表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/14

2 情報屋の大山猫。

「今日からあたし達三人、お互い持ちつ持たれつ、仲良くしよーね!」

 猫耳帽子を被った少女が目の前の少年に向けてこれまた猫のように笑って言った。

 年齢につりあわない白髪の少年は猫耳帽子の少女と自身の隣に立つフードを目深に被った少年を交互に見つめ、かなり深いため息をついた。


 ……何でこうなった?


 勉学はやる気が起きず、成績は悪いが頭の回転は速いほうだ。白髪の少年は普段しわを寄せない眉間を指で揉みながら、早急にこの現状打破を目的とした解決策を見つけるため数日前の回想を始めた。




 春先。エクストゥーリア随一の名門校に通う生徒達は皆浮き足立っていた。

 エクストゥーリアの聖都に敷居を構えるレギアース学院。

 卒業後は軍に入るか、役人となるか、国の重要職に就く者などを数多く送り出している超有名校。

 いずれこの国を支える一人となる事を夢見て、彼等はより一層勉学および鍛錬に励む。

 ……全員がそう考えている訳ではないが。



 猫耳帽子。猫目。癖毛。小柄な体。

 どこを見ても猫を連想してしまう少女が学院内をテンポ良く歩いていた。彼女はつい先日まで着ていた中等部の制服から真新しい高等部の制服に身を包み、意気揚々と高等部校舎を散策している。

 途中すれ違う生徒は猫のような彼女を微笑ましく見たりと、完全に愛玩動物として認識しているようだったが、まれに彼女を見た瞬間そそくさと視線を逸らし、逃げるように立ち去る者もいた。

 だが少女はそれら全ての視線を無視し、好奇心に満ちた目をあっちこっちと忙しく見ている。

 つい先日までいた所と同じ場所でありながら違う場所。そのちょっとした違いに少女は僅かに興奮していた。新しい環境というのは、彼女にとってのご馳走があちらこちらにある様に見えるのだ。

 猫目をさらに細くし、獲物を探し歩いていたが不意に鐘が鳴る。

 少女は仕方ない、という顔をして自身の教室へと少し足を速めて歩き出した。


 ⅩⅢクラス。そう書かれている教室に少女は入っていった。学院は有名校であるがゆえに生徒の数も当然多い。

 Ⅰ~Ⅱクラスは最も優秀とされる者達。Ⅲ~Ⅴクラスは『武』に秀でた者達。Ⅵ~Ⅷクラスは『文』に秀でた者達。Ⅸ、Ⅹクラスは援護に秀でた者達。ⅩⅠ~ⅩⅡクラスは諜報に秀でた者達。最後のⅩⅢクラスは。

「出席はとるだけ無駄だから省略するぞ。あー、今日はてめえ等が待ち望んでいた模擬戦闘があるから相手を殺さないよう、気をつけろよ~」

「三笠センセー。教師としてその態度はいいんですかー?」

 最前列に座るオレンジ色の前髪を上で止めている少年が面白そうに聞いた。その問いに教卓を陣取る教師、三笠(みかさ)はなんとまぁ面倒そうな顔をして、着ている白衣のポケットからロリポップを取り出し、口に加えながら答えた。

「てめえ等の担任……いや監視か、やれって言われたんだが、はっきり言っておれはおれの研究さえ出来ればいいんだよ。てなわけでおれは形だけの担任だ。……かと言って馬鹿やらかしておれの給料下げるような事するなよ? もれなくおれの新薬の実験台(モルモット)にしてやる」

 教師込みで全員問題児、それがこのⅩⅢクラスだ。学院の手に負えない生徒はここに放り込まれており、問題となる生徒がいない学年ではこのクラスも普通のクラスとして機能するようだが、ここでは正真正銘の問題児クラスのようだ。

「モルモットって……。センセーとしてどうかと思いまーす」

「んあ? おれは大事しでかさない限りお前らに口は挟まないんだぞ? 折角だ。ほらお前、前に出て来い。見せしめとしてモルモット第一号にしてやるよ」

「全力でお断りさせていただきますっ!!」

「遠慮スンナ。コレは一定時間本音が駄々漏れになる薬……要するに自白剤だな。だいたいコレ位で……三十分程度だな」

「三笠センセー!! 生徒が可愛くないんですかっ!?」

 オレンジ色の髪の少年が絶叫した。三笠は無精髭の生えた口元を楽しそうに指で撫で、笑いながら言った。

「いや、お前のこと別に可愛い生徒って思ってないし」

「マッドサイエンティストぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおお!! っおぼろろろろろ……」

 混沌に包まれつつある教室内を猫耳帽子の少女は楽しそうに観察していた。このⅩⅢ教室にいる地点で少女も問題視されていることは確定している。

 猫耳帽子の少女の仮名は日和(ヒヨリ)。自称魔猫(ケットシー)。仮名は正式登録されているもの意外でも名乗ることが出来る。事実、少女は自分の見た目や性格を理解し、この名を使っている。

 少女は情報というものが好きだ。いや、『情報』というより『知る』という事に執着している。それが噂でも、人に知れたら不味い隠し事まで、少女は貪欲に集める。それにより少女は一部の生徒からだけでなく教師からもある意味とんでもない危険人物として見られたのだ。その結果少女はこうしてここにいる。

 情報に関すると少女は猫のような可愛らしいものに見えない。そこから一部の人々によって付けられた呼び名は【情報屋の大山猫(リンクス)】。

 レギアース学院の裏情報を牛耳る情報屋の座を手にしたある意味一番えげつない問題児だ。

 猫耳帽子の少女は主人公じゃないです。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ