6 歪な少年。
本文前小話劇場
『白の少年』ラジオ局
魔「PV450アクセス突破!および」
忌「ユニーク100人突破!!ありがとうございます!」
魔「めでたいねぇ!正直ちゃんと読んでくれる人がいて吃驚だよ!」
忌「本当にな!なお今回のラジオパーソナリティーは俺と魔猫だ」
魔「一回やってみたかったんだよね、こういうの」
忌「俺も。あー、でもこういうのって質問コーナーとか外せないよな?」
魔「そんなのある訳ないでしょ」(キリッ
忌「だよなー!」
魔「なにはともあれ、こんな小説を読んでくれてありがとうねぇ!できればこれからも気まぐれおこして読みに来た。でもいいから呼んでくれるとうれしいねぇ」
忌「今回はこんなものかな?以上、レギアース学院放送室よりお送りしました」
魔「よくいえました。えらいえらい」
忌「なんだよその扱い!?」
始まって早々に紫暗が一人討ち取った。その瞬間を視界の隅に捉え、魔猫は感嘆した。
「ありゃ。あっさり決着付いちゃったねぇ。初めて見る加護だけど、今のじゃあまりよくわかんないなぁ。……今度じっくり見せてもらおっと」
「アイツ、さっきまでの威勢は何処行ったんだよ!?」
「自然消滅じゃない?」
「あー、もう!」
あっさり負けたチームメイトと考えが読み取れない魔猫を前に、トンファーを構える少年は苛立っていた。苛立っているが、そのまま魔猫に突っ込もうとはしなかった。
「ん? いつきてもいいよぉ?」
「(コイツいろんな意味で怖いって!?)」
チームメイトが精神的に攻撃され、負かされた相手。この少女に勝ったりしたら後が怖く、内心ビビッていた。
「来ないのぉ? 一応言っておくけどね、あたし別に個人の秘密を乱用はしないよ? 負けたからって腹いせにばらすっていう事はバカがすることだしね」
「い、行くに決まってんだろ!」
少年は魔猫の言葉に内心安堵し、トンファーを軽く握りなおすと覚悟を決めたように魔猫を睨む。
「……はっ!」
気合を入れて地を蹴る。右手のトンファーを魔猫に鋭く突き出すが、軽く半身を捻られ避けられる。直ぐに右腕を曲げ、今度は肘打ちの要領で魔猫の鳩尾を狙う。
「よいしょっと」
その右腕に手をつき、さも簡単そうにその体を持ち上げて魔猫は少年の背後に移動した。
「って、え、えええ!? ぎゃっ」
地に着地するやいなや魔猫は少年の足を払い、転倒させた。直ぐに起き上がろうとする少年の顔の真横にこれ見よがしにダガーを突き刺す。
「……負けました」
「にゃはは!」
魔猫は突き刺したダガーを引き抜き、【忌み子】の方を見やると、丁度決着がつくところのようだった。
剣を握る手が汗で滑りそうだ。彼は確かに焦っていた。
先ほどからずっと休み無く打ち合い続けているが、相手は焦りが無いらしい。
それどころか、こちらとの斬り合いを楽しんでいるらしく、口笛でも吹きそうな笑顔だった。
「……あっちも片付いたみたいだな」
視界の隅では【忌み子】の言うとおり、魔猫と戦っていたチームメイトが負ける様子が見えた。試合を始めてから数分しかたっていないはずだ。
「……くそっ」
あっという間に負けていったチームメイトに腹が立つ。その苛立ちによってまた剣を握る手に力がこもり、より大振りな動きにさせる。
対して【忌み子】は冷静に相手の動きを読み、仕掛ける時を窺う。
一番大きく剣を振り上げた。
「っふ」
一番大きくと言っても、先ほどまでの動きとほとんど差はない。だが【忌み子】の目にはその些細な違いも大きな違いとなって見える。
ほんの少し体をずらし、その攻撃を避ける。振り切った直後の一瞬の硬直を見逃さずに【忌み子】は刀を下から掬い上げるように鋭く切り上げた。
ガキン! と大きな音がたち、両手から剣の感覚が消える。少年の後ろから剣が落ちる音が聞こえてくる。
「……」
つっと突きつけられる剣先。その先を辿っていくと刀を握る手、肩、自身を負かした相手の顔が見える。
いかにも悔しげな顔をして少年は認めた。
「……負けました」
「ありがとうございました」
【忌み子】は直ぐに刀を納め、自身のチームメイトのもとに歩き出す。
「勝ったぞー」
「おめでとー! 折角だから食堂で快勝祝いでもやる? 代表の奢りで」
「それはやめろ」
「……」
「てか、君って意外と礼儀を重んじるタイプ?」
「俺に剣を教えてくれた人がそうだったからな。自然と」
「へぇ。結構強い人なんでしょ? その人」
「強い強い。俺の憧れの人! 紫暗もそう思うだろ?」
「……」
「だよな!」
「何言ってるのかわかるの?」
「慣れればわかるもんだぞ」
二人だけで盛り上がっているように見えるが、【忌み子】によって実は三人でちゃんと盛り上がっている。
「(紫暗もだけど、【忌み子】君は相当強いねぇ。……しばらくこの二人についてみよっと)」
にししと笑い出した魔猫に若干【忌み子】が心なし身を引いた。
そんな三人、否、【忌み子】の背中を睨む視線。
気付いているのだろうが、【忌み子】はその視線を無視している。それでも視線に込められた敵意は消えない。
「……【忌み子】のくせに」
ぼそりと呟かれた言葉にも【忌み子】は彼等に向けて反応しなかった。
魔猫が後ろを軽く振り向くが、【忌み子】がぽつりと言った言葉に再び【忌み子】に視線を戻した。
「……好きで【忌み子】になったんじゃねーよ」
魔猫がその言葉から感じたのは若干の苛立ち、そして諦め。
自らの意思で【忌み子】になりたがる者なんていない。今目の前にいる【忌み子】も自らの意思で【忌み子】になった訳ではない。
魔猫は利用できるものは利用するスタンスだ。故に一人一人と深い関わりは持たない。それは今回紫暗と【忌み子】に対してもそうだ。紫暗は隠密行動が得意、それならば自身の求める『情報』といったものを集める方法がより確かになるだろうと思い、【忌み子】には火力不足な自分の戦闘力の不足分を補ってもらおうと思っていた。それに今エクストゥーリアとオーディアスの関係が不安定になっており、もしかしたらこの先戦争も起きるかもしれない。無論エクストゥーリア自慢の国軍と、四神の軍が出るだろう。なお、四神の軍とはエクストゥーリアの神と神子様(もしくは神官様)を守護する四神と呼ばれる四人の守護者、青龍、朱雀、白虎、玄武がそれぞれ率いる軍のことだ。
そして、もしかしたらここ、レギアース学院の生徒も戦場に出る可能性がある。エクストゥーリアに数ある学校の中で一番実戦に出ても問題ないとされているのはここなのだ。もし本当に戦争が起こったら生きて帰れないということだってあるのだ。そのための保険が【忌み子】だ。戦闘能力は高く、状況把握も彼には出来るだろうと魔猫は考えている。生存確率を上げたい、というのが魔猫の目的だ。
今回の試合で見出した二人の『利用価値』だ。利用できるのなら魔猫にとっては【忌み子】というのは些細な事だ。
だが。
「(……あんまりにも、不憫だねぇ)」
魔猫の情報収集能力でも【忌み子】の情報は何一つ無いのが現状だ。理由は彼の友好関係がひとつもない、ということが大きな問題だ。
【忌み子】に関する噂は良く耳にする。だが、魔猫は嘘の噂には興味ない。
彼女はいつだって『真実』を追い求めている。
その『真実』を手にするには噂から辿っていき、その噂を立てた中心を探し出すか、数ある噂を吟味し、『真実』を探し出すか。だが、【忌み子】の噂は全て大本が無く、ただ適当に発信された噂ばかりだ。
だが一つだけここから導き出される『真実』もある。【忌み子】には信頼できる人はいないという事だ。
誰も自分を信じてくれる者はいない。自分の言葉を信じてくれない。きっと幼い頃からそうやって生きてきた彼はいつの間にか信じてくれる者はいないと悟ったのだろう。そして諦めた。
彼自身も他者を信用することは無いだろうということはわかる。だが、確かに彼は第二訓練場に来る前に魔猫を想って一人で行動した。
彼は『歪』すぎる。
魔猫ははっきりと確信し【忌み子】を見やる。【忌み子】は相変わらず笑っているが、魔猫にはもうその笑顔も仮面にしか見えなくなった。
……その仮面、ひっぺ剥がしてみたいねぇ。
そのためにはある程度以上の信頼は必要となるだろう。これまでの自らのスタンスを崩すことになるかもしれなかった。
「……あのさ、俺の顔なんかついてる? さっきからすげぇ見てるけど。穴開ける気か?」
「んー。……それも面白そうだねぇ」
「マジか!?」
この歪な彼の中身はどうなっているのだろう? 歪となった根源は? 仮面の下にはどんな表情がある?
気になってしょうがない。知りたい。知りたくてたまらないっ!
魔猫は自身の欲望に忠実だった。だからこそ彼女は決断を迷わなかった。
まずは『お友達』からかな?
それとも『仲間』か? と考えながら魔猫は【忌み子】と紫暗に挟まれながら、にしし、と猫のように笑いながら歩いた。