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4 問題児の格の違い。

  本文前小話劇場

 NGシーン ~忌み嫌われる存在。より~

【忌み子】が廊下に出る。

魔「あのさ」

忌「ん?」

魔「台本間違えてるよ」

忌「え!?」

ス「すいませーん! そこ右じゃなくて左に曲がってくださーい!」

忌「え? うそ!? これ右って書いてないか?」(台本指差し

魔「んー? ……どう見ても左でしょ?」

忌「え?」

魔「ここまでバカだったんだねぇ……」(哀れみに満ちた目

「今日はⅩⅢクラスか……胃が痛いな」

 教官は実際に胃の上を押さえながら言うが、ⅩⅢクラスのメンバーはほんの数人を除いて聞いてはいなかった。

「はあ。……静まれ! これから戦闘実習を始める!」

 教官の言葉にまずは最前列の生徒が反応し静まる。その後次々と静まっていき、最終的にはⅩⅢクラスのメンバー全員の意識が教官の方に向いた。

「今日は君達にとって高等部進級後初めての戦闘実習だ。まずは一対一の戦闘を……と考えたが、正直言って君達は協調性というものは無いだろうと思い、一対一は次回とし、今回は今後共に戦っていく仲間を知るということを目的として三対三のチーム戦とすることにした!」

 教官が言い切ると同時に周りからブーイングがあがりだした。

「男はチームを組むよりも一対一でやりあった方が相手を知ることが出来るんですよ!」

「そうだ! むしろこいつともし組んだら足引っ張られます」

「なんだと!?」

「あぁ……本当に胃が痛い……」

 教官が空を仰いだ。協調性という言葉はこのクラスには無いと解っていた事だが、こうもはっきりと見てしまうと教官としてもやる気がなくなってしまう。

「本当に協調性がないね、このクラス。これだから問題児ってレッテル貼られて一クラスに押し込まれるんだよねぇ」

 騒いでいた生徒が一斉に声を発した女子生徒を見る。喋ったのは魔猫(ケットシー)だ。

「そういうお前だってこのクラスにいるって事はお前も問題児にカウントされているんだろ!」

「にゃはは! そうだけどあたしの場合、問題児は問題児でも格が違うんだよねぇ」

 魔猫がニタリと笑うとその顔に怯んだのか、数人が後ずさりする。それでもまだ彼女に反論する者はいた。

「問題児に格の違いなんてないだろうが! そもそもおれは教室全壊とかやってみせたぞ!」

 一人が得意げに己がやらかした事件を言う。すると周りはどよめき、あちこちから「アイツが噂の」や「学院にマークされている奴か」とか「威張るところ違う」といった声が上がる。

 それに対して魔猫は余裕を持って対抗した。

「ふふん。悪いけどあたしはそんなバカみたいなことはしないよぉ。……ねえ、ちょっと耳貸して」

 教室全壊犯にちょっとちょっとと手招きをし、呼び寄せる。が全壊犯は怪訝な顔をして、その場から動かなかった。

「別にそこからでもいいだろ。それとも人に聞かれたら不味い事やってるのか?」

 全壊犯が下品に笑った。魔猫はそれでも余裕を崩さず、もう一度言う。

「んー。あたしは別に言ってもいいけどねぇ。……本当に言っていいの?」

「言えばいいだろ? さて、格の違いとはどんなものだよ?」

「……おっけぇ」

 最終警告を彼は蹴った。魔猫の目が獲物を捕らえたように鋭く光った。

「……今から十年前、初恋をした。相手は近所に住む女の子。プライバシー保護のため名前は言わないけどとある少年はその子に告白し、玉砕。断り文句は『気持ち悪いから嫌だ』」

「……んな」

 魔猫が語りだしたのはどういうわけか、誰かの初恋と失恋経験だった。周りは当然何の話だと首を傾げるが、一人だけ唖然とした顔をしている。

「その後ここの小等部に入学。再び恋をするが告白すると悲鳴を上げて逃げられた」

「ちょ、ま」

「またまた好きな子が出来てアプローチをかけるけど、そのアプローチをことごとく切って捨てられ、最終的に『もう関わるな』と錯乱された。さらにその後、隣の席の子を好きになって、その事が相手の耳に入ると相手は先生に『席替えしてください!』と涙ながらに訴えられた。またある時は」

「わあああああぁぁぁぁぁぁぁ!!??」

 突然全壊犯が絶叫を上げて魔猫の声をさえぎった。必死な彼の様子を見て怪訝な顔をしていた周りの生徒達は彼と魔猫を見比べ、魔猫が絵本に出てくる猫のようにニマニマと笑っている顔を見て、今の残念な恋をしていたのが誰なのか検討が付いてしまった。

「ちょ、な、おま」

「だから喋ってもいいかって訊いたんだけどなぁ」

 ニシシと特徴的な笑い方をしながら魔猫は全壊犯を見て言う。魚のように口をパクパクさせるが、彼は何も言えなかった。

「……今の話、本当なのか」

「残念すぎる」

「哀れ」

「うわああああ!!」

 周りから次々と残念な男とされる言葉を言われれば、全壊犯は再び悲鳴を上げてその場にうずくまった。

「えげつねぇ……!」

「精神攻撃、だと……!? 何者だあいつ!」

 魔猫にクラス中から畏怖の念を抱いた視線が集まるが、本人はそんなもの何処吹く風とばかりに何も感じずに飄々としている。

「……まさかアイツが【大山猫】、なのか?」

「何!? あの【情報屋】!?」

「なんだそれは」

 一部の生徒は彼女に心当たりがあったらしい。知らぬ生徒は彼女を知っている生徒からコレから先、彼女に対する対策を得ようと迫る。

「噂あるところに猫あり。可愛い噂から墓場まで持っていきたい秘密まで、なんでも収集する情報通! 学院の生徒だけでなく他の学校生の秘密や企業秘密も知っている! 教師すらも脅せ、一度弱みを握られたらもう逆らえない! このレギアース学院始まって最悪の情報収集者、【情報屋の大山猫(リンクス)】とはあいつのことだ!!」

 一人の生徒が恐怖に満ちた顔で魔猫を見ながら一気に語った。話を聞いたクラスのメンバーは途端に彼女を危険な者として見た。

「なんだと……!」

「えげつねぇ。最高にえげつねぇ!」

「格が違う……!」

 さっきまで彼女の側にいた生徒がこそこそと離れだした。魔猫はそれを大した関心もなく見送った。

「さて。この先平穏な生活を送りたいのならあたしには歯向かわない方が、いいかもね……?」

 この瞬間、魔猫はⅩⅢクラスの超危険人物五本指の一人となった。

「……お前達、私の話を聞けぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 教官の悲痛な声が第二訓練場にこだました。


「あー……。もうチームはお前達で決めてくれ。ただし五分以内にだ。はじめ!」

 完全に投げやりになった教官の声を聞き、生徒は近くにいる者に声をかけだした。ぐだぐだとしていたが戦闘が好きなもの同士、話が合えば簡単に即席チームとして話がまとまる。

 そんな中、魔猫は誰からも声をかけられずに歩いていた。さっきの今で彼女に声をかけることは誰もおらなかったが、魔猫にとっては計算通りに事は運ばれているのだった。

 魔猫は目的の人物の背中を見つけると駆け寄った。

「やほ! さっきぶり!」

 目的の少年に声をかければあからさまに驚いた顔で魔猫に振り向いた。

「お前、何で?」

「にゃは! さっきの暴露話のせいで誰も組んでくれそうにないんだよねぇ。……という訳でさ、組む者がいない同士、お試しチーム組まない?」

 魔猫が声をかけたのは【忌み子】だった。周りの生徒は彼に話しかけた魔猫を驚いた顔で見ており、チームを組もうと言い出した彼女を驚愕の目で見つめた。

「別にいいでしょ? 余った気が合わない奴とチーム組むよりは、ちょっとでも気が合う奴と組んだ方がよくない?」

「それはそうだけど」

「よし! 決まりで!」

 強引に押して魔猫は【忌み子】と組んだ。その様子を見ていた生徒は当然変な目と、恐怖の目で魔猫を見ていた。

「どういう訳だ。【大山猫】が自ら進んで【忌み子】と組むって……!」

「頭がおかしいのか? ……でも、ある意味最悪な組み合わせにしか見えないんだが?」

 魔猫は完全に恐怖の対象として見られ、【忌み子】は軽蔑の対象として見られていた。しかしそんな視線をもろともせず、魔猫は【忌み子】と会話を始めた。

「三人チームだから、あと一人だね! だれ引きずりこむ?」

「いや、必要ない」

「ん? なんで」

 【忌み子】が体を少し横にずらす。そこには制服の上からパーカーを着て、フードを目深に被っているもう一人の少年がいた。

「さっきお前が声かけてくる前に組んだ」

「へぇ。あっさり組んでくれる奴、あたし意外にもいたんだ」

「さらっと失礼だなお前。……ちょっと、昔からの知り合いなんだよ、こいつ。しゃべんないけど」

「しゃべんないの?」

「なんにも。まあとりあえず、こいつの仮名は『紫暗シアン』だ。武器は暗器。隠密行動なんかが得意な奴だ」

 コクリと紫暗の首が縦に振られる。紫暗の説明を聞いた魔猫は急に目を輝かせて【忌み子】に詰め寄った。

「ねぇ! コイツの隠密ってかなり精度高い?」

「え、まあ、そうだな」

「よろしくねぇ紫暗! あたしは『日和』が正式登録されてる仮名で、自称は『魔猫』だよ!」

 急にテンションが上がった魔猫を何事かと【忌み子】が見つめるが、出会ったばかりで彼女の二つ名も知らなかった彼には魔猫の真意はまだわからなかった。魔猫は自身の情報収集力は結構高いものだと自負しているが、それでも限界はある。自分以上にそういったことが得意という者がいて、縁が出来れば使わない手は無い! というのが彼女の考えだ。

「それでは戦う順番を決める! 代表一人、くじを引け!」

「そうだ。君って前線タイプ?」

「俺?」

 教官が声をあげる中、魔猫は思い出したように【忌み子】に訊いた。

「そ。紫暗は隠密タイプで暗器が専門なんでしょ? なら中距離か後方支援が主でしょ?」

 魔猫が紫暗に向けて訊ねると、紫暗は再び首を振った。

「あたしはダガーが専門武器だけど、どっちかって言うと加護を使った支援の方がよくあたしの役割になるんだよね。あ、戦えない訳じゃないから安心してね! ……ともかく、即席とはいえそれぞれの特徴は知ってた方がいいでしょ?」

「まあ、そうだな。俺の専門武器は刀だ。ばりばりの前線型だから安心しろ」

 魔猫の言い分に納得した【忌み子】が自身の使う得物を明かす。それを聞いた彼女はふんふんと頷いて、【忌み子】に笑いながら宣告した。

「じゃあこのチームの代表はあんたで!」

「……は?」

 なんでそうなる。という言葉が【忌み子】から出てくる前に魔猫は声を重ねた。

「なんかねぇ、代表はチーム全体を見れる奴がいいでしょ? あたしや紫暗より君のほうがなんとなくそういうの見れそうだと思ったんだよねぇ。あたしは正直そういうの苦手だし、紫暗は喋んないでしょ? なら、自然と君ってことに。それに、君強そうだから安心できそうなんだよねぇ。ということで、ね?」

「ね? じゃねーよ!」

「ほら、行って来い!」

「ちょ、押すなよ!」

「押すなと言われれば押したくなるのが人の(さが)

「そこまで言う!?」

「……」

「紫暗も押すなよ!?」

「行ってこーい!」

 魔猫と紫暗に勢い良く押された【忌み子】はたたらを踏んで前に出て、文句を言いながらもくじを引きに諦めて前に出て行った。


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