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◆6話◆私の婚約者Ⅱ

☆☆☆


 その強引な男と出逢ったのは私が16才の時である。

 5月6日。私は16才の誕生日を迎えた日に、父から婚約者の存在を聞かされたのである。


 久しぶりに帰国して来たと思ったら、そういう魂胆が有ったのかと、三日前から滞在する父の思惑に納得した。

 結婚相手を勝手に決められた事には然したる感慨は無いが、この家の後継となる男が、どんな人物かは気になった。


「どんな方ですの?」

「うん。有能だ。お前より7才年長になるかな?今年23才になる。」

「………23才?随分お若いんですのね。まさか新入社員ではあるまいし。」


 呆れた私に、父は笑った。


「海外暮らしが10年。スキップして一流の大学も出ているよ。」


 今時は海外も日本も無いだろうが、父は昔から海外、特に西洋の文化を好んだ。

 確かに日本の上流階級は懐古趣味が強く、父には合わないかも知れなかった。


「それで、入社は?」

「三年前……かな?面白そうな男だったんで、全部の部所をたらい回しにしてやったんだが。オールマイティだったな。」


 私は内心呻いた。


 それで是非後継ぎに、となった訳だろう。

 ………しかし。断言するが、面白そうだと云うのが本音に違いあるまい。何の目的も無く、面白ずくでした行動を、如何にも実はこの為だったと云って見せるのが私の父である。


 上手く事が運んだから良いが、下手をすれば優秀な人材をダメにしかねないではないか。


「ところで、私は出掛けるから。」

「?……お食事は?」

「西園寺くんと食べなさい。」

「……解りましたわ。」


 最初からその積もりだったのだろう。悪戯盛りの子供ではあるまいに、人を驚かせたくて仕方のない人なのだ。いきなりの言動も、私は慣れてしまって動じる事さえ無い。


「16才だな。結婚を考える頃だろう。西園寺静くんという良い青年が居るから婚約しなさい。」


 先程いきなり云われた時も。


「そう。どんな方ですの?」


 あっさり応じた私である。多少の事で驚いていては、この父の娘をやっていけないだろう。

 父はションボリして出掛けていった。

 二段階に渡って用意したビックリ箱が、両方不発に終わったのが哀しかったらしい。


「世話の焼ける人ねぇ。」


 私は苦笑して見送った。

 驚いてあげられるなら手っ取り早いのだが、如何せん彼は「振り」をするともっと拗ねるのだ。

 何故か気付く父の眸は中々に鋭いのである。


 そして。

 父娘の為の私のバースデイ料理は、婚約者の顔合わせの場となった。


 先ず、彼の容姿に私はポイントを20点加算した。

 あれでもかなりの目利きなので、特に仕事面での人物評価は信頼出来る父である。故に、後日確認するとしても、取り敢えず仕事の方も20点。


 総合100点満点の人物評価だが、今の所はパーフェクトだ。

 美形なのは有り難い。

 鑑賞に耐える顔は、毎日顔を合わせる可能性を持つ相手だから、素直に嬉しい。

 多少喜怒哀楽に欠ける様だし、通常の表情が不機嫌そうだが、特に気にならない。

 鋭い目付きも気に入った。

 きっと子供も可愛いだろう。私に似ても、彼に似ても。


 食事の最中に彼は云った。


「浮気は構いませんが、世間体には気を使って下さい。」


 世間体を気にするのも良い事だ。つまり彼も対外的には仲の良い夫婦を演じる積もりな訳だ。


「はい。つまりそちらも、気を使って戴けるのですわね?」

「…………どういう意味ですか?」


 見下した様な眸付きは、彼がするから許される。傲慢な表情が板についていて、上流階級に入っても充分にやって行ける人だと思った。プラス5ポイント。


「笑い者になるような、派手な遊び方はなさらないでしょう?」

「浮気と云うものは、余り他人に見せるものでは無いでしょう。」


 中々宜しい。

 けれど問題は。


「ひとつお願いですけれど……と云うより。先に申し上げておきますが、お子様が出来た場合には、養育費のみの支給にして戴きますわ。」

「子供?」

「はい。塩野の後継は私が生みますので。」


 これだけは弁えていて欲しいのだ。入婿の子に塩野の跡は継がせられない。塩野の血を継ぐ者でなければ。


「もし私に生めない時は、親戚から養子をとります。」


 キッパリと宣言した。

 男は嗤った。


「なるほど。産ませるのは構わないが認知は許さないと。」

「はい。うちで引き取るのも構いませんが、財は渡せません。」

「引き取る?随分気前が良い事で。」


 気前が良い?

 跡を継がせず、財産分与も許さないと云うのに?

 この人は分を弁えている。プラス20ポイント。


「では私からも云っておく。」

「はい。」

「他の男の子供は生まないで戴きたい。」


 見下しすように云われた。


「当然ですわ。それが契約と云うものですもの。」


 そう。

 男の浮気と女の浮気は違う。

 女の浮気は見苦しいと、私は考えるタイプなのだ。

 他人様の目は男の浮気には寛容だが、女の浮気には厳しいものだ。

 私はそんな事で自分の価値を下げる気は無かった。


☆☆☆


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