を見すぎる癖があった。もちろん、社会を渡り歩く以上必要なことだが、大事な場面では自分の意見を通すのも大事だ。


「……とりあえず、ここじゃなんだから中に入ろうか。優太はどうする?」


 もう一度見れば、優太は鞄を持っていた。どうやら館から出ようとしていたようだ。


「悪いんですけど、次の授業は小テストなんです」


「わかった。報告は放課後で良いかな?」


「はい、お願いします」


 そう言うと義之の横を通り過ぎる。そして、要をじっと見つめた。


 何をするのかと眺めれば、いきなり近寄り『百合のこと宜しくお願いします』と深々と頭を下げた。


 それだけ言うと館から出て行く。まさか、優太までもが授業に出ていないとは思わなかった。


 言いたいことは沢山あるが、ここでの立ち話は終わりにしたい。そう思い中へ進む。


 通された場所は朝とは違い会議室だった。机の上にはノートパソコンが2台置かれている。


 どうやら、優太と義之が使っていたものらしい。手早くそれらを隅に片付け、手近な椅子を勧める。


「それで、どういう風の吹き回しだい?」


 百合がここに現れたことを言っているらしい。あれだけ啖呵を切ったのに早々の再会だ。


 少しバツが悪いが仕方がない。正直に話さなければ、まるで百合が自らここに来たように思われてしまう。


「追い出されたのよ、教室から」


「へぇ、そうだよね」


 義之はさも当たり前のような言い方をする。一々人の気に障る言い方をする人だ。


 隣に座る要を見れば、特に意見はないらしく手元に置かれた資料を見ている。どうやら会計関係のものらしく、沢山の数字が並んでいる。


「簡単に言うと、君の姫就任の正式決定はまだだ。だが、それは時間の問題。君だってわかるだろ? この学院で聖泉会がどんな存在か」


「えぇ、権力に物を言わせて、自らの思い通りに物事を進めようとする団体」


 百合の言葉に隣の要は『はははっ、君って本当に面白いね』と笑った。


 ケラケラと笑う要に少し呆れたものの、百合は目の前にいる最大の壁を見つめる。先ほどと同じように笑みを浮かべているが、目は笑っていない。


「なぜ私なのか、それが知りたい」


 なぜ自分なのか、理由次第では考えないこともない。何も知らないままなのが嫌なのだ。


「うーん、そうだね……優太がひた隠しにしたから、かな」


「優太が?」


「そう。前にね、親戚の話しになった時に『君には同じ年くらいの親戚はいないの?』って聞いたら『い、いません。全然いません』って答えたんだ」


 その時のことを思い出しているのか、義之はクスクス笑いながら話す。その表情は楽しい以外、言葉で表すのが難しいくらいだ。


「……それで?」


「優太が必死に隠す親戚、気になるだろ?」


「いいえ、全く」


 切り捨てるように言う百合に、要は資料を机に戻しながら言った。


「百合ちゃんは手厳しいな」


「……勝手に人を『ちゃん』付けで呼ばないで」


 親しい人間ならまだしも、今日出会ったばかりの相手だ。しかも、下の名前で呼ばれるなんて……。


 義之は小さく咳をすると、改めて百合に向き直った。


「最初はそんなきっかけだったが、今は君が姫に相応しいと思っている。君だってわかっているはずだ、この学院にとって姫が必要なことを」


 真面目な態度に狼狽えていると、要が『意外と楽しいよ、この生徒会っていうのも』と囁いた。二人の視線を浴び、百合は大きくため息をつく。


 そして立ち上がり、義之を見下ろす。


「で、でも、私にはやっぱりこの制度が理解できない。でも、それがこの学院に必要なことは理解できる」


「なら、就任決定?」


 要が茶化すように言う……完全に楽しんでいる。これ以上、問題を先延ばしにすることは双方にとって良くないことは十分わかっている。


 そして、百合は空気を読みすぎるという性格だ。つまり、頼みごとをされると断れない。


 ある種、百合の親族はこのタイプが多かった。他の人間からは『お人好し』と非難されることもしばしばだが。


「なら、こういうのはどう?」


「なに?」


「試用期間、っていうのは?」


「試用期間?」


「そう。私もこの制度に理解をしていない状態で姫になるなんて嫌。でも、貴方達はどうしても私を姫にしたい。なら、互いに試用期間があっても良いんじゃない? その期間中に私が突然やる気になるかもしれないし、逆に貴方達が私を不適任だと思うかもしれない」


 百合の言葉に、義之は少しだけ考え込んだ。きっと、彼の中ではとんとん拍子に話が進み、今日中に決定でもするつもりだったのだろう。


 だが、そんな簡単に物事は進まない。いや、進ませない。


「良いんじゃない?」


「要?」


「僕も賛成はするって言ったけど、やっぱり百合ちゃんがやる気じゃなきゃ出来ないことも多いでしょ。いくら『象徴』とはいえ、それなりにやることもあるしね」


 気のせいか、要は随分百合に好意的な様だ。初めはチャラチャラしているだけの人間かと思ったかが、そうではないらしい。


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