5 三人寄れば即席チーム。
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NGシーン ~問題児の格の違い。より~
サブ「えげつねぇ……!」
サブ「精神攻撃、だと……!?何者だあいつ!」
サブ「……まさかアイツが【大熊猫】、なのか?」
サブ「何!?あの【情報屋】!?」
ス「カートッ!『大熊猫』だと『パンダ』なんだけど」
サブ「あれぇ。でも大丈夫じゃないか?似てるし」
魔「字はね。でもまったくの別物になるからね?」
サブ「よくないか?というか、あいつ等って可愛い見た目の癖に獰猛な肉食獣なんだぞ?お前にぴったりじゃないか」
魔「『××年、花の月。僕は運命の恋人を見つけた。彼女は可憐な姿で、妖精も彼女の前では恥らうような可愛らしさ。ああ、僕は君に恋焦がれて』」
サブ「きゃぁぁぁぁぁぁ!!??」
忌「うわっ。何だその鳥肌が立つようなポエム!……げ、マジで鳥肌立ってる」
魔「『雨の月。ああ、今日も可愛い僕の女神。君の為にこのポエムを』」
サブ「もうやめてー!!もうHPはゼロよ!?」
「おーい!」
魔猫が声をかけてきた少年を見る。年齢につりあわない白髪の少年は誇らしげに手にした小さな紙をかざした。
「お望み通り、三番手だ」
「嘘!?」
無理やり押し出して、強制的にチーム代表となった白髪の少年。その白髪は世界に禍をもたらす存在、【忌み子】の証だった。
彼は周りの嫌悪の視線を気にもせず進み、くじを引こうとした。
「……なあ! だいたい何番手がいい?」
「えー。くじだよ? 当たるの?」
「やってみないとわかんねえだろ?」
「……まあいいっか。それじゃあ三番手、狙ってみて」
「了解」
言うと同時に、【忌み子】は悩みもせずにくじを引いた。魔猫が思わず突っ込もうとしたが、ニッと笑った少年が紙を掲げながら戻ってきた。
魔猫がなんとなく言った順番を見事に彼は引き当てていた。
軽く驚いて白髪の少年の持つ紙を思わず奪って確かめる。そこには確かに『3』の数字が。
しばらくその紙を凝視していた魔猫は再び白髪の少年の方を向き、不審げな顔をする。
「……なんか小細工使った?」
「ひでぇ! 普通に信じてくれたっていいだろ!?」
「いや、確かにこのクラス24人しかいなくて、三人チームとなる対戦の組み合わせは四つだよ? 四分の一の確立で当たるよ? でもあたしが言ったところに一発どんぴしゃで引いてくるって。まぐれ? それとも君って意外と運がいいの?」
「いいや。俺は完全に運には見放されてるけど? 代わりに」
「代わりに?」
「俺、勘はすっげぇ当たるんだよな」
つまり、信じられるのは自分だけなのかなぁ?
魔猫はひっそりと確信した。
【忌み子】といえば確かに周りからは忌み嫌われ、自然と敵だらけにはなる。だが、人々だけでなく、運に見放されているって事はこの国の神からも見放されているといいたいのか?
「……さすがに、あんまりだよなぁ」
「? どうした」
「なんでもないよぉ。それより、ちょっと話あおっか」
「話し合う?」
「さっき得意な得物とポディションは聞いたから、今度はそれぞれの加護の傾向とかさ」
「ああ、そっか。それもそうだな」
俺そういう話し合い、したこと無いんだよな。と【忌み子】が何でもないように言うが、魔猫は慌てたように聞き返した。
「ちょっと!? メンバーの加護を知るのは必要なことだよ!? なんでそういう話し合いしないのさ!?」
「俺に教えたくなかったんだろ?」
「……あんたさぁ」
「ま、そんなことはどうでもいいからさ。まず紫暗の加護だけど、コイツはあまりいない……」
「はじめ!」
「うおりゃぁぁぁ!」
「だぁらっしゃぁぁ!」
一番手同士の戦いが始まった。
「……と、まあこんなもんかな? 後はそのつど、動きやすいように動いてくれ。一番攻撃力が高い接近型の奴は俺が相手するから」
「了解。頼りにしてるよぉ、代表」
「やめてくれ」
「次! 三番」
教官の声を聞き、【忌み子】、魔猫、紫暗の三人が歩き出す。対戦相手の三人も出てきた。
「げ。さっきの」
「ハロハロー?」
最初に魔猫に精神ブレイクさせられた全壊犯がいた。心底恐れている顔を見て、上機嫌に魔猫は手をヒラヒラと振った。
「……ちっ! 悪いが戦場となればお前よりおれの方が上だろう。さっきの屈辱、かえさせてもらうぞ!」
「忠告無視したのはそっちだけどねぇ?」
「そういえばそうだな。コイツは二回も丁寧に警告してくれていたけどな」
「うるさい! そもそもなんでお前みたいな奴がここにいるんだよ!?」
全壊犯が【忌み子】を指差して喚く。だが、肝心の相手はたいして興味もなさそうに答える。
「だって俺ⅩⅢクラスだし」
「違う! なんでお前みたいな存在が普通にこの学院にいるのかって言ってるんだ! お前は、ここに来るべきじゃないだろうが!?」
唾を飛ばして喚きたてる。周りはそんな全壊犯を見ても止めるものはいなかった。同意、という視線を投げるものもいれば、視線を外す者もいた。
少なくとも、【忌み子】に友好的な者は誰一人いない。
「……俺も最初はそう思って断ったよ。けど、俺の養父になってくれた人がどうしてもって言うからここに来た。それだけだ」
話は終わりとばかりに【忌み子】は教官に声を上げた。
「始めてください!」
「……構え!」
「ちっ。おい! ここでこいつ等に負けたら笑いものにされるぞ!」
各それぞれ武器を構える。全壊犯は槌、そのチームメイトはトンファーを構えるものと、両手剣を手にする者だった。
「んー。というか、さっきあたしが君を笑いものにしたと思うけどなぁ」
「事実をまた抉ってやるなって」
対して、【忌み子】は刀を、魔猫は二本のダガー、紫暗はクナイを手にし、構える。
「……始め!」
教官の合図と共に六人が走り出した。
【忌み子】の少年はすばやく相手を見た。この組み合わせならば、自分は両手剣の少年を相手にしたほうがいいだろうと判断した。
「俺は剣持ってる奴とやる。後はやりやすいと思う奴を判断してやってくれ!」
「了解! ……ちなみに君の見立てではどう思う?」
「トンファー持ってる奴は身軽な方で。残念な奴はどっちでも大丈夫だな」
「同意見! 気が合うねぇ! それじゃ、紫暗。あたしトンファー持ってる奴やるけどいい?」
「……」
「いいってさ」
「わかんの?」
「いや、なんとなく、だっ!」
左手で刀の柄を握り、右手で鯉口を切っていた【忌み子】は、自分が相手にすることにした少年が間合いに入った瞬間一気に抜刀し、その勢いのまま振り抜いた。
「っ!?」
鋭い斬り込みに思わず距離をとるが、その距離もあっという間につめられた。
そのまま【忌み子】はさらに攻撃を仕掛けてきた。
何度も切り結び、何度も離れる。思っていた以上の実力に両手剣の少年は焦り、憤った。【忌み子】の噂は聞いてはいたが自分には関係ないと興味も無く、いざ戦うとなっても自分のほうが上だと思っていた。見下していた相手が自分よりも強い、そう思うと彼から冷静が抜けていった。
「くそっ! 【忌み子】のくせに!」
よりいっそう、剣を握る手に力が篭った。
「さぁて。あたし達もやろっか。よろしくねぇ」
魔猫は斬り合っている【忌み子】達を視界の隅に捕らえながら目の前にいる二人に話しかけると、トンファーを持った少年の方に一気に駆け出した。
「ちょっと待て! お前はおれが」
「……」
自分に見向きもしなかった魔猫を追おうとしたが、その足元に突き刺さるクナイによって足を止められた。
「っ……んの野郎!」
直ぐに目標を変えて、紫暗に踊りかかった。
全壊犯が持つ得物は槌だ。正直魔猫や紫暗のような小回りの効く武器を使う者とは相性は悪い。だがそういう相手との戦い方だって理解している。何も考えないで槌を振るってる訳ではない。
紫暗が次から次へとクナイを投げてくる。それを避け、時には槌の柄で弾きながら果敢に攻めていく。
「(こういう奴には大振りな攻撃は出来ない。くそ、面倒くせえ)」
槌の渾身の一撃を受けたら本来ただではすまないが、訓練場および、闘技場はそういった攻撃を受けた場合の怪我を無かった事に出来る特殊な加護の力が定期的にかけられている。だが重症、死亡という事態は起こらないが、痛みは当然感じが。
そのこともあって彼は全力で槌を振り回したいと思っているが、今の相手にはそれは自殺行為。やはり思いっきり自分の得物を活躍させたく、あまり長くない忍耐が今にも切れそうでしょうがなかった。
ようやく槌の間合いまで入り込み、紫暗がその手に持っていたクナイを投げた一瞬の硬直を狙って、無駄な動きにならないように掬い上げるように振った。
「(これは当たる!)」
確信した全壊犯の目は次の瞬間には驚愕に見開かれた。
ジャラジャラと音を立てて鎖が延びる。出所は紫暗の袖口からで、先端は先ほど投げたクナイと繋がっている。それを確認すると、次は視界が暗くなった。
「見えなっ!?」
紫暗が伸ばしていた腕を鎖ごと引き寄せ、移動しながら体を回転させる。
視界が急に暗くなり、相手を捕らえることができなくなった攻撃はその移動で簡単に避けられ、遠心力で勢いの付いた鎖が全壊犯の体に巻きつく。
「何!?」
再び目が見えるようになり、自分に巻きつく鎖を驚愕の目で見下ろす。鎖が巻き付いており自慢の槌は振るえない。
つっ、と首に刃物が押し付けられる感触がする。
「……くそっ!」
特殊型・闇。
滅多にいない加護だ。もっと大きな使い方もあるが、紫暗はたいていこのような目潰しに使用することが多い。
まずは一人。