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第一章 始まり ―6―

「こんな所にいたんだね、いきなり飛び出したから心配したよ」


 そんな言葉とは裏腹に表情は先ほどと変わらず笑顔だ。この笑顔は自然なものには感じられない。


 例えるならば『鉄火面』と言った所だろう。やはり生徒会長というポストは簡単に務められるものではないらしい。


「小坂先生は戻って下さい」


 言葉は柔らかいが、全く心がこもっていない。いや、これは促しているわけではなく『命令』しているのだろう。


 その証拠に『でも……』と言いかけたが、諦めていそいそとその場を離れた。そんな安心した一時も束の間。


 気がつけば、遠目に多くの生徒が見つめていた。まるでゴシップを狙う記者のように。


「さっきはどうして出て行ったの?」


「そんなこと、少し考えればわかるじゃない。HRに遅刻しそうだったからよ」


 百合の言葉に義之は笑い出した。それも『クスッ』としたものではない。『あはははは』という爆笑だ。


 何もそこまで笑う必要はあるのだろうか。出会って間もない相手に笑われるなんて不快でしかない。


「ごめんごめん。君があまりにも真面目だったから」


「真面目って……始業時間を守ることが真面目?私はそんな風には思わない」


 百合の言葉に興味を持ったようで、義之は『えっ?』という顔をする。この人はどこまで私を馬鹿にするのだろうか。


「真面目じゃなければなんなの?」


「……『当たり前』じゃないない、そんなこと」


 またしても百合の言葉に笑い出す。何事に対しても冷静なのだが、流石に限界が近づいていた。


 こんな人間が生徒会長で良いのだろうか。もう一度選挙をやり直すべきだ。


「いや、悪かった。生徒会の人間はHRに出なくても良いんだ。寧ろ、授業に遅刻しても大丈夫」


「意味がわからない。なぜ遅刻しても大丈夫なの?」


「えっ?生徒会だから」


 ……おかしい。考え方が根本的に違うのだ。学生でありながら授業に遅刻しても良いなんて簡単に許されるものではない。


 思わず義之に詰め寄ろうとすれば授業の開始のチャイムが鳴った。一時休戦か。


「……貴方も早く教室に入ったら?」


 自分の教室のドアを開けながら言えば、義之は肩をすくめた。一々、行動が感に障る。


 だが、義之はA組の教室と反対へ進む。百合は気にせず教室へ入ろうとすれば、後ろから声が聞こえる。


「あれ、引き留めてくれないの? さっきまでの君なら『どこへ行くの』って言うと思ったんだけどな。それに……知りたいでしょ。君の担任の教師の話」


 どうやら、先ほどの件の真相を話そうとしているらしい。だが、今はそれ以上に義之の行が気に入らない。


 人の真似をする男が嫌いなことを初めて知った。百合は振り返り言う。


「私と貴方は何の関係もない。そんな心配をしている暇があれば、英単語の1つでも覚える時間に充てるわ」


 そう言ってドアをバタンと閉めた。何の関係もないドアには心の中で『八つ当たりしてごめん』と呟いた。


 苛々する、過去にここまで自分を苛つかせた人間はいただろうか。基本的に他人をあまり気にせず生きてきた百合は、あまり怒ることはなかった。


 だが、この性格と態度のせいで『怒ってる?』と聞かれることは多々あったが。だが今回はそうではない。


 自分に被害が被りそうなのだ。それを防ぐ為ならば必死にもなる。


「ちょっと百合、今の生徒会長じゃない? あんた、いつ知り合いになったの?」


 始業のチャイムが鳴ったと言うのに、そんなことは気にせず話しかけて来たのは友人の紗英だった。ざっくりとした性格の為、広く浅い付き合い方をしている。


 百合自身も特定の深い友人は作らない為、口には出さないが紗英のことは気に入っていた。


「別に、朝絡まれただけ」


「へぇ、そうなんだ」


 曖昧な百合の返答にも深く突っ込まない。そんな所が自分と似ているのかもしれないと思った。


 しかし、周りのクラスメイトは違うらしい。グループを作り、誰が百合に話しかけるか相談をしている。


 『だから女子って嫌なのよ』心の中でそう思った。


 ガチャッとドアが開き1時間目の担当教師が入ってくる。クラスメイトがいそいそと席に着く中、教師が百合に向かって歩いてきた。


「……なんですか?」


 百合がそう聞けば、中年の女性教師は『すぐに聖泉館に行って』と言う。なぜこんな時間に教室を出て行かなければならないのか。


 百合は『あの、これから授業が』と言えば、教師は深々と頭を下げる。


「えっと、何の真似ですか?」


「会長からの通達なの。良いから早く行って」


 そう言うと、百合を立たせ、教室のドアの前まで連れて行く。途中、何度か抵抗したが無駄だった。


 そして教室から出された。


「……意味がわからない」


 そう呟いたが、それだけでは何も解決しない。やはり、あの場所へ行くしかないようだ。


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